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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
18/37

18.動かすのは、口より手



 「やれやれ、一気に厄介事が増えたな」

 執務机に戻りながら本日付けで上司になってしまった青年は本来の口調でぼやく。


「まあ、正式に副官としてよろしく、ゼロン」

ぼやきに自分の事も含まれている事は重々承知しているので、彼に軽く応じる。


「一応よろしく。仕事を増やすなよ」

厄介な者が多い外務省のトップは、やけに現実味のある言葉をかけた。


それにショウは「努力だけはするよ」と答えておく。

おそらく、立場的に無理な相談であるだろうから。


「とりあえず、今から初仕事をしてもらうぞ」


机の中から便せんを取り出し、何かを書き込み始めたゼロン。何を書いているんだろう、とショウは執務机をのぞき込む。

あっという間に内容を書き終わったらしい彼は、同様に封筒を取り出し、さっさと封をしてしまう。

結局、中身を見る事は出来なかった。


「これをレッディーフ学園のカミラ学長まで届けてほしい」


そう言って、その封をしたばかりの手紙と机の端においていた別の封筒(割りと厚い)を差し出す。


「レッディーフ学園?」


受け取りながらショウは聞いた事の無い固有名詞に首を傾げる。

その反応に「あぁ」と理解を示すゼロン。


「まだ説明してなかったみたいだな。

レッディーフ学園は、このプリズミカと並ぶ世界の重要機関の一つだ。

学園の名の通り、世界中から学者・研究者を呼び集め、様々な研究をしている。また、それと同時にセドラフェアの最高学府として存在しているんだ。留学生なんかも沢山いる」


「そこの学長にコレを持っていけと」


流石外務官というか、さらりとそういう説明が出てくるゼロン。

なるほど。この大陸には重要機関が揃っているわけだ。


「そうだ。中身は今年留学してくる人物のリストだからな。直接学長に渡さないといけないんだが、俺は仕事が残っているんだ」


「で、コッチは何なんだ?」

ショウは先程ゼロンが走り書きした方を見せながら聞く。

それに少し視線をさまよわせる『拓く者』。


「あー。お前が新しい俺の副官だっていう事を知らせておこうと思ってな。いろいろと仕事で一緒になる事も多いし」


学習機関と外務庁はその特性上、世界中に浸透し幅広い活動を要求される。数日前にシェリルに教えられたように、プリズミカにおける積極的外交は余り多くはない。だからこそ、このような連携が必要なのだろう。


