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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
24/37

24.事件は現場で、起きていた!

タイトルで誰が出てくるのか判ってしまう件。

そうです。彼です!


ユニークが500を超えました。皆様のお陰です!



男達の手足とついでに親指同士をセロテープでグルグルに巻いて、口も塞いだ後、彼女等はようやく脱出を試みる事となった。


お供に徳用セロハンテープの半分を携えて。




 長い廊下を進んでいると、遅れないように繋いだリディアムの手が冷たい事に気がつく。


「リディアム、緊張しているのか?」

そう笑いかけると、彼は曖昧に「まぁ……」と返す。


日常こういうシチュエーションに出会う事は、異世界とはいえ少ないだろう。

思えば私も……。

とショウは自分の人となりを考えた。


お父さんと兄さんに鍛えられてなかったら、きっとリディアムのようだったに違いない。

と、今ではありえない状態を想像する。


 彼女の家族は揃って格闘マニアだ。

二番目の兄はまだしも、父親と一番目の兄は相当な熱の入れようで、家に道場まで作ってしまったくらいである。

よって、彼女も小さい時からいろいろな格闘技に触れ合っているのだ。


格闘技といっても、これといった固定の流派、武術を持たず、一般的なものからマイナーなものまであらゆる武術を幅広くかじっている。


剣道からカポエイラ、果てには太極拳、忍術なんてものも。


したがって本人は護身術程度と思っている格闘術も、家族と比較しているからであって、本当はそこらにいる大人に負けない程の腕前である。


父さんのプレッシャーに比べればこんな物。とショウは苦笑する。

その分には、家族に感謝しなければならないだろう。


「こんなもの、慣れなくていいんだ」


ましてリディアムは格闘技なんかに縁がなさそうな文系の学生だ。

少し幼く見える容姿と気丈に自分に着いてくる様子を見ていると、そんな荒事から出来るだけ遠ざけてあげたくなる。


なんだか、私が男でリディアムが女みたいだなぁ。実際は反対なんだけど。


自分の考えに苦笑をもらすと、隣の少年が慌てた気配がした。


「ボ、ボクは大丈夫ですから、気にしないで下さい!」


どうやら彼には落ち込んでいるように見えたらしい。

それに「ありがとう」と出来るだけ穏やかに笑いかければ、今度は顔を赤くしてそっぽを向かれた。


恥ずかしかったのだろうか?


まさか自分の笑顔にやられたとはさっぱり思わない彼女は、その行動に小首を傾げた。




 そんな時だった。校舎の外から大きな声が響いたのは。


「あ~、あ~。犯人に告ぐ、犯人に告ぐ~」


大きい割には緊張感のまったくない、というより面倒だという感情をありありと含んだ声は、刑事ドラマではありきたりな台詞を吐いた。


横にいる黒髪の訪問者の顔が、声の上がった校庭の方に向けられる。


リディアムはその隙に大きく息を吐いた。

彼の笑顔は心臓に悪い。

今の状況とは反対の理由で。


さっきまで、自分の能力について悩んでいた(とリディアムは思った)悲しげな仕草から微笑まれてしまうと、どうしようもない。思わず目を逸らしてしまった。


彼は強い。いろいろな意味で。


少し眼鏡を押し上げる。

こんな時にショウがいてくれる事をセドラフェアに感謝しよう。


「リディアム」


いつの間にか廊下に備え付けられている窓から外の様子を伺っていたショウが彼を呼んだ。


「あいつは誰だ?」

そう言って、彼女が指さしたのは、鮮やかなペパーミント色をした頭だった。


軽くウェーブのかかった少し長めのそれは、頭頂辺りで縛られ噴水のようだ。

その人物がメガホンらしき道具(この時、ショウなら拡声器と言ったであろう)を口にあて、だらだらとやる気のない説得をしている。


リディアムには見慣れた人物であった。


「あの人は騎士団の団長のガルバさん。セラフェートの『駆ける者』でもあるんだ」


よく見回りと称して町をブラついているため、彼はセディラタの町中では馴染みの存在なのである。


「あぁ、アイツが青○かぁ」


ショウはその答えにやけに納得した。彼が『導きの園』に姿を見せなかったセラフェート最後の一人という事になる。


「お兄さん。アオシ○って、何?」

リディアムはショウの漏らした言葉を聞き逃さなかった。


それに適当な言葉を返そうと口を開いた瞬間、階下での説得の声のボリュームが上がった。


「そろそろ出てきた方がいいぞ~。でないと、オレの隣のおっかないオニーサンがオマエ等、半殺しだぞぅ」


それに、騎士団長の隣に控えていたピンク色の頭が動いた。

副官だろう。そのウルフカットが僅かに逆立っている気がする。


「団長……、説得になっていません」

そう言うと同時に、いつの間にか手に持っていたハリセンを上司の頭に振りかぶった。

盛大な音が、自分達のいる2階まで届く。


「……あんなので大丈夫なのか?」


これまたセディラタでは名物化されている騎士団トップ2人による追いかけっこを眼下に眺めながら、ショウは思わず呟いた。

痴話喧嘩みたいな悪口まで聞こえてくる。


「……一応、仕事はしているよ、一応………」


初めて見る異世界からの旅人の感想はあまりにも当然のものだったので、この町の住民であるリディアムは苦笑気味にそう言うしかなかった。


仕事は真面目にしているのだが、普段の態度がああでは説得力がない。


「じゃあ、それを信じるか」


そう言うとショウは窓から離れた。それに慌てて付いていく。


「リディアムをそっちに逃がすから」


追いついて、ちらりと見たその顔は真剣そのものだった。




街の人達の騎士団の印象は、『いなかったら少し寂しい、騒いでいる人達。でも仕事はちゃんとしてくれる』です。



◆ガルバ

セラフェート『駆ける者』、騎士団団長。

ウェーブがかったペパーミントグリーンの髪、深緑色の目。25歳。


◆ウィルド

騎士団副団長。

薄桃色の髪、赤い目。

ハリセン常備。



次回予告

闇に身をやつし、落日の中を駆ける。

未来さきを定めるために、今出来る事とは。

次回この空の果てよりも「時に大胆に、時に繊細に」

選択はいつも、すぐ傍にある……。

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