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3-7. 弟子の造反

 班長は(しび)れる手をさすりながら、うなだれ、言葉を失う。

 見知らぬ幻術で部下は全滅、自信のあった剣術も全く通用しなかった。強さの次元が違う……。王国最強を誇る騎士団長ですらこれほどまでの強さは無いのだ。


 班長はちらっとヴィクトルを見る。金髪碧眼の可愛い子供……、あの子は彼女よりも強いらしい……。班長はゾクッと背筋に冷たい物が流れるのを感じる。

 なるほど、『王都の脅威』としたあの男の言葉は本当だった。彼女とあの子が攻めてきたら騎士団全員を投入しても止められない。まさに王都の脅威だった。


 班長は何度か深呼吸を繰り返すと、ヴィクトルのところへと足を進め、手を胸に当て、頭を下げて謝る。

「我々の負けです。大変に失礼をいたしました」

 ヴィクトルはうんうんとうなずくと、

「大丈夫、彼女に勝てる人なんていないから」

 そう言ってニコッと笑った。

「えっ? でも、あなたは勝てるんですよね?」

 班長は不思議そうに聞く。

「あぁ、まぁ……」

 すると、ルコアがドヤ顔で言い放つ。

「主さまは別格です! 何と言っても主さまは大賢じ……」

 ヴィクトルは焦ってルコアの口をふさぐ。

「え? だいけんじ……?」

 首をかしげる班長。

「違う違う、だ、『大剣使い』ってことですよ?」

 苦し紛れの言い訳をするヴィクトル。

「えっ!? その体で大剣使うの!?」

「そうそう、剣の方が大きいんですよ。秘密ですよ、はははは……」

 何とも言えない空気が周囲に流れる。

 ヴィクトルはジト目でルコアをにらみ、ルコアは目を泳がせた。


      ◇


「ところで、君たちは何しに来たのかね?」

 腕組みをしたマスターがニヤニヤしながら、班長に聞く。

「とあるミッションに『ギルドの助力も得よ』との指示があり、相談に上がりました」

「とあるミッション?」

「ちょっとここでは……」

 そう言って班長は周りを見回す。

「おい、お前ら、見世物は終わりだ! みんなギルドに入れ!」

 マスターはやじ馬たちを追いやった。

「あ、あなたたちは残って欲しいんだが……」

 班長は、立ち去ろうとするヴィクトルとルコアに声をかける。

「えー、国の依頼なんて嫌ですよぅ」

 ルコアは露骨に嫌な顔をした。

「話だけでも聞いてくれないか?」

 班長は頭を下げる。

「話……聞くだけですよ」

 ヴィクトルも嫌そうに言った。


 班長はやじ馬が居なくなったのを確認すると、小声で話し始める。

「実は国王陛下の護衛をお願いしたい」

「陛下の護衛? そんなのあなた達の仕事ですよね?」

 ヴィクトルはいぶかしげに返した。

「それが……、テロリスト側にどうも奇怪な魔法を使う魔導士がいて、我々では守り切れない懸念があり……」

「奇怪な魔法?」

「重力魔法と火魔法を混ぜたような物という報告がありまして……」

 ヴィクトルは背筋が凍った。重力魔法と火魔法を混ぜるというのは前世時代、賢者の塔で研究していたテーマの一つである。上手く混ぜることで殺傷力を高められることは分かったが、危険なため封印していた成果だった。もし、それが使われているとなると、それは賢者の塔の関係者が加担しているということであり、自分の責任と言える。

 ヴィクトルは青ざめた顔でうつむく。弟子のうちの誰かがやっている……。一体誰がやっているのか……。

「護衛なんてやりませんよ! ね、主さま?」

 ルコアがムっとした様子で言った。

 ヴィクトルは腕組みをしてしばらく考える……。

 弟子はみんな正義感もある、しっかりとした者ばかりだった。一体誰が……。

 しかし、いくら考えても分からない。

 そして、大きく息をつくと言った。

「日程は?」

「四日後にサガイの街への移動があり、これに同行いただきたい」

 班長は真剣な目をして言う。

「え? まさか、主さまやるんですか?」

 ルコアは目を丸くする。

 ヴィクトルは大きく息をつくと言った。

「ルコア、悪いが付き合ってくれるか?」

「え――――! でも……、主さまがやるなら……付き合いますよ、そりゃぁ……」

 口をとがらせるルコア。

「悪いね、ありがと!」

 ヴィクトルはルコアの背中をポンポンと叩く。

「受けますので、条件などはマスターと詰めてください」

 ヴィクトルはそう言うと、足早にギルドを