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4-5. 宴会は月面で

「カ――――! 勝利の味は美味いのう!」

 酒樽をガン! と置くと、レヴィアは泡を付けたままうれしそうに笑う。

「妲己はさすがでした。思ったより強くて危なかったです」

 ヴィクトルは戦いを振り返りながら言った。

「お主の青い光、あれには驚かされたぞ」

 レヴィアは肉を(むさぼ)りながら言う。

「宇宙に行った時にですね、仕掛けをしておいたんです」

「二人で宇宙へ行ってきたんです! ランデブーですよっ!」

 ルコアがうれしそうに報告する。

「宇宙? どこまでいったんじゃ?」

「うーん、この国の島が見渡せるくらいでしょうか?」

「地上四百キロくらいじゃな。なんか面白い物は見えたか?」

「本当は月へ行こうと思ったんですが、全然届きませんでした……」

「はっはっは、月は三十八万キロじゃ。その千倍くらい遠いぞ」

 レヴィアは愉快そうに笑った。

「千倍! 主さま、行かなくてよかったですね!」

 ルコアが圧倒されながら言う。

「ちょっと無謀でしたね。行ったら何か分かると思ったんですが……」

 するとレヴィアは、腕を高く掲げてパチンと指を鳴らした。

 すると、窓の外に見えていた神殿の柱や洞窟の壁が無くなり、陽の光が射す岩だらけの景色となって、身体がすごく軽くなる。

「ほれ、何か分かるか?」

 ニヤッと笑うレヴィア。

 ヴィクトルは驚いて窓に駆け寄った。ゴツゴツと岩だらけの原野が広がり、見上げると、真っ黒な空高く、きれいな丸い星が浮かんでいるのを見つけた。真っ青で表面には白い雲の筋がなびいているのが見える……。

「ええっ!? もしかしてあれって……」

「そうじゃ、お主の住む星じゃ。我々は『地球』と、呼んどるが」

「では、ここは月……」

 ヴィクトルは岩の荒れ地を見渡した。

「どうじゃ、何か分かったか?」

 レヴィアは軽くなった酒樽をひょいと持ち上げ、グッと飲んだ。


 ヴィクトルは目を閉じてゆっくりと大きく息をつき、淡々と言った。

「三十八万キロの距離を一瞬で移動できる……。この世界が作られた世界であることは良く分かりました」

 そして、ゴツゴツとした荒れ地の上にポッカリと浮かぶ青い星『地球』を眺める。

 真っ暗な何もない宇宙空間にいきなり存在するオアシスのような青い惑星。その澄みとおる青の上にかかる真っ白な雲は筋を描きつつ優雅な渦を巻き、地球を美しく飾っている。

「主さま、綺麗ですねぇ」

 いつの間にかルコアが隣に来て、一緒に空を見上げていた。

「大切な宝箱……だね……」

 ヴィクトルはその青さに魅了され、ため息をつく。


       ◇


 ヴィクトルは席に戻ってグッとサイダーを飲み、聞いた。

「僕たちの星……『地球』はいつ誰によって作られたんですか?」

「えーと、どこまで話したかのう?」

 レヴィアは美味しそうに肉を引きちぎりながら答える。

「五十六億七千万年前に初めてコンピューターができたと……」

「おー、そうそう。コンピューターを作ったワシらのご先祖様はだな、どんどん進化させ、ついに人工知能の開発に成功したんじゃ」

「人間みたいなことができる機械……ってことですよね?」

「そうじゃ。で、人工知能は最初に何やったと思う?」

「えっ? な、何でしょう……?」

「もっと賢い人工知能を開発したんじゃよ」

「へっ!? そんな事が出来たらどこまでも賢くなっちゃうじゃないですか!」

「ご明察。人工知能は長い時間をかけてどんどん賢く巨大になっていったんじゃ。それこそ最後には太陽全体を電源にして星全部がコンピューターになるくらいな」

「とてつもないスケールですね。すごく時間かかったんじゃないですか?」

「それがたった十万年位しかかかっとらんのじゃ」

 レヴィアはうれしそうに笑った。

「たった十万年って……」

 ヴィクトルはそう言いかけて、五十六億年前の話だったことを思い出す。十万年なんて誤差みたいな時間でしかないのだ。ヴィクトルはその圧倒的なタイムスケールに愕然(がくぜん)とした。

「十万年延々と自らの計算力を上げ続けてきた人工知能じゃったが、もう性能が上がらなくなってきたんじゃ。電源も太陽全体から取っていてもうこれ以上増やせんしな」

「やる事が無くなっちゃいましたね」

「そうじゃ。で、その惑星サイズの巨大コンピューター上で動く人工知能は次に何をやったか分かるか?」

「な、何でしょうね? それだけ膨大な計算力があったら何でも計算できますが……、一体何をやるんでしょうか……?」

「最初はいろんな数学の問題を解いたりしておったが……、まぁ、飽きるわな」

「うーん、まぁ、そうでしょうね……」

「それで星を作ったんじゃ」

 レヴィアはにんまりとうれしそうに笑った。


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