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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
16/37

16.無視される、任命書

人物増えると、誰が誰だか判らなくなるあるある。



 そこまで考えた時、不意に部屋の扉がノックされた。


ゼロンに返答すべきだろうが、彼の来客を待たせるわけにはいかない。仕方なしにショウは黙る事にした。

それを気配で感じたゼロンは「入れ」と入室の許可を出す。


扉を開けて入ってきたのは、彼の部下であるジオだった。


「ゼロン様、アイカ様が面会を求めています」

「クルセルド様からの使いだろう。入ってもらってくれ」

「はい」


その会話がなされて数十秒後、部屋に一人の女性が入ってきた。

緩やかにウェーブのかかった背中くらいまでのヘーゼルナッツブラウンの髪に、深い藍色をたたえるアーモンド型の瞳。こちらに歩み寄ってくる動作は、無駄がなく洗練されている。


「失礼致します、ゼロン様」

彼の机からぴったり5歩の位置で立ち止まった彼女は、お手本のような30度のお辞儀をした。


「わざわざ出向いてもらって悪いな」

ゼロンが笑顔を浮かべる。

また猫を被っているなぁ、とショウ。


「いえ、構いませんわ。……クルセルド様から手紙を預かって参りました」

そう言って彼女はゼロンの机の上に封のされた白い封筒を置く。


「ありがとう、アイカ」

それを手に取るゼロン。

その彼がこちらに目を向けた。つられてアイカと呼ばれた女性もこちらを向く。

ショウ、少し驚く。


「ついでで悪いが紹介しよう。先程、私の副官就任が決まったショウだ」


いきなりこっちに話を振るな、と心の中で悪付きながらも彼女はその場に立ち上がった。


「ショウです。宜しくお願いします」

胸中を思わせないように微笑む。第一印象は大事だ。


その微笑みに一瞬女性は動きを止めた。が、すぐに微笑み返す。少し顔が赤い気がする。

やっぱり考えが顔に出ていたのだろうか、とショウは内心首を傾げた。


「貴方がショウさんね。初めまして、私はアイカ。護廷省で『護る者』の副官を務めています」

「一応言っておくが、彼女は現在プリズミカ内で最も役職が高い女性なんだ。失礼の無いようにな」


いつの間にか封を開け手紙の内容を確認していたゼロンが補足を入れる。


「クルセルド様からの信頼も厚く、敏腕で名を馳せている。頼りになるぞ」


ニヤリと笑ったのは恐らく、先程の賭けの内容をはぐらかした腹いせか……?

その言葉にアイカが困ったように笑う。


「そんなに大それた事はありませんわ、ゼロン様。ただ当然の事をしているまでで……」

「嘘は言っていないよ、アイカ。……ほら、ショウにも用事があるんじゃないのか?」


彼は手紙の続きを読むべく、話を変える。それを聞いて「敵いませんね」と、苦笑をしつつ彼女はこちらに歩み寄ってきた。


立ったままというのも話しにくいので、応接セットの向かいに席を勧める。


二人して座った後、一呼吸おいてアイカはゼロンに渡したものと同じ形の封筒を2通差し出した。


「ショウさんにも、クルセルド様から手紙と任命書を預かってきています」


どうやら薄い方が任命書で、他方が手紙だろう。

任命書なんて別に形式だけの物だろうから、先に手紙を手に取る。

封に使用されている太陽と片翼の印は、恐らく『導く者』の印なのだろう。


「あ、ショウさん。開ける前にクルセルド様から伝言です」

何気なく封を開けようとしたところに、アイカから待ったがかかった。


「『その手紙は、先程話しきれなかった賭けの細かいルールが書いてある。ショウが解る様に書いたから、心配しなくていいよ』だそうです」


あぁ、タヌキの似非笑いが目に浮かぶ……。


ショウが解るように、とは恐らく文字の事だろう。自分でも忘れかけていたが、彼女はこの世界の文字は読めないに等しかったのだ。普通に書いたのであれば他人に読んでもらうしかない。


了承の意を込め頷いてから、封を切り中身を開く。



『本日は晴天なり』



やっぱりな……。

判っていたといえば、判っていたのだが。便箋の1枚目は、でかでかとその文字のみが書いてあった。


気を取り直して次の便箋に移ると、そこからは整然とした文章が並んでいた。



『オオバヤシ ショウ殿


 最初に文面で語る事を許して下さい。

私も貴女と話がしたいのですが、生憎忙しい身分なので、それもままなりません。

いずれ時間を取れるとは思いますが、今はこれに記す事にします』



文面から見るには、どうやら『導く者』は自分の本性がバレるとは思っていなかったらしい。

バレている事を前提に書いた場合、こんな前置きなど付けないに決まっている。

まぁ、今まで余りバレた事がなさそうだったし、仕方ないだろう。


そう思った彼女は次の一文に眉を顰めた。



『さて『この手紙を自分の力で読んでいる』という事は、貴方が間違いなく『定める力』を持っているという事です。』



どういう事だろう?


確かに自分に定める力(そんな力)があるとは信じられないショウは、この言い回しに疑問を抱いた。


手紙を読めるだけで、そんな事が判明するものなのか?しかも、その説明は後ほど、とか書いてある。

気になる……。


しかし、読まなければどこに書いているのかも解らないため、急いで続きを読む。どうやら『定める力』についての記述のようだ。



『恐らくセド=ラフェアが、その力について一度は『心の強さ』と称していると思います。


これは比喩でも何でもありません。


そう、『定める力』は自分が叶うと信じる事象を実際に起こす事が出来る力。私の持つ『導く力』にも影響を受けない、変革の力と言うべき能力です。


こう書くと、途方も無い力のように感じると思いますが、有体に言ってしまうと、思い込みみたいなものです。

ただ意識的に行うか、無意識的に行うかの違いなのですが。』



……流石、異世界というべきか、うわぁ、便利だね!というべきか。はっきり言って有り得ないだろう、そんな能力……。


それに私は、思い込みどうこうで左右されるようなウッカリ者じゃないはずなんだけどなぁ、とショウは溜め息を付く。


だが次の瞬間、意外に自分もウッカリ者だと思い知らされるのだった。




ショウのウッカリについては次回!



次回予告

強制される要求。嫌悪を感じても拒否する事は出来なくて。

遠く我が家を思う。空は憎いほど青かった。

次回この空の果てよりも「ドッキリは、先手を打て」

選択はいつも、すぐ傍になかったりもする……。


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