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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
21/37

21.大掃除は、お早めに

いつもお読み頂き有り難うございます。

PVが1000を超えました。思わずスクショ撮りました。


大掃除、本当に早めにやった方がいいですよね……。後回しにすると、うっ……!




 ひとまず、ノックを3回。

扉の向こうから返事が返ってきてから一呼吸おいて、扉を開けた。


先程まで案内してくれていたリディアムをちらりと見れば、こちらに背を向けていた。きっと本来の用事に戻るのだろう。


改めて視線を前へ向ける。そこは雑然とした空間だった。

本来広いはずの部屋はかなりの数の本棚とそれに乱雑に並べられる大小さまざまな本と書類、それと化学の実験で使うようなビーカーやフラスコのようなものが無造作に置かれた大きなテーブルが中央に陣取っているため、かなり狭く感じた。


「すみませんが、奥に来て頂けます?」


その悪く言えば全く整頓のされていない部屋の中から声が聞こえた。

注意してみると、獣道のような人の歩くスペースが最低限確保されているのが判る。


奥から聞こえた声に対し、了承の意を伝えると、そのスペースがあるのかないのか解らない通路に足を進めた。




 かくして、彼女の目の前には声の主の言う『奥』らしき開けた場所。

他の机と違い、綺麗に片付けられた仕事用と思わしき机が、その真ん中に鎮座している。


そこに学園長らしき人はいた。


白髪の混じった、かなりの年輩の女性がその机にかじり付くように何やら書き物をしている。

その姿は、教育者というよりも研究者という方がしっくりくる気がショウにはした。


「少しお待ち頂けるかしら。この部分だけ纏めてしまいますから」

手に持つペンを走らせながら、彼女は早口に言った。


「あ、いえ、お気遣い無く」

没頭している彼女の迫力に押され気味なショウ。急ぐ用でもないので待つ事に。




 数分後、書いていた紙を整理し机の横に置いた女性は、ようやく顔を上げた。その表情は先程の雰囲気とは違い、その辺にいる優しいおばあちゃんの顔をしていた。


「あら、初めての方?ごめんなさいね、研究中だから部屋がこんな事になってしまっていて……」

いつもは綺麗なのよ、とばつが悪そうにいう彼女は可愛らしく肩を竦めた。


「お気になさらずに。少し親近感湧きますし」

変に片付けられているより、こういう方が緊張しなくていいのかもしれない。

ショウは微笑んだ。

……その、研究どうこういう以前の散らかり具合ではあるが。


「それで、ご用件は何かしら?お嬢さん」


その一言にショウの表情は崩れた。


「ハイィ!?」


思わず声を上げる。いきなり核心を付かれた気がする。


「そんな格好しているけれど女の子でしょう、貴女」


誤魔化しようもないようだ。

やれやれと頭を掻く。

プリズミカ内じゃないから、数に入らないよな?クルセルド。


「……はい、確かに私は女ですが、何故お分かりに?」

すんなり事実を認めてそう聞くと、彼女はウインク一つ。


「だって、教育者ですもの」


まいった。

これからは人を見る仕事の人は注意しなくてはいけない。


そう頭に刻み込みながら、ショウは衣装の隠しからゼロンより託された手紙を出す。


「ショウと申します。外務省長官のゼロンから、手紙と留学生のリストを預かって参りました」

そう伝えてから机の上に手に持ったものを置く。


「新人さんなの。お疲れ様。ゼロン様はお忙しいみたいですね」

「はい、書類が溜まっているとかで。これから宜しくお願いします、カミラ学園長」


多分、今は別の意味で忙しいかもしれない、と思いながら彼女は斜め45度の会釈をした。


「私の名前を知っていらっしゃるのね」

学園長は笑いながら、手紙の封を切った。


「道は知らなくて迷いましたが、ね」

「まぁ!ここは広くて複雑ですから、よく来客が迷われるんですよ」


そう言いながら、ざっと手紙に目を通す。

目を見張るような表情の後、引き続いて留学生のリストの封も開ける。その手元がいささか急いでいるようにも見えた。


手紙渡したし、帰ってもいいのかな?とショウはその紙を目で追うカミラ学園長をみながら、思った。

勝手に帰る訳にはいかないから、退出の意を伝えないといけないのだが。邪魔をするのも失礼な気がする。


 その瞬間、年輩の女性は溜め息を吐きながら手紙を置いた。


「ショウさん」

不意に呼ばれた彼女は、思わず姿勢を正した。手紙に何が書いてあったんだろう?


