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4-12. 海王星の衝撃

 マインドカーネルの先にある通路には、飛行機のドアのようなハッチが並んでいる。ヴィクトルはレヴィアに言われたドアノブを力いっぱい回してみた。


 バシュッ!


 派手な音がしてドアが開く。

 恐る恐るドアの向こうを覗いてみると、広い部屋になっている。そこには家具が一つもなく、単にカーペットが敷かれているだけ……、引っ越し前のオフィススペースのような部屋だった。奥には大きな窓が並んでいるが、夜のように真っ暗である。


「うわぁ、ここが海王星ですか?」

 ヴィクトルはピョンとだだっ広い広間に降り、キョロキョロする。

「いかにも海王星じゃ!」

 元気な声が返ってきて驚くと、レヴィアは金髪おかっぱの女の子に戻っていた。

 そして、彼女は指先を空中でクルっと回し、浮かぶ椅子を出してピョンと飛び乗る。そして、目の前に大きな画面を三つ、ポンポンポンと出すと画面をパンパンとタップし始める。しばらく画面をにらみながらパシパシして、

「これでヨシ! 地球の時間を止めてスクリーニングをかけたから、しばらくゆっくりできるぞ」

 そう言ってヴィクトルを見て、満面の笑みを浮かべた。

 そして、テーブルをポンと出すと、コーヒーをマグカップに入れ、ヴィクトルにも差し出す。

 部屋中に立ち昇る香ばしい香りが苦難の旅の終わりを告げたのだった。


「ルコアは……、どうなるんですか?」

 ヴィクトルは心配そうに聞く。

「今、地球のデータ全てを全部ひっくり返してチェックしているから、ルコアを見つけたらヒルドを分離して元に戻せるじゃろ」

 そう言ってレヴィアは椅子の背もたれに寄り掛かり、両手でマグカップを持ってコーヒーをすすった。

「ふぅ……、良かった……」

 ヴィクトルはニッコリと笑うとへなへなと座り込んだ。

「なんじゃ、そんなにルコアの事が好きなんか?」

 レヴィアは上目づかいにヴィクトルを見て、笑みを浮かべる。

「そ、そんなんじゃないですって」

 ヴィクトルは真っ赤になって両手を力いっぱい振って否定する。

「ワハハ、分かりやすい奴じゃ。おっぱいが大きい所が気に入ったんじゃろ、スケベ!」

 レヴィアは意地悪な顔でいじった。

「お、お、おっぱいは……、関係ないです!」

 耳まで真っ赤なヴィクトル。

「ふーん、それじゃ、再生する時に胸は小さくしておくとするかのう」

「ダ、ダ、ダ、ダメですよ! そんなの!」

 必死に抗議するヴィクトル。

「お主は分かりやすいのう」

 そう言ってレヴィアはケタケタと笑う。

 ヴィクトルは両手で顔を隠してうつむく。百年以上生きてきたのに、こんな事でからかわれるとは全く情けない話だ。


      ◇


 ヴィクトルは何も言わず、テーブルにつくと静かにコーヒーをすする。激闘の疲れをいやす苦みが心地よくヴィクトルに沁みていった。

 ふと窓の方を見ると、何か青い物が下の方に見える。

 何だろうと思って窓に駆け寄ると……。

「うわぁ!」

 思わず叫んでしまうヴィクトル。

 なんと、そこには(あお)い巨大な星が眼下に広がっていたのだ。

「はっはっは。海王星に来て海王星見て驚くとは変な奴じゃな」

「こ、これが海王星!?」

 その地球の七倍にも達する巨大な惑星は、深く澄んだ青色をたたえながら満天の星々をバックに浮かんでいる。薄い環が美しい円弧の筋の模様を描きながらその巨大な星を囲み、その向こうには雄大な天の川が流れ、クロスして壮大な宇宙のアートを構成していた。

「うわぁ……、綺麗ですね……」

「この青は我も気に入っておる」

 レヴィアは画面をパシパシとタップしながら答える。

「それで……、コンピューターはどこにあるんですか?」

「ここからは見えんなぁ。その星の中、何キロも深くに設置されておるんじゃ」

「えぇ……。せっかく来たのに……」

 レヴィアはチラッと不満そうなヴィクトルを見ると、画面をパシパシとタップして、

「仕方ないのう、ほれ」

 そう言ってホログラムのように、空中に直径一メートルくらいの真っ青な海王星を浮かべた。

「おぉ!」

 ヴィクトルはその映像に走り寄る。

 映像はどんどんと海王星の表面をクローズアップしていく。やがて青い表面を潜り、どんどんと濃紺の奥に沈む漆黒の中を進んでいく。

 しばらくすると、吹雪のように白い粒が吹き荒れる向こうに巨大な黒い構造物が現れてきた。それは一つの街くらいのサイズの漆黒の直方体で、あちこちの継ぎ目から白い光が漏れていた。

「な、なんですかこれは!?」

 その異様な構造体に圧倒されるヴィクトル。

「何ってお主が見たかったものじゃよ。ジグラートと呼ばれる巨大なコンピューターサーバーじゃ。これ一つで地球一個分じゃよ」

「これが……コンピューター!?」

 さらに映像は進む。その黒い構造体の向こうに、さらにもう一つ同じ構造体が見えてきた。

「えっ? もう一個出てきましたよ?」

「全部で一万個はあるからな」

 当たり前のように言うレヴィア。

 地球が一万個ある……。それは全く想像を絶した話だった。ヴィクトルは呆然とその連なる漆黒の構造体を眺める。

 やがて映像はそのうちの一つの内部を映し出す。そこには小屋くらいのサイズの円柱がずらーっと奥にも上下にも横にも延々と並んでいた。

「これ一つ一つが超スーパーコンピューターじゃよ。もう、数えられないくらい並んどるが全体で十五万ヨタ・フロップスの計算力を誇っておる」

「こ、これが僕たちの星の正体……」

「満足したか?」

 レヴィアはニヤッと笑う。

 ヴィクトルは目をつぶり腕を組んで考え込む。海王星に来て見せられた以上疑う余地はない。この無骨な構造物があの美しい地球を作り出し、自分はそこに百年以上暮らしていた。しかし、これは一体どう受け取ったらいいのだろうか? 五十六億七千万年前から延々と続くこのコンピューターシステムの系譜。その中に息づく自分達……。あまりにも考えることが多すぎてヴィクトルは大きく息をつき、首を振ると席に戻ってコーヒーをすすった。

「何も悩む事は無かろう。実体が何であれ、お主もみんなもマインドカーネルで輝く光なのじゃから」

「もちろん、そうです。僕たちの価値は何も変わりません。でも、そうであるならばもっとこう……やりようがあるのじゃないかって……」

 はっはっは!

 レヴィアは笑い、

「お主はつくづくスローライフに向いとらんようじゃな」

 そう言ってうれしそうにコーヒーをすすった。


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