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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
プロローグには、ありえなく
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3.金ダライ、宙を舞って

とりあえず、唱が異世界に行くまでは詰めてアップします。


ジャージ姿での登下校は、学校に近いこの辺りでは珍しいものではなかった。

部活帰りの時もあれば、学校行事でそのまま着替えないで帰るという事もある。まぁ、女子校という事もあり変な趣味のオジサマが多々出没したりしているが、ホームルームで取り上げられたりするぐらいで、この格好が特別恥ずかしがるような服装というわけではなかった。


彼女もまた、よくこの姿で行動しているためか、全く抵抗はない。それだけは今日の出来事の内、不幸中の幸いだったと言えるだろう。

青色を基調として紺と白があしらわれたジャージは、周りの学校ではかなり人気の高いものとなっている。……所詮は、体操着なのだが。


 帰り道は、商店街を抜けて緩やかな坂を上るといった、せいぜい20分位の道のりだ。

走って帰れない事も無いが、急げばまた何か起こるかもしれないと考えた彼女は、普段通り帰る事にしたらしい。


姿勢を正し、前を見据えて歩く彼女の姿は、やけに様になっており威厳すら漂っている。彼女の姿を見た出没予定の変質者がいたとしたら、恐らくその威厳の前に平伏すであろう。

それ程の印象を持っているのだ、彼女の立ち姿は。

モデルとはまた違った華のある彼女が注目されないはずがない。それを知っている商店街の人々は敬意を払って彼女の事をこう呼ぶ。

 大林家の女王と。




交差点の信号が青になり、幼稚園で教えられるような見事な左右確認をした後、いざ道路を渡ろうとしたその時。彼女の耳に聞きなれない音が届いた。


例えるなら、ガラスに小石が当たるような、何か硬いものを破ろうとしている感じの音がパチン、パチンと法則性もなく頭に響いてくる。


唱は最初、また何かに巻き込まれるかもしれないと無視しようとした。

……しかし横断歩道を渡り切った時には、足がそちらに向いていた。

やはり、好奇心の方が勝ったらしい。


2つ角を通り過ぎ、3つ目を右に曲がると、そこはすでに見知らぬ土地だった。

両側は住宅の様で、見る限り壁、壁、壁。

ところどころから覗ける玄関先だけが、人の住んでいる事を示している。


だが、全く人気が無い。

生活の音も聞こえてこない。

ひっそりと、ただひっそりとドラマのセットのような町並みが続いていた。


その中を歩く彼女は、怪訝に眉を顰める。

そんな時間じゃないはずだ。人がいないのは偶然か……?

そう頭の隅で考えた時、一際大きな音がした。

気が付けば、目の前は公園。

誰もいないはずのブランコが微かに揺れていた。


「誰か、いるのか?」


彼女は敢えて、その言葉を音にした。そうじゃないと、人がいない世界に来てしまったような気になりそうだったから。

この時間帯に子供がいないのは、珍しいかもしれないが、ありえない事ではない。

しかし、周りに漂っている気配はどうなっているのだろう?


空気が重い。でも澄んでいる。


まるで冬の早朝、朝靄あさもやの中にいるかのように、涼やかに静寂が漂っていた。

その雰囲気に、公園へ足を踏み入れた彼女が思わず立ち止まった時、



パァンッ



とうとう、何かが破れるような音が辺りに響いた。


反射的に音源を見やると、視界に映ったのは、てっぺんが妙に歪んだジャングルジムだった。

実際には、ジャングルジム自体は何の変わりもないのだろう。

ただ、そこの空間に何かが現れ、視覚に歪みとして捕らえられているのは、間違えなさそうだ。遊具を構成する金属に何の変化も無いのだから。


その歪みが突如、開いた。


空がぱっくりと裂け、黒い闇が青の中に滲み出てきた。底なしの漆黒。見ているだけで引き込まれてしまいそうな。

その裂け目から白い何かが、勢いよく吐き出された。


「うわぁぁぁぁぁっ!!」


子供独特の甲高い叫び声が、公園中に響き渡る。目で落下を追っていくと、ドサッと土煙を上げて地面と派手に正面衝突。どうやら、顔面から着地したようだ。


何かに縋ろうとしたのか、前に伸ばされた腕。

落ちた衝撃なのか、えびぞりの背中。

どこか哀愁の漂う変なポーズで倒れている白い子供が、そこにいた。


そして、その上からさらに銀色の物体が落ちて……。


ぐわんっ!


