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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
20/37

20.萌えアイテム、丸めがね

違えはしない、この道を。とか次回予告で言っているけど、めっちゃ迷ってるやんってツッコミは無しの方向で。

 


ショウが、ふと顔を上げると、いつの間にか廊下の突き当たりまで来ていた。


ここを確か左に曲がるんだったな、と記憶を引っ張り出している時、右後方にある扉がガチャリと開く。


「失礼しました」


その声に振り向くと、今まさに扉を閉める大き目の帽子をかぶった少年の姿。

腕には研究の資料なのだろうか厚めの本が2、3冊とレポートらしき紙の束が抱えられている。

こちらに気付いていないようだが、半分迷子のショウにとってまさに渡りに船だ。


「あの、すみません……」

早速声をかけてみる。


その声は余り大きくなかったはずなのだが、人気の無い廊下には十分すぎる音量だったようだ。少年の肩が大袈裟な程ビクッと跳ねた。

腕の中のものを落とさなかっただけでも、よかったと思う程に。


ようやく少年がゆっくりと彼女の方を向く。

こんな所に人がいるとは思っていなかったのだろう。恐る恐るといった様子がありありと見てとれた。

オレンジ色の大きな目は見開かれ、鼻の頭にかかっている丸メガネが少しズレてしまっている。


「少し聞きたいんですが、学長室はこっちですか?」

仕方が無いので、用件だけを聞く。


「……迷子、なんですか?」

どうやら困ったそぶりがなかったため、迷子とは思われていなかったらしい。逆に少年に聞かれてしまった。


はっきり迷子と聞かれると答えにくい。

「この学園に来たのは初めてなんだ……」


ショウ、返答を濁す。目が泳いでいる自覚がある。

それを見て少年は僅かに微笑む。


「学長室は反対方向ですよ」

「あぁ、やっぱり反対だったか……」


それを聞いて肩をガックリ落とす彼女。

流石に入り口で聞いただけでは、覚えきれなかったらしい。


そんな彼女を見ていた少年は気の毒に思ったのか「それなら」と提案する。


「ボクでよければ、学長室の前まで案内しますけど……」

「是非ともお願いします」

即答。少年は思わず笑った。


ここから説明しても恐らく容易に辿り着けるとは思うのだけれど、放っておくには偲びない様子だったから。

自分にも用事はあるのにも拘らず、言葉が口に出ていた。資料運びくらい少し遅れても構わないだろうと少年は自分を納得させた。




 荷物を二、三個持つという主張が通り、今ショウは資料を持ちつつ彼と廊下を歩いている。


「リディアムは、頭がいいんだな」

ショウがにっこり笑うと少年は顔を赤くする。


先程、歩きながらお互いの自己紹介をしたところ、彼、リディアムは15歳にして、この学園で考古学の研究しているとの事だった。


「そ、そんな事ないよ」

そう言って頭を振る度、クリーム色の髪がサラサラと音を立てる。


「ボクなんて、まだまだ……」

メガネをキュッと上げる。

「それよりもショウお兄さんの方が凄いと思うけど」


だって、異世界からの旅人でプリズミカ外務省の副官なんて、と目を輝かせるリディアム。


「それはあまり凄いとは言わない。自分の実力じゃなくて成り行きなんだからな」


自分の一気に増えた肩書きに、彼女は自嘲する。知らない間にエラくなったものだ。


「それでも凄いよ。ボクも将来、プリズミカに入るのが夢なんだから」

反対に少年は本当に楽しそうに出会ったばかりのショウに打ち明ける。


「友達との約束なんだよ」


余り大きな声では言えないけどね、と彼は目を細める。


「そうか。リディアムなら大丈夫だな。私より適任だろうし」


彼にとって友人との約束とは、とても大切なものらしい。

その友人はすでにプリズミカで働いているみたいだなぁ、とか、自分よりも役人としての適性が高いだろうなぁ、というショウの考えは彼の表情に吹き飛ばされた。


「そうだったらいいのにね」と言った彼の顔は、しっかりと先を見据えていた。

今の自分の現状を考え込んでいる彼女よりは、よっぽど前向きな感情だとショウは思った。


「そうに決まっているだろう? 私なんか、まだこの世界の事も勉強中なんだぞ? 迷子にはなるし」

「そ、それは、お兄さんが初めてここに来たからでしょ」


自分の偽ざる境遇を話せば、少年はフォローを入れようと慌てる。

ほら、やっぱりこの少年は人を気遣う事に向いている。


「それもあるけどな、覚える事がたくさんありすぎてパンクしそうなのかもしれないな」


二回目でも迷うかもしれない……、と思ったのはショウだけの秘密だ。





「あ、ここですよ、ショウお兄さん」


いつの間にか建物の端まで歩いてきていたらしい。リディアムは立ち止まった。


両開きの扉がそこにある。

他の教室、研究室とは違いかなり広いスペースである事が隣の部屋の扉との間隔で判る。


彼は数回この中に入った事はあるが、流石学長、というしかない内部になっている。


「あぁ、案内ありがとう。リディアム」

持っていた荷物を渡しながら、礼と述べる迷子だった人。

彼の顔がほんのり染まったのには気付いていないようだ。


「お兄さんも荷物持ってくれてありがとう……」

照れを隠すように少し俯き加減に感謝の言葉を言った。

そして、ふと先程の会話で思いたち、その人の名前を呼ぶ。「何だ」と改めて向き直ったショウに、思い切って言ってみる。


「あ、あのっ。ボク、よく公園にいるから。よかったらいつでも勉強教えるからっ。仕事、頑張ってね……」


少し尻すぼみ気味になってしまった言葉だが、相手にはちゃんと伝わったらしい。口元を緩ませて黒髪の青年は微笑んだ。


「あぁ、願ってもない申し出だ。頼りにさせてもらうよ」


そう言って扉を開けたのを見計らって、リディアムは来た方向に体を向けた。

恥ずかしさの余り、顔から火が出ているよう。


どうしてあんな事を言ったのか自分でも解らなかったけれど、よかったと漠然と思った。

異世界の人というのも興味があるけれども、個人的にもう一度会いたかったから。


少しズレたメガネを再び増えた荷物に四苦八苦しながら上に押し上げ、顔の赤みが早く引いて欲しいな、と思いながら彼はその場を去った。




途中、リディアム視点よりになっていたので、ショウの事を「彼」やら「青年」やらと書いています。


リディアムは年下可愛い系です。

もう一人の年下はツンデレ属性(?)なので。



次回予告

扉を開けた先は混沌が鎮座していた。去り行く彼の背中。

覚悟を決めて飛び込むその先に、待ち構えるものは。

次回この空の果てよりも「大掃除は、お早めに」

選択はいつも、すぐ傍にある……。


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