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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
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22.とおりゃんせ、とおりゃんせ

学校っていえば、曲がり角で異性とぶつかる、とかありますが、実際、起こらないし、ドキッとする展開になる事はなかなか無いんじゃないかと思います。


今回の場合、メタル○アな感じになりそうですが。  !




行きはよいよい、帰りは怖い。


頭の中で流れるフレーズに「どうせ、行きの時も迷ったさ」と半分自棄になっているショウは、現在学園の2階を彷徨っていた。


言わずもがな、迷ったのである。


彼女の名誉のために明記しておくが、彼女は方向音痴ではない。

それほど入り組んだ内部構造をしているのだ。似たような場所が多いのもその一因となっている。


ある程度までなら道のりを覚えていたショウも、これには参ってしまった。こっちと思う方に歩いてみたが、覚えのある通路は確認できず。


またリディアムみたいな生徒もしくは先生を探した方が早いかもしれない。が、広い校舎の中、そうそう出会うものでもない。


 やれやれと頭に手をやった時、それは聞こえてきた。




何やら階下から喧噪と荒々しい足音。


       制止をする声。


 指示をしているような声。


           何かが壊れるような音。


生徒のものだろうか悲鳴まで響いてくる。




これはただ事ではない。

ショウは少しでも状況を知ろうと立ち止まり、注意深く聞き耳を立てた。


「……通り、お前等…2階に……。………ババア…3階……ったな!」

「おぉ!!」


リーダーらしき男の大声とそれに従う者達の了承の声であるらしかった。


雰囲気的に、どうやらこの学園は現在進行形で乗っ取りらしきものをされているらしい。とショウは思った。


話の断片の3階、ババアとくれば多少失礼な気がするけれど、狙いはカミラ学園長だろう。何が目的なのかは解らなかったが、恐らく彼女に危害を加える確率は高い。


瞬時にそう判断したショウ。

そこに届く、階段を上ってくる慌ただしい足音。


 あぁ、そっちが階段だったのか。


そんな事を思う間もなく、反射的に違う方向にある扉へ入り込み鍵をかけた。


意外と階段から近かったため、すぐに誰かくるだろう。そう思い、ショウは耳を澄ます。



「……ショウお兄さん?」


 外の音を聞いていると、室内から自分の名前を呼ばれた。思わず肩が跳ね上がる。

だが、聞き覚えのある声にすぐにそちらを向く。


「リディアム」


そこにはオレンジ色の目をこれでもか、と見開いたリディアムが立っていた。

何かの作業中だったらしく横にある机には資料がかなりの数開いてある。

さっき別れたばかりなのに、何たる偶然。


「ど、どうしたんですか?急に入ってきて」

どうやら彼は外の騒ぎには気付いていないようだ。


「あぁ、すまないな。急に入ってきて」

とりあえず勝手に入ってきた事を詫びる。


「何か沢山の人がいきなりこの建物に入ってきたみたいで。思わず近くの部屋に避難したんだ」


まさか乗っ取りなんて推測の入った事を言うわけにはいかない。そのため、彼女は聞いたままにリディアムに伝えた。


だが彼も、すぐにその推測に辿り着いてしまったらしい。


「まさか、学園ジャックですか……!」

顔が強ばっているのが、しっかりと見て取れた。


「恐らくそうだと思う」


その時、扉の向こうでバタバタと数人分の足音が聞こえた。

とりあえずリディアムに静かにするようジェスチャーする。


しばらくすると、突然扉が強く叩かれた。と同時にドアノブがガチャガチャと音を立てる。

外から何やら怒鳴り声も聞こえてくる。


悲鳴を上げそうなリディアムの口を塞ぐ。

中の人間を炙り出しているのだ。声を出せば、自分たちの存在が知られる。


鍵をかけておいた為、簡単には開かないだろうけれど、力技に訴えられればひとたまりもないだろう。


 その心配を余所に数秒後、足音はすぐに遠ざかっていった。

遠くで扉が乱暴に開けられる音が時々するのみで、この部屋の前には人の気配はなくなった。


「行ったみたいだな……」


無意識に漏れた自分の呟きに、少し肩の力が抜ける。

ホラー映画を観ているかの様な緊張感。

実際、それと同じような体験をしているのだが。


恐らく、彼らは人がいるかいないか確かめる程度に扉を叩いたのだ。


徹底している。とショウは思った。


目的は危険因子の排除と人質の確保なんだろう。手際がやけに鮮やかな気がする。

その割に階段からここまで来るのに、時間がかかりすぎているが。


これは早い内に場所を移動した方がいいかもしれない。



 リディアムに手を叩かれる。そういえば、彼の口を塞いだままだった。


「悪い。忘れていた」

謝りながら手を放す。「もう」と咎めるようにリディアムが声を上げた。


 「ところで」

 それには臆せず、ショウは彼に問いかける。

「こういう事はよくあるのか?」


先程の彼が学園ジャックと考えつくまでの時間が余りにも短かった事と、ガードマンよろしく役人が入り口に立っていた事、それに相手は明らかに手慣れている事。


それから彼女が至った答えは、この世界も平穏といえるわけではなさそうだ、と。


「残念ながらね。ボクは初めて巻き込まれたけど」

若干声を小さめにして肯定の言葉が返ってくる。


「この大陸アーティオスは、世界でも重要な場所なんだ。だから騒ぎを起こせば、世界中に知れ渡る事になる。それを利用して声明を発信する事もあるんだって」


「何という人騒がせな……」


大陸単位では不介入が約束されていても、個人団体までには目がいかない、というわけだ。


だとしても、こんな方法での声明発表は止めてほしい。関係の無い人まで巻き込むではないか!


今回のグループはどういうつもりかは知らないが、カミラ学園長の安否が気にかかる。

不自然なほどに。


「とにかく、だ。私達はここから脱出した方がいいと思う」


ふと思いついたその感情の理由を、まさかと頭から追い出しつつ、ショウは青い顔をしているリディアムにこれからすべきであろう行動を伝えた。


「あ……、うん。そうだね。また、来るかも」


現状を思い出したのだろう。リディアムが焦りだした。それをすかさず、肩を叩いて落ち着かせる。


「とりあえず、ここの見取り図みたいなもの、ないか?」

「あるにはあるけど……。どうするの?」


パタパタと壁際にある引き出しに向かうリディアムにショウは自信ありげに笑ってみせた。


「もちろん、脱出のため。それとちょっと仕返し、だな」




次回予告

そのもの、大地に降り立つ。この空の果てよりも、遥か遠くより(いず)る。

黒き残像は、今もこの眼に。

次回この空の果てよりも「とりあえず、セロハンテープ」

選択はいつも、すぐ傍にある……。


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