「外務省副官に就任したのですね。おめでとうございます」

「それは、ありがとうごさいます」

微笑んだカミラ学園長に素直に謝辞を述べる。


「異世界から喚ばれた『定める者』。ゼロン様と導師様の手紙に書いてありました」

カミラは席から立ち上がった。


導師様と言う事は、クルセルド、お前まで手紙を書いていたのか……。

恐らく自分に関する大まかな事が記されていたのだと思う。


「貴女にはこの意味が判りますか?」


学園長は突如問いかけてきた。

先程浮かべた笑みはすっかり消え、真剣な顔をしている。


「『定める』という力が世界にとって、どんな影響を持っているかという事を」


それはこの部屋に来る前、考えていた事だった。

そしてそれは、まだ答えに至っていない。


「……その事について、今の私は何も知りません」

ショウは正直に無知を認める。


「その力の重大性もこの世界(セドラフェア)の事も、何故自分でなければならなかったのさえ」

そして、相手の目をしっかりと見据える。


「ただ解っているのは、この世界の意志が異世界の住人である私に助けを求めたという事。その求めに応じるために私はココにいるという事。

……全ては私の選択した事なのだから」


「だからといって、『定める者』の就任の先送りなんて……」

学園長は食い下がった。


何年も空席になっているらしい『定める者』の椅子。ゼロンの言っていた通り、考えもつかない程の影響が出ているのだろう。だからこそ。



「だからこそ、そう簡単にはその席に着く事は出来ない。世界の事を知るまでは」



そう言うと、カミラは溜め息を一つこぼして椅子に座った。


「自分の考えをしっかりお持ちなのね、ショウさんは。

貴女なりに考えて出した選択の答え……。それが吉に出るか凶に出るか私には判らないですが、応援しますよ。貴女が思うように行動しなさい。

それが世界の意志の求めている事なのかもしれませんから」


最後にニッコリ笑いかけられると、あぁ、自分は試されていたのか、と今更ながらに気付く。


何年も不在が続く『定める者』。

そのために今度その地位に就任する人物には、大きな期待が寄せられていると考える事が出来る。だからこその問いだったのだろう。


自分がそれだけの器とは考えにくいが。こんなのでいいんだろうか?

疑問に思いながらも、さっき言った事に少し照れも入りながら笑い返す。


「はい、ありがとうございます」


ショウはどこまでも自分の事に関して鈍感なのだった。

はにかむ様な笑みによって、ほんわりと崩れた空気。


カミラはその空気に思わず自分の頬に手を当てた。

「うん、ファンになりそうだわ。全力で応援しちゃうから」


……応援するのは結構なんだけど、何の応援なんだ……?


カミラの何とも言いがたい反応に、ショウは触れない方がいいような気がして、苦笑した。


余談だが、ショウに同じ感情を抱いたのは今までに男女問わずかなりの人数いるが、こんな事を言えた猛者は数える程しかいない。


「それでは、手紙とリストは確かにお渡し致しましたので」

ショウはようやく暇を告げる。


「ふふ、わざわざありがとうね」

この世界の最高学府の学園長は、再び立ち上がる。それを制する訪問者。


「研究のまとめをしていらっしゃったのでしょう?時間をこれ以上取らせるわけにはいきませんよ」


部屋に入ってきても、顔を上げないくらいだ。よっぽど早く書き上げたいものなのだろう。とショウは推測する。

よくぞ、ノックの音に気づいたものだ。


「そう言ってもらえると助かるけれど……」

外務省の副官を送り出す態度ではないと思っているのだろう。彼女は言葉を濁す。

それに微笑んでショウは続ける。


「若輩者に気を使わないで下さい。それに私はまだ慣れていないんですよ」


何と言っても、急に決まった就任1日目。

心積もりを多少はしていたとはいえ、今の境遇についていけていないのが本音だ。


「分かったわ。ありがとう」

そう言って席に戻るカミラ学園長。


「どういたしまして。それでは」

とショウは会釈をして、また道無き資料の中に戻って行った。


何と言うか、自分の周りに個性的な人が増えてきたなぁ。


自分も十分異彩を放っているのには気付かずに、ショウはそんな事を思いながら。




◆カミラ

レッディーフ学園の学園長。3人の子供と2人の孫がいる。

普段は素敵なおばあちゃま。

この人、多分、ショウのファンクラブ作りそう。


次回から急展開!です。

予告見たらバレバレ?



次回予告

突然の喧騒。踏み込まれる領域。

力無きものはただ厄災の過ぎるのを待つ……。

次回この空の果てよりも「とおりゃんせ、とおりゃんせ」

選択はいつも、すぐ傍にある……。


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