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この空の果てよりも  作者: 羽生 しゅん
異世界は、実感を持って
10/37

10.猫かぶりな、タヌキ

クルセルドとショウのある意味漫才(無観客)



「バレてるなら仕方無いね」


溜め息混じりにクルセルドは、作り笑いという事実を認めた。いきなりフランクになった彼の言葉使い。


「でも、初対面に気持ち悪いは無いと思うよ?」

そして顔には苦笑い。


今までの態度は、ゼロンと同じで「営業用」だったのだろう。位が高ければ、多少の威厳も必要かもしれない。


「それは、すまなかった」

彼女は表面だけ謝る。相手は謝罪を望んでいないから。


「この顔は、許して欲しいなぁ。咄嗟の時、口調は誤魔化せるけど、表情まではすぐに戻せないからね」

そう告げると彼は悪戯っ子のように笑った。


「それで、何か私だけに言いたい事があるんじゃないのか」


ショウは先程から気になっていた事を彼に切り出した。それを聞いたクルセルドは一瞬、驚いた表情になった。


「どうして、そう思うの?」

思わず尋ねる。

その問いにショウは、さも当然といった感で答えた。


「デュランをこの部屋から外したからだ。ついさっき『自分の護衛』と言った人物を初対面の人物がいるのに、用も無く外させるはずがないだろう」


「さっすがぁ、ショウ。そこまで考えていたんだ……」

「何故か、先程から私が考えなしだと見られている気がするのだが」


少しムッとした顔になったショウに彼は笑う。

「誉めているんだよ。話が早くて助かるなぁって」


「で、話とは?」


先程の疑問はひとまず置いておいて、彼女は先を促す。クルセルドは、それに一つ頷いて口を開く。


「ショウ。私と賭けをしないかい?」


「賭け……?」

『導く者』の発した思いがけない言葉に、彼女は顔を顰めた。


「そう、一種のゲームだよ。ショウが勝てば、無条件で元の世界に帰してあげるし、言う事も一つ聞いてあげる。どう?」


そう言った彼の顔は、新しい玩具を見つけた子供のようにキラキラしていた。

はっきり言って、ろくな事がなさそうだ。


ショウは呆れたように腕を組む。

「そんな事するメリットは?」


クルセルドの案は回りくどい。

元の世界に帰れるのなら、行き来だってカンタンだろうに。それに、そんな事する必要性がない。


彼は少し考えてから、はっきりと言い放った。


「帰すの疲れるし、面倒くさいし、何より私が楽しいから」


最後の理由が本音っぽい。

彼女はやれやれと首を振った。


「……内容を聞こう」

聞くだけはタダだ。余りにも突拍子も無い話だった場合、断ればいい。


「うん、ショウ、あのね……」

相手の渋い顔に笑いそうになりながら、クルセルドは言う。


「研修期間の1年間、そのまま男装していてくれない?」

「何故そこに、そんな話が出てくるっ」


もっと真面目な言葉が出てくると思っていたショウ。思わずツッコミを入れた彼女は、正常だといえるだろう。


「だって、その格好、とっても似合っているからね、一度きりはもったいないよ」


にっこり笑った彼は、ゼロンが敢えて言わなかった単語をスッパリ口にした。そして、彼女が苦情を言う前に次の言葉を放つ。


「それに、デュランにもバレなかったみたいだし」


先程まで自分の側にいた護衛兼友人の顔を思い出す。性別を把握していた場合、対面していた時に眉間の皺が2、3本増えていたに違いない。


「それは嬉しくないな」

つまりは彼女が男性に見えた、という事だ。


元の世界で、スカートを穿いているにも関わらず、不要な手紙(通称、ラブレターともいう)を貰っていた彼女としては、言葉通り「嬉しくない」。


「でね、バレたらショウの負けって事。プリズミカは人が大勢いるからね、5人までにしておこうかな」


『護る者』は観察眼が優れていそうだったというのに。などと考えている彼女を他所に、クルセルドは話を続ける。どうせ彼女は話をちゃんと聞いているのだろうから。


「今までバレている、もしくは初対面でバレていたっていうのは、数に入れないから。負けたら勿論、バツゲームしてもらうよ」


「お前、もしかしなくても、私が来る前から考えていただろ」

ショウが半眼で座っている彼を睨む。


「よっぽど暇なのか、『導く者』って」

「うん。暇だよ」

この世界一番の偉い人は、即答した。


「そうか……」

本人がそう言うなら、流石のショウもそれ以上言えなかった。


「それでね、バツゲームなんだけど」


その話は終わったと解釈し、尚も話を続ける『導く者』。

次の言葉に彼女は頭痛を覚えた。


「『定める者』即就任は勿論、ミニスカメイド服ネコミミ装備で1ヶ月過ごしてもらうから」


「ちょっと待て、クルセルド!何処で覚えた、そんな言葉っ!!」


あれか、ア○バ系とやらなのか!?こいつは!!

ショウ、この世界に秋葉原がない事を忘れている。


「え?………セドが教えてくれた。何だか人気があるんだって」


大丈夫か、この世界!

恐らく、セド=ラフェアは純粋に伝えただけだろうが、このエセ笑いは100パーセント悪用している。


彼女は震える拳を握り締め、あくまで冷静を装う。


「じゃあ、お前に7:3メガネの追加を要求する」




クルセルドのお茶目はまだまだ続きます。



次回予告

会話の断片に、ふと蘇る郷愁。黄昏の刻に約束した、あの言葉に偽りはないけれど。

残した言葉は余りにも残酷で。

次回この空の果てよりも「持つべきものは、共犯者」

選択はいつも、すぐ傍にある……。


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