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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
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29.もしも、その時……

前半、導きの園の2人視点です。




ハッと顔を上げた瞬間に、机がガタリと鳴った。


その音に机の端で書類にサインをしていた親友兼護衛が、そちらに視線を寄越す。


「ショウ、が……」

宙をさまよう視線にそれは映っていない。


「どうしたんだ、クルセルド?」

ただならぬ様子の親友兼上司に声をかける。

「彼に何かあったのか!?」


彼――ようやく現れた『定める者(仮)』の異世界人。その名前を親友は確かに呼んだ。


その言葉にゆっくりと紫水晶のような色の瞳をこちらに向ける。


「デュラン、私がショウをレッディーフに行かせたのは知っているよね?」


どこかほうけたような口調で銀髪の青年に返す。


「あぁ」

デュランはわざと口で肯定の言葉を告げた。そうでないと親友に届かないような気がして。


「私の視た未来ではね、デュラン」

また何もない空間に目を向ける。


「今日、レッディーフ学園に正体不明の団体が押し入って、制圧」


その言葉に彼は目を見開く。

かなり前に自分の耳に入ってきた情報と寸分違わない。彼にはいつものように鎮静化してから言おうとしていたため、まだ言っていなかったはずだ。


「その最中、学園長であるカミラが命を落とすんだ……」

「カミラ学園長が……?」


僅かに目を伏せたクルセルド。固まるデュラン。


レッディーフの学園長とは何度か言葉を交わした事がある。

纏う雰囲気は穏やかなのに、かなりのお節介焼きで、彼は少し苦手なのだ。


お見合い話まで持ち込まれた日には、『導きの園』から摘み出そうかと思った程だ。

しかし、仮にもプリズミカと並ぶアーティオス大陸の重要機関の長。実行する事は不可能である。


それ程まで重要な位置づけの彼女が死ぬなんて、どれ位の影響が出るだろうか?


もしも、なんて考えるべきじゃないが、この世界の研究が1年以上後退するのは明らかだ。彼女の研究は、様々な理論の礎となっている。

それを失うとなれば大打撃を受ける事になるのは間違いない。


「うん。その団体の要求に最期まで応じなかったから……」

クルセルドの顔が少し辛そうに見えた。


大丈夫なのか?お前は。


デュランは親友のその表情に問いただしたくなった。


きっと、その場面を視てしまっているはずだ。そこまで正確な予見なのだから。


しかし『導く者』が答えをはぐらかす事は確実。

普段の性格から考えても「ガラじゃないよ」と言って笑い飛ばす可能性が高い。


だからこそ、『衛る者』として自分がココにいるのだが。


「でもね」


少し間を空けて、クルセルドがしっかりとした声で続ける。

開かれた瞳が親友を映す。


「さっきショウが『定める力』を使った。学園の方からはっきりと伝わってきたよ」


「お前の予見が外れるという事だな」

いつもの調子にホッとしたデュラン。


ショウの事もそうだが、クルセルドの事も心配だったから。

……普段が普段だから余計に……。


「うん。彼に事態を変えようという意志がある限り、最悪のシナリオを辿る事はないね」


勝ち誇ったイタズラっ子の様に笑う彼に、先程の影はない。

余程信用しているのか、彼を。


それにしても、『導く力』を使う時のどこか神ががり的な雰囲気と普段の軽薄な性格の中間ぐらいの性格にならないものか……。

デュランは頭の片隅でそう思った。

無理だ。考えられない。


「未来が変わる……。セド、どうか……」


彼女と行く末に祝福を。

その『導く者』の呟きは声にならず、『衛る者』にも聞き取られずに、空間に消えた。







場所は戻ってレッディーフ学園・学園長室の一角。


目の前で起こった事に呆然としたのは、その男だけではなかった。起こした本人もポカンとしている。




その横に派手な音を立てて転がる……タライ。




あ、今度は真鍮製だ……。

どうでもいい事を思うのは、現実逃避の証拠。


あの瞬間、体を捻りつつ攻撃を避け、再び得物を持つ手元を狙って蹴りを放ったショウ。


カウンター気味だったにも関わらず、また少しの差でダメージには至らない。


体勢を整える為に彼女は両足を床に付けた。


武器を持っている相手に対し、自分は無手だ。基本的に不利な状況ではある。

このままでも倒せない事はなさそうだが、攻撃に重点をおくためケガも覚悟しなければならない。

そんな事になればゼロン辺りがウルサイだろう。


第一、カミラ学園長がいる。長引かせるわけにはいかない。


一瞬にしてショウは状況を読んだ。

こういう事に関して酷く冷静な自分を、今日ほど有り難いと思った事はない。


そして閃光のごとく次の手を考えた後、屈んだ状態からアッパーを狙いつつ、賭けに近い手段、神頼み……ならぬ世界の意志に頼んでみた。



一瞬でいい、隙があれば!


「『力』を貸してくれ!セド=ラフェア!!」



次の瞬間、目の前が光で白く塗りつぶされた。

驚いた相手が半歩身を引いた気配がする。

そこに大きな音が轟いた。




バコーンッ




そして、冒頭に至る。


隙……というか、呆気にとられていた。

しかも男だけでなく、その場にいた全員。

部屋の時が止まったかのようだった。


セド=ラフェア……。まだ根に持っていたんだな………。


ショウはあまりの馬鹿馬鹿しさに気が遠くなった。


でも、隙は隙。

気持ちを切り替えるかのように利き足にグッと力を入れる。腕を大きく引く。


「何をした!?」


犯人が叫ぶ。

こちらに視線が及ぶ。

彼女の体勢を見て、ハッと気付く。


「別に何も?」


すでに遅し。

彼女の拳は真っ直ぐに男の鳩尾へと吸い込まれた。


まさか、自分に向かって落ちた物体が『定める力』、元を辿れば世界の意志によるものだと誰が思うだろうか。


入りどころがよかったのか、一撃昏倒した男を見下す。彼女は残っていた息を浅く吐きながら、男の問いに苦笑した。


ものを選べ。世界の意思……。


じゃあ洗面器ならいいのか、という疑問は無視をする。




タグを再び回収してみました。

次回、ラストです。



次回予告

世界を超え辿り着いたこの世界。黄昏はあの時の空と変わりなく。

私はここにいるから。その言葉は届かないけれども。

次回この空の果てよりも「大団円には、程遠く」

選択はいつも、すぐ傍にある!

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