くぐもった音と共に子供の後頭部に直撃した。

ガランガランと落ちてきた、その銀色のタライ……そう、チタン製であろう金ダライが派手な音を立てている。

子供の体は完全に地に伏した。


何かのコントか?これは。

唱が呆然とそう思ったとしても、誰が責められようか。


「おい、大丈夫か……?」

とりあえず、あまり大丈夫そうではないが、彼女は目の前の倒れた子供に声を掛けた。

恐る恐る様子を見ていると、いきなり子供が身を起こした。


「いっ、たーーーーーいっ!!」


絶叫、とはこのような声の事をいうのだろう。近くにいた唱が思わず耳を塞いだ程だった。


「痛いよ、本当に!何かボクに怨みでもあるのっ」

頭を擦りながら、白い子供は喚き散らす。

確かに怨みの一つや二つ、ありそうな仕打ちだろう。これだけを見れば。


「私は特に無いが……?」

あまりの剣幕に思わずそう呟いた唱。

貴女に聞いていません。そう突っ込む人は残念ながらここにはいなかった。


ふと白い子供が顔を上げた。そして、きょろきょろと周りを見回す。

歪んだジャングルジムを見、周りの住宅を見、遠くに見える小高い丘の上(丁度、唱の家の辺りだった)に目をやり、ようやく隣を見る。


「痛いのか?」

もう一度、彼女がその子供に声をかけた。


ようやく気が付いたように子供は顔を上げ、唱の顔をまじまじと見つめた。頭を擦る手を下ろし、立ち上がる。


「痛くないよ。ちょっと驚いたけど、大丈夫」

服の砂を払いながら、子供はニコリと笑う。その時初めて、唱はその子供が変わっている、と思った。


少し癖のある髪の毛は雲のように白く、快晴の空のような青い瞳。肌は日焼けなど無縁の白さ。当然、日本人には見えない。

さらに、着ているものが問題だった。白いローブのような裾の長い服に、薄い水色のボレロ。その上からマントを羽織っている。


先程の出来事が無ければ、コスプレか何かだと思っただろう。

明らかに異質……。


「ようやく会えた。貴女に」


その奇妙ないでたちをぼんやり眺めていた唱は、その子供の突然発した言葉に眉を顰めた。


何か、長年待ちに待った最愛の人に出会った時のような、嬉しさと切なさが入り混じった響きがあるような気がしたからだ。


その発言をした当の本人は、何かに耐えるように手をギュッと握り締め、眉を八の字にしていた。瞳は涙を流さんばかりに潤んでいる。

しかし、口元は柔らかい微笑。


彼女にしてみれば、いきなりこんな態度をされる覚えもなければ、こんな子供と知り合った覚えも無い。こんな外見的特長を持つ子供だ。1度見たら忘れないだろう。


でも先程の言葉は、明らかに自分に向けられたものであり、『ようやく会えた』という事は、ずっと探していたという事を示している。


「どういう事だ」

唱は少し身構えながら、訊ねた。

たくさんの意味を持った言葉で。

恐らく警戒する必要は無いのだろうけれども。


「突然かもしれないけれど、貴女の力が必要なんだ」

白い子供はゆっくりと、そう口にした。


「本当に突然だな。それに何故私でなければならない?力持ちなら他にいくらでもいると思うが」


無視する、という選択肢もあったかもしれない。今日一日あった事を考えると、それが当たり前ではないだろうか。こんな変な事を言われ、ハイそうですか、とは普通の人なら答えない。


彼女は何かの勧誘かと考えたが、それなら、わざわざこのような登場の仕方をして、相手に不審を抱かせる必要があるのか?それにこんな語り口では、勧誘も何も出来ないだろう。


そう考えたのは一瞬の事。押し売りなら断ればいい。

しかし本当は、そんな考えより何より、その子供の泣きそうな表情が気になった。どうして、そんな顔をされなければならないのか。


だから、尋ねた。理屈を内に押し込めて。

少々的外れのような気もするが。


「貴女じゃないといけないんだ!腕力の事じゃない」

子供が少し頭を振る。髪が微かな音を立てて揺れた。


「貴女には、未来さきを定める力がある。それを驕らず使用出来る強さも持っている。……今のボクには、それが足りないんだ」


辛そうに顔を下げた子供は、振り絞るように言葉を吐き出した。


「ボクは異世界。こことは別の世界の意思。ボクを助けてほしい」



いや、ただ落としたかったんだ。



次回予告

 空の裂け目から落ちてきた子供。求められる助力は何を意味するのか。

彼女の選ぶ道が世界の動き出す鍵となるのか?

次回この空の果てよりも「迫られる、選択」

選択はいつも、すぐ傍にある……。


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