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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
25/37

25.時に大胆に、時に繊細に

セロハンテープ活躍中。

本当は検索タグにも入れようかと思った。



 ひゅっ、と空気を切る音がしたかと思うと、そこにいた男が倒れた。


「ふぅ、広いっていうのも考え物だな」

ちょっとした緊張からくる胸の重い空気を吐きながら、ショウはそう呻く。


現在、ようやく1階へ続く階段にたどり着いたところだ。


先程のように犯人グループに遭遇する事これで3回。

1回目は見つからずにいけたのだが、2回目の方は最初の犯人達と同じ末路を辿った。


……要はセロハンテープぐるぐる巻きである。


リディアムがその度に顔をひきつらせる。あの音と用途に嫌悪を抱いたのだろう。


私だって、悪いとは思うけど……。

軽く謝りを入れ、足下の犯人をまた拘束にかかった。




 「さて、と」

立ち上がったショウはリディアムに向き直った。


「恐らく犯人たちは正面入り口を押さえている事だろう。確か狙い目は左側の奥の勝手口だったな?」


それにリディアムが頷く。

「うん。正門からちょっと奥まったところにあるから、多分人も少ないと思う」


二人は階段を降りきり、廊下の左右を確認する。遠くの方で人影が動いていたが、こちらまでは視認出来ていないだろう。


極力音を立てないように早々にその場を離れる。上から人が降りてこないとも限らないからだ。


 窓から差し込む光は夕暮れの気配を見せ始めている。

後、一刻もすれば沈むかもしれない。


こちらの世界の夕暮れを片手で足りる程しか見ていないショウには、まだ時間を計る指標にする事は出来なかった。時間の流れが多少違うのかもしれない。


それはさておき日が落ちるという事は、だんだん視界が悪くなるという事である。


そうなると、脱出する側のこちらとしては有利になるが、外で包囲をしている騎士団には状況が悪くなるだろう。


闇に乗じて犯人が攻撃を仕掛けてくるかもしれないし、また逃げるかもしれない。

焦り、というものが出てくる可能性もある。


騎士団というくらいだから、荒事には多少慣れているだろうけれど。事を荒立てない保証はない。


だから、闇が迫りくるのはいい状況とは必ずしも言えなかった。

まあ、電気がある世界の住人のショウよりは、闇が身近なのかもしれないが。


途中でばったり出会ってしまった犯人を伸しながら「私って意外と都会ッコ?」と苦笑する。その様子に同行者の彼は首を傾げた。




 リディアムが廊下を曲がるように言ったのでそこを曲がれば、中庭がすぐそばに見える渡り廊下になっていた。

こんな緊急事態でなければ、のんびりと眺めてみるのもいいかもしれない。


プリズミカほどではないにしろ、庭園のようによく手入れされているのが遠目からでも判る。鮮やかな色彩は無いが、大小の木々が無造作にみえる計画性で配置されている。


これを利用して逃げる事が可能じゃないだろうか?


上の階からも大きな木の枝が茂っているので視界を遮っている部分が多々ある。


「リディアム、ここから正面に抜ける事は出来るのか?」


彼女の急な質問に少年は豆鉄砲を受けた鳩のような顔になった。

「あ……、うん。本来は袋小路になっているんだけど、学生しか知らない抜け道があるんだ」


初めて来た人にそう言われるとは思っていなかったのだろう。抜け道という辺り、役人や教師陣には内緒の道らしいから。


「じゃあ、リディアム。そこから正面に回って、その騎士団とやらに保護してもらってくれ」


そのショウの一言にリディアムがさらに目を丸くした。

「どうして!?お兄さんは?」


当たり前と言えば当たり前の言葉。それに彼女はニヤリと口元を歪めた。


「私は、このまま引き下がるのは嫌なんでね。ちょっと奴らをかき乱してやろうと思う」

その堂々とした物言いは、彼にはどのように映っただろうか。


半分本音だ。

この状態のまま膠着状態になるのは、非常にマズい。


自分が今日もらってしまった肩書きから言って、おそらく長引けば対外的にも影響が及ぶ。

それに学園長に関して感じた嫌な予感。

あれは『定める力』というよりも、この世界に来る事になったあの時の感覚『導く力』に近い気がする。


という事は、ここに来る原因を作った『導く者』クルセルドが、ショウという存在を使って何かを変えようとしているのかもしれない。


今度会ったら、問いただしてやる!


ショウ、密かに決意。

そのために今自分に出来る事は、逃げる事ではない。

それは……。


「リディアム、騎士団長に伝えてほしい事がある。……私がカミラ学園長を助け出す」


状況を打開する事だと思った。


ショウの言葉にリディアムが不安げに見上げてくる。


「危ないよ、お兄さん。そりゃあ、お兄さんが強いのは判ったけど……」

でも、一人じゃあ……と口ごもる。


その彼の大きめの帽子を少々乱暴に撫でる。

「何も犯人グループ全員を相手にするんじゃないんだ。私だって無理なら逃げる」


そう言って、彼に目線を合わせる。

「出来ると思ったから私はやろうと思う。後で後悔しないように」


彼女の直視にまだ耐えられないのか、リディアムは顔を真っ赤にしている。

それを無茶をして怒っているのかな?ぐらいしか思っていないショウ。

そのすれ違いに気付く第三者は残念ながらいない。


「……わかったよ」

何とかそう絞り出したのはリディアムだった。少し視線をはずしつつ続ける。


「でも、約束して。今度必ずボクと勉強会するって!」

本来よく回る頭を何とか動かして、彼はそう提案した。


それに彼女は一瞬虚を突かれた顔をしたが、すぐに笑顔になる。

「ああ。願ったり叶ったりだ」


リディアムは本当に聡い。

「無事に帰ってきて」とか「ケガしないで」とかいう、言われる側からすると守るのが無理だろ、というような言葉は言わなかった。


今からする事を思うと、ケガをしない保証はないから。

泣かれたりするより、遙かに大人な対応だった。


「とにかく。カミラ学園長を助けたら、彼女に合図してもらう。それで騎士団に突入してもらってくれ」

「うん。言っておくよ」


そう言うと彼は、秘密の出入り口がある方に走っていく。これ以上いても、止める言葉しか出ない気がしたから。


だが、この時、彼は忘れていた。


彼女と出会った時、彼女がどのような状態だったのかを。





重ねて言いますが、ショウは方向音痴ではありません。



次回予告

舞台の裏で静かに動き出す彼等。ゆっくりと、確実に。

彼等の役目は誰にも知られる事はなく。

次回この空の果てよりも「親の、心境」

選択はいつも、向こうから転がり込んでくるんだっ!

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