「分かった。でもドコにあるんだ?」

その存在も知らなかったのだから、場所なんて知っているはずない。


「外でジオにでも地図を書いてもらってくれ。それが届け終わったら今日は先に帰ってもいいぞ。

屋敷の誰かに少し遅くなると伝えてもらえればありがたい」


そう言うとゼロンは、また何かの書類を書き出した。

数日前まで出張していたそうなので、本当に忙しいらしい。

ちなみにショウはその帰り道で発見された、とシェリルは言っていた。


これ以上、彼の仕事の邪魔をする必要はないので、大人しく退出の意を告げ、執務室の外に出た。




「ショウ~」


その途端、聞こえてくる奴の声。

そう例の外務官2人組の1人アレックスだ。

後ろからにこやかにジオも歩いてくる。


思わず今出てきた上司の部屋へ逃げ込もうかと思ったくらいだ。

気分は追っ手のかかった犯罪者。悪い事は一切していないのだが。


目の前に来たアレックスはショウの手を取ってブンブンと上下に振り回し始めた。


「オレ、すごく嬉しいよ!」


何が嬉しいのか、さっぱり判らない。彼の隣に来たジオに救いを求めるように目線を送る。

それに気付いたのか、彼が苦笑する。


「先程、アイカ様に用件を聞いた時にね、貴方がここの副官になるっていう事を聞いたんです」

それから仕事が手についていませんでしたよ、と笑顔で告げるジオ。


「オレがいろいろ教えるから、一緒に頑張ろうねっ」

目に見えない尻尾を思い切り振っている気がする。


「アレクの場合は、先に自分の仕事を終わらせないといけないけどね」

そんなアレックスを一刀両断にするジオ。見事KO。


「あぁ、そうだ。ジオちょっといいか?」

壁際に寄ってシクシク嘘泣きを始めたアレックスを放っておいて、ショウは茶髪の青年に声をかけた。


「何でしょう?ショウ様」

爽やかにジオは答えた。

何か一瞬、違和感があったような……。それに思い当たり、ポンと手を打つショウ。


「様付けは止めてくれ」

副官になったため、彼等の上司に一気に昇格してしまったのだった。

流石に日常会話で様付けなんてされた事のない一般市民のショウには、恥ずかしいというよりも悪寒が走る事柄である。


「まだ、この世界に不慣れだからな。敬語を使われる謂れはないぞ」


「解りました。……で、御用は何でしょうか?ショウさん」

からかい半分で言ったらしいジオはすぐに敬称を戻す。


「レッディーフ学園までの地図を描いて欲しいんだけど」

ようやく言いたい事が言えたショウ。その言葉に快く頷くジオ。


彼がペンと紙を持ってくる間に復活したアレックスは、ジオの描き始めた地図に何やら別のものを書き込んでいく。


ここのパン屋の限定パンはおいしいやら、この場所にあるカフェは意外と穴場やら、この木立は目立ちにくいからサボりに最適やら……。


「アレク、探してもいない時はこんな所にいたんですね……」


ジオが口元だけに微笑を作る。それを見て、サーッと青くなるアレックス。


「他の皆さんにも、教えておきましょう」

どうやら蛇足だったようだ。

少し己の迂闊さに放心していたアレックスだったが開き直ったのか、しばらくするとまた書き込みを始めた。



 数十分後、ようやく案内図が完成した。

時間のかかった原因として、アレックスの書き込みが多かった事とジオが丁寧に説明をしてくれた事が挙げられる。


それだけ念を入れられると、初めて歩く場所でも迷子にはならないだろう。

それよりも、迷子になったら後が怖そうだ。


「さて、それじゃあ私達もゼロン様の所へ行きますね」


ショウがしっかり理解した事を確認した後、ジオは椅子から立ち上がった。ついでにアレックスの腕も引っ張る。


「何か用事でもあるのか?」

ショウが案内図を片手に尋ねる。


「ええ、すこーしばかり、ね」


それを聞いて彼女は視線を逸らした。

あぁ、何となく用事とやらの想像がついちゃったよ……。


恐らくアイカの訪問について根掘り葉掘り聞くつもりなんだろう。

確かにショウもアイカも中で何があったかを教えていない。しかしアッサリと解放されている。

恐らく、後で上司のところに乗り込むつもりが最初からあったのだろう。


扱いが解らないショウより扱い慣れているゼロン、である。


それが容易に想像出来てしまったショウ。心の中で合掌。

まぁ、自分に降り懸からないのなら別にいいや、と彼を見放した。

一応、外務庁長官として彼等の上に立っているのだから、際どい質問は何とか誤魔化すだろう。


その事を祈りながら、彼女はプリズミカを後にした。




ここまでの主な登場人物紹介(簡易)


◆ショウ(大林 唱)

 私立明東高校2年、17歳

 天然人タラシ(他称) 黒髪、黒目(日本人的色彩)

 外務庁副官に就任しました。


◆ゼロン

 セラフェート『拓く者』

 プリズミカ外務省長官、23歳

 金髪、緑目 (ショウ曰く)猫っぽい


◆シェリル

 ゼロンさんちのメイドさん、実は既婚者

 赤髪、オレンジ色の目

 

◆ダナレーン

 裁定省代表代理

 若草色の髪、深い紺色の目(左目のみ)


◆クルセルド

 セラフェート『導く者』

 プリズミカ導きの園の主、28歳

 青いはねっ毛、紫色の目、タヌキ


◆デュラン

 セラフェート『護る者』

 プリズミカ護庭省主席、クルセルド専用護衛兼幼馴染み、31歳

 銀髪、ブルーブラックの目


◆シェーザ

 セラフェート『視る者』

 プリズミカ管理局局長、26歳

 茶髪、赤目


◆ヒース

 セラフェート『聴く者』

 プリズミカ総務部部長、14歳

 はねた青い髪、紫色の目、アホ毛あり


◆ジオ

 外務庁職員、抜け目ない

 茶髪、焦げ茶色の目


◆アレックス(アレク)

 外務庁職員、ムードメーカー、情報通

 褐色の肌に金髪、黄色い目


セラフェートは攻略対象者ってところです。

……攻略されるかは判りませんが。

何故なら攻略する方がショウだから。




次回予告

この空に浮く世界。今までいた場所からは想像も付かない場所。

私はここにいる。この身に使命を持って。

次回この空の果てよりも「はじめての、おつかい」

選択はいつも、すぐ傍にある……。


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