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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
28/37

28.口は、災いの元

ラストスパートなのに短めとは、これいかに。



もう一人の子分はすぐ側にいた。確実にこちらを視認している。

親分の制止も聞かず突撃してきたのだろう。立てこもられるよりマシだけど。


「いたぞ!」


まずはリーダーに潜入者の存在を知らせるかのように男が声を上げた。妥当な判断だ。


続いて、こちらに向かってくる。

それがダメだとショウは思った。


「相手の実力が未知数だった場合……」


片手斧を振り降ろすのを腕の動きで察知。左に避ける。

空間を鉄の塊が通り過ぎていく。


「一度退いて仲間を呼ぶのが上策」

軸足を払いながら、彼女は言う。


「交戦するのは下策……」

倒れた相手に対し、少し間を空ける。

そして、

「ただし、実力を読み間違えない事が前提!」


全体重をかけてドロップエルボー。

さっき蹴りの方がいいかも、と思ったのはどこに行ったのか。




体を起こし、服装を整える。

完全に入ったのか、男が立ち上がる気配はない。


またセロハンテープを巻いておきたかったが、相手にこちらの存在がバレているため、そんな時間はない。

何より手元に残っていた未使用分は、さっき投げてしまった。


やれやれと肩にかかる髪の毛を払う。


出ていくか。

リーダーと思わしき犯人が何かしでかさないといいが。


カッと音を立てて、ショウはその空間に姿を見せた。そしてカミラを盾に捕るその男に目を合わせる。


「彼女を返してもらおうか?」


外から聞こえる騎士団副団長らしき説得の声が怒声になっている。

団長は……あ~、やられたんだろうなぁ。


彼女の意識が僅かにズレているのにも気付かず、犯人はニヒルな笑いを浮かべた。


「そうもいかないんでね。コイツは大事な金蔓だからなぁ」

カネヅル、か。だったら手を上げないでほしい。


「つまり、誰かに雇われたわけだ」

そうでないとカネヅルなんて言わない。そう言うと男は言葉に詰まった。


ふむ、図星か。


まぁ首謀者を聞き出すのは恐らく外で倒れている騎士団長の仕事であって、彼女の仕事ではない。


「そんな事は私には関係ないがな」

犯人の緊張具合を見て彼女が笑う。

それに騎士団ではないのか?と内心戸惑うリーダー。


「ただ、女子供に手を出すのはいかがなものか……」


このままじゃあ、男が学園長を離す可能性は限りなく低い。

何かないか?

話しながらショウは打開策を考える。


取り押さえる?

この距離じゃあ、遠すぎる。


時間を稼ぐ?

助力が期待できない今、状況が悪くなるだけだ。


説得か?

身代金なんて用意できるのか?プリズミカ。現状じゃあ応じそうにもないし。


リスクのある賭けなんてしたくないんだけど、これしかない!


彼女は覚悟を決めた。

密かに資料の山から拝借していた文鎮を握りしめる。


……勝負は一瞬だ。


「何だか知らないが、こんな事は止めた方がいい。碌な事にならないぞ?」

あくまで説得の姿勢を見せるショウ。


「そんなの、百も承知さぁ。リスクが高いが実入りはいいってね!」


男の横でカミラ学園長が恐怖に身を竦ませる。


「カネヅルだか人質だかその状態じゃあ判らないが、彼女がいる状態で逃げきるなんて至難の業だ。大体、この建物の周りを騎士団が包囲しているのを知らないはずないだろう?」


出来るだけ冷静に語りかける。それに鼻を鳴らす相手。

「はっ。あんな無能なヤツラに捕まるわけねぇ。抜け道なんざ、いくらでもあるさ」


滅茶苦茶侮られているぞ、騎士団。……当然といえば当然だけど。


犯人は逃げる気満々だ。

溜め息をつく。そしてグッと息を吸う。


その瞬間、彼女は不意を突くように、極力少ないモーションで手の中の物を投げつけた。


狙いは男の手元。

同時に走り出す。


犯人達のリーダーは突然投げられたソレを己の得物(こちらは西洋風の両刃の剣だった)でいなす。

だが、それはただの時間稼ぎ。


一瞬出来た隙に、ショウは相手の懐に飛び込み、カミラ学園長の座る椅子を倒す。

出来るだけ気を使ったつもりだが、倒れる衝撃は許して欲しい。そこまで考えていられない。


とにかく彼女を犯人から引き剥がさない事には、こちらも攻撃するわけにはいかないのだ。


そして、そのまま男に突きを繰り出す。

しかし相手もあちらの親分だけあって、すぐさま蹴りを入れてくる。

何とか片腕で受け止めるが、力の差なのかショウがよろめく。

その反動を利用して、蹴りを放つが僅かに衣服に掠っただけだった。


響兄さんなら、ここで確実に攻撃を当てるんだろうな、とその掠った衣服を見ながら彼女は思った。


技術云々よりリーチの差が大きい。


一般女性よりは背が高いと言えども、体格のいい男性には負けるのだから。


今はそんな事を気にしている場合ではない。


床に手を付いて今度は起きあがる勢いを使ってドロップキックを見舞う。それは両刃の剣に当たり、ガキンと金属音を立てた。


刃が返され彼女に向かってくる……。




「『力』を貸してくれ!セド=ラフェア!!」




口が(わざわ)っているのは、犯人か、外でやられてしまったガルバか……。



次回予告

これが世界の見せた未来。変わったものは何だったのだろう?

運命を引き裂く銀の輝きが、黄昏の空に舞う!

次回この空の果てよりも「もしも、その時……」

選択はいつも、すぐ傍にある……。


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