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3-8. 月旅行の気分

 部屋に戻ると、ヴィクトルは怖い顔をしてゴロンとベッドに横たわった。

「主さま、どうかしたんですか?」

 ルコアが心配そうに聞いてくる。

 ヴィクトルは言おうかどうか迷ったが、巻き込む以上正直に話そうと思った。

「襲ってくるのは弟子かも知れん……。この手で捕まえ、理由を聞かねばならん……」

 ヴィクトルは重い調子で言う。

「え? 大賢者の弟子……ですか?」

「そうだ。そんな事をやる奴が居たとは思えないんだけど……」

 ヴィクトルは目をつぶり、ため息をついた。

「主さまは傲慢(ごうまん)すぎですよ」

「えっ? 傲慢?」

「どんなに大賢者でも、他人の心の中まで支配できると考えるのは傲慢すぎです」

 ルコアは優しい顔でヴィクトルの頬をそっとなでた。

「いや、しかし、国王を殺そうとするなんて異常だよ」

「主様……。正義は人の数だけあるわ……。百人いたら百通りの正義があるの。貧困層や政敵など、国王殺すことが正義な人なんていくらでもいるわ」

 ヴィクトルは考え込んでしまった。自分は弟子たちの気持ちもしっかり理解していると思っていたが……それは幻想だったのかもしれない……。

「そんな怖い顔、主さまに似合わないわ」

 ルコアはそう言って、ヴィクトルにのしかかるようにハグをする。

「うわぁぁ 何するんだ!」

 ヴィクトルはルコアの豊満な胸に抱かれて焦る。

「こうすると落ち着くでしょ? 頭で考えずに心で感じると正解は見えるわ」

 そう言ってルコアは優しく頭をなでた。

 ルコアなりの思いやりなのだろう。ヴィクトルは観念して深呼吸を繰り返し、ただ、柔らかく温かな体温を感じる。

 例えテロリストが誰であれ、見つけ出して叩くことは変わらない。ヴィクトルは考える事を止めた。

 そして、ルコアの優しい柔らかい匂いに癒されながら、薄らいでいく意識に身をゆだねる……。


         ◇


 バシッ!

 いつものことで、またかと思いながらヴィクトルは目覚める。

 二人とも寝てしまっていたのだ。

 あくびをしながら窓際まで歩き、街の様子を眺める……。

 日が傾き、窓の外では黄色がかった光に長い影が街に伸びている。

 通りの向こうには白く上弦の月が昇ってきていた。


 ヴィクトルはボーっと月を眺める。

「綺麗だなぁ……」

 しかし、この世界が作りものだとしたら、この月も作り物だ……。

「月ねぇ……」

 ヴィクトルは月をじっと見ながら考えこむ。月に行ったら何があるのだろうか……?

 行ってみたらこの世界が作り物な証拠があったりするだろうか? 宇宙へ行くなど今まで無理だと思っていたが、レベル千相当の魔法が使えるのだ。宇宙くらい行けるだろう。

 しかし……今まで宇宙へ行った人などいない。どうやったら安全に行けるだろうか……。

 ヴィクトルはしばらく宇宙旅行について思案をめぐらした。


        ◇


「よしっ!」

 ヴィクトルは意を決すると、ベッドに戻り、

「ルコアー、寝すぎると良くないぞー」

 と、幸せそうに寝息を立てるルコアをゆらした。

「うーん、もう少し……」

 ルコアは向こう側へ寝返りを打つ。

「なんだよ、服着てても寝られるじゃないか」

 ヴィクトルが文句を言うと、

「あー、寝苦しい! 服はダメだわー」

 と、言いながらむっくりと起き上がり、大きく伸びをするルコア。

 ヴィクトルは呆れながらベッドに座って言った。

「ねぇ、ルコア、月に行った事ある?」

「へ!?」

 寝ぼけ眼で聞き返すルコア。

「月だよ、月。空に浮かんでる奴さ」

「行ったことなんてないですよ! あんなところ行けるんですか!?」

「見えるんだから……、行けるんじゃないの?」

 ルコアは腕組みして首をゆらす。

「行って……、何するんです?」

「レヴィア様が『この世界は作られた世界だ』って言うんだったら、一旦この星を抜け出すと何か証拠を見つけられるんじゃないかと思って」

 ルコアは大きくあくびをして、

「主さまが行くならお供しますけど……、見るからにつまらなそうなところですよね、月って」

 そう言って、眠そうな目でヴィクトルを見る。

「いやいや、何か面白い物あるかも知れないよ。ひとっ飛び行ってみよう!」

 ヴィクトルはうれしそうに言った。



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