27.その瞳に、飛来するもの
ショウのショウによるショウのための『定める力』の活用法。
ドアノブに手をかけ回す。
カチリ僅かな音を立てて、ドアのロックが外れた。鍵はかかっていないようだ。そのまま扉を開く。
その拍子に何かが頭上から落ちてきた。
何だろうとそれを目で追うと、それは真っ白にされた黒板消し。
仕掛けられていたのが室内だったため、扉を開けた状態のままのショウに当たる事はなかった。ただ、それの落ちた場所にクッキリと跡が。
何なんだ、この受け狙いな仕掛けは。
ひっかかったからといって、何のダメージもない。
ショウ、犯人の親玉と対決する前に微妙な気持ちになった。
……仕掛けの意義は、とりあえず置いておいて、彼女は室内を見渡す。
そこは資料と実験道具に囲まれた大きな空間だった。人はいない。
さすがにこんな場所にはいられなかったのだろう。歩くスペースしかないのだから。
……そう、扉を開けるとそこは見事に学園長室が広がっていた。
ショウの『定める力』の考え方は間違いではなかったようだ。
よく考えればコレって、どこで○ド○と似ているなぁ。
目的地がはっきりしていないといけない分、どこ○も○アの方が使い勝手がいいと思うけど。
今の状況と全く関係の無い事が彼女の頭の片隅をよぎった。
それも今は放っておいて、恐らく犯人達は片付けられた、部屋の奥にいるのだろう。
部屋の奥から僅かに声が漏れ聞こえてきているのがそれを裏付けている。
そこは本棚で区切られた場所だったので、こちらの位置は見えない。
もちろん、こちらからも見えない。
ショウは後ろ手に扉を閉めた。そして鍵もかける。
実際の学園長室前の廊下に見張りがいないとも限らないから。気付かれても時間稼ぎにはなるはずだ。
そしてようやくショウは絶対掃除した方がいいぞ、と言いたくなるその部屋を足音を立てないように歩きだした。
履いているのがブーツである事が悔やまれる。シェリルさんに文句を言っても仕方ないけれど。
それにしても遮蔽物(実験道具や机など)があってよかった。隠れる場所には困らない。
まぁ、この部屋にいる犯人達はカミラ学園長にかかりきりのようなので、気付かれにくいだろう。
そのスペースに行くまでは、だが。
仕切りにしている本棚の近くまで来ると、話し声がはっきり聞こえるようになってきた。
「いい加減、言いやがれ!『赤の結界石』はどこに隠していやがる!!」
どうやら、犯人のリーダーのようだ。
「知りません!そのようなもの聞いた事もありません。何度言ったら解るのです!?」
凜とした学園長の声が聞こえる。
また知らない単語が出てきたぞ?
アカノケッカイセキ?
何か大事なものみたいだな……。
ショウは後で誰かに聞いてみようと思った。
それよりも、この学園ジャックは声明を出すためのものではなく、何かを探すためのものだったようだ。
そっとスペース内を伺う。
中にはカミラ学園長の他に3人の男達。それぞれの得物を手に彼女を脅している。かなり苛ついているのか、それを何回も振っている。
彼女は腕を後ろ手に縛られ、椅子に座らされていた。この状況が辛いらしく、顔色が冴えない。だが、まだ手は出されていないらしく、目立った外傷はない。
「この後に及んで、吐かないつもりか!」
横に控えていた犯人の一人がとうとう痺れを切らしたのか、武器を持たない方の手を振りかぶった。
殴られる!?
そう判断したショウの対応は早かった。
次の瞬間、その男の頭に狙いすましたかのような一撃が放たれた。
すこーん
バカにした感のある軽い音がした。
何だ?と思い彼らはその物体を追った。
それは床をコロコロと転がっている。真ん中に穴の開いた透明な物体だ。
チャクラムのような武器なのか?いや、その割に殺傷能力はない。
続いてもう一度何かが後頭部を襲う。
すこーん すこーん
今度は2連撃だった。
その名はセロハンテープ。『定める者(仮)』に召還されしモノ。
もちろん彼らが知るはずはない。
「誰だっ!」
3回も当てられた男は、このスペースの入り口を睨む。
イライラしている時にこの出来事は、火に油を注いだようなものだった。
だが、その問いかけに返す者はいない。
男は自分のボスを仰ぎ見る。見られた方は頷く。了承の意。
それを踏まえて男は武器を構えて入り口へと注意深くにじり寄る。
誰かが出てくる様子はない。
後3歩、2歩、1歩……。
バッと本棚の裏を見る。
そこは入ってきた時と同じ雑多に散らかった空間があるのみだった。
逃げたのか!?
そう思った時、側にあった机の陰から黒いものが躍り出た。
反射的に反応して己の武器――段平のような刀状のものだった――を、それに差し向ける。
その軌道を読んでいたのか、黒い影は剣閃が迫る前にサイドステップで避ける。
その時、その影の顔が見えた。
ゆっくりと靡く黒い髪。
熱い何かを秘めた底の見えない瞳。
引き締められた口唇の端が上がる。にやり、と。
スローモーションのような刹那。
時が動き出したと同時に男の体はそちらに引っ張られた。
急に武器を振るった事による反動だ、と理解するまでにまた一瞬。
その隙を影は見逃すはずもなく。
どっ。
自分に向かってくる反動を利用して、さらに体の回転を活かしカウンター気味の突きを繰り出した。
男が軽く浮き、本棚の陰からスペース内に戻される。
そこへさらに蹴りが入れられる。
その一連の動きは本棚の裏で行われた。
さて、これでもう一人こちらに来そうだなぁ。
姿を見せていない分、向こうは焦っていそうだし。
沸点低そうだし。
ショウは先程男を殴った手をプラプラ振りながら、次の行動を予想する。
流石に大の男を吹っ飛ばす程の攻撃は、自身にも衝撃がきている。
本当に飛ぶとは思わなかったが。
固い分、ブーツで蹴った方がいいかもしれない。
そう考えた時、本棚入り口にある資料が音を立てた。
……思ったよりも早かったっ。
セロハンテープは万能なのです。(2回目)
次回予告
ついに会い見える、両者。ぶつかるのは純粋な力。
一瞬先は、己の力で掴み取る!
次回この空の果てよりも「口は、災いの元」
選択はいつも、すぐ傍にある……。