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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
30/37

30.大団円には、程遠く

この話でひとまず区切りです。





「遅くなりました、カミラ学園長。大丈夫ですか?」

しばしそんな事を考えた後、捕らわれの身だった学園長に言葉をかける。


心なしか、彼女の目がキラキラしているのは気のせいだろう。……多分。


「ありがとう、ショウ様。とってもお強いのね」


……様付け!?


彼女を戒めている縄を解きながら疑問符を浮かべるショウ。確か「ショウさん」って呼ばれていた気がするんだけど?


「や、様はいらないんですけど」

とりあえず、様付けで呼ばれる事を否定してみる。


「いいえ!そう呼ばせて下さいな」

自由になった両手でしっかりショウの手を握る。


「あの流れるような動き、物怖じしない堂々とした態度!私、惚れ惚れとしてしまいましたわ。まさしく騎士ナイト様!!」


熱弁を(のたま)う学園長に頭痛がしてきた次期『定める者』。


……話を進めさせてくれ……。


頭を抱えたいところだが、あいにく両手は塞がれている。


息もつかさぬ怒涛の褒め言葉のラッシュを受けながら、彼女はふと背後に何かの気配がするのに気が付いた。何かが迫ってくる気配もする。


自分にソレが当たる刹那、最低限の動作で避けた。続いて日頃の鍛錬の賜物か、勝手に体が動く。


反撃。

手が塞がっているため、自然に足が出たのだが……。


「あ……」


丁度その位置が男の大事な部分とは思わなかった。

カミラ学園長の声と重なる。


振り向いて見てみると、股間を押さえて呻く一人の男。


確かこの部屋に入って一番に蹴り飛ばした犯人だったと記憶している。

やはり縛っておかなかったのは失敗だったか。あのまま寝ていればよかったものを。


「て、てめぇ……」

うずくまった男がこちらを睨んでくるが、涙目では迫力がない。


「あ~……、一応すまない」

痛いらしい、というのを聞いた事があったので、とりあえず謝っておく。


危害を加えようとしたのはアチラで、悪いのもアチラにも関わらず。


「男ならやっていい事と悪い事ぐらい解るだろ!」


近付いてきたショウに向かってまだ言い募る犯人。それに微妙な顔をする彼女。


「……残念だが、解らない、なっ」


この黒髪の麗人は文字通り女であって、そこまで知るはずない。


答えなくてもいいだろうが律儀に男に返しながら、彼女は鋭い一撃をその側頭部に入れた。


倒れた男が起きあがってこない事を確認した後、ようやくショウはカミラ学園長に向き直った。


「学園長。すみませんが、外の騎士団に合図をして下さいませんか?そういう手筈にしているんです」


話は後で、と言外に伝えれば、彼女も先程のような事がないとは言いきれないため、素直に頷いた。




「……手紙でクルセルド様が言っておられました」


レッディーフの責任者は、窓から手を振りながら後ろを警戒している外務省副官に話かけた。


「今日、予見はたがえ、未来は変わる、と」


窓の外は茜空。

夕日の端が地面につきそうだった。

何だかいろいろあった一日だと、老女は思い返す。


「それならば、私がこの世界に来てよかったのだと思う事が出来そうです。私の存在でこの世界がいい方に変われたというのなら」


ショウの淡い微笑み。


きっとセド=ラフェアはその為に私をこの世界に呼んだのだろう。

世界の何かを変えるために。


「きっと私の運命は変わったのだと思いますよ、ショウ様。いい方向に」


思わず固まってしまったカミラ学園長。

何とか硬直を解いて、それと判らせないように答えた。


振っていた手を止め、彼女に歩み寄る。


「この世界の理にあてはまらない貴女が、セドラフェアには足りなかったのかもしれません」


では、参りましょう。とカミラが部屋を後にしようとする。

彼女もそれに続く。


「まだ犯人グループがいますので、玄関まで護衛させて頂きます」

カミラの横に並びながら、そう切り出す。


きっと犯人達は突入してきた騎士団の対応の方にかかりっきりになるだろうけれど。


少しでも彼らの手間が省ければいいんじゃないかな?と思い、道すがら拘束していこうと彼女は一応目上の学園長に暗に伝える。

それに「そうですね」と彼女は答えた。


それを受けて、とりあえず扉の向こうにいるだろう犯人に黒板消しを投げつけてやろう、とショウは心に誓った。




ようやく外の土を踏んだのは、今日という日が名残惜しそうに地平を仄かに染めるだけの時間だった。


校舎はその残光により僅かに光っているように見える。


周りには犯人確保に動く騎士団と、人質にされていた生徒や教師陣の姿が、まだ多数見受けられた。


「ショウ様」

そう声をかけたのは、この施設の責任者。

門の方を指さす。


そちらを見ると、大きく手を振って駆けてくる逆光メガネ……もといリディアム。

影になって判らないが半泣き状態である気がする。


その後ろからは、ゆっくり歩いてきてはいるが、こちらを見据えた巨体と青年。


ペパーミントグリーンと薄い桃色の頭は、数刻前2階から見下ろした騎士団トップの二人だろう。


彼らの態度からきっと自分は不審人物と認識されているんだろうなぁ、とショウは内心溜め息。


昼間『導きの園』に来ていなかった騎士団団長が悪いのだが、しなくていい心配をしているのは明白だ。


こりゃあ、ゼロン(外務省)の名前を出して、お灸を据えておくべきかな。


副官に『導く者』の召集を無視したと知れたら、彼はまた地に沈む事になるかもしれないが。

そこは自業自得という事にしておこう。


勢いをそのままに抱きついてきたリディアムをあやしながら、名前を出す予定となった己の上司に向かって心の中で合掌。



すまない、ゼロン。厄介事が確実に1つ増える。



とりあえず、ゼロンの言伝をするために、彼より早く帰れればいいなぁ、と空を見上げた。


この喧騒の中、空の果てよりもずっと向こうにある自分の帰るべき世界を想いながら。




学園ジャックはここで終了です。

いろいろ伏線がそのままだったりしますが、1年間の研修予定なので後々明かされる、予定。

だったのですが、今のところ、続きが書けていません。

よって、小話をいくつか載せた後、更新停止にする予定です。

(いつかは続きを書きたいと思っている)


もし、続きが気になる、更なるタライを!という方がいらっしゃいましたら、評価☆を押して頂くとかなりの確率で、作者がおだてられて木に登る現象が起こると思います。

お願いします。


あと、地味に次回予告って考えるの楽しいです。

今回は無しだけれども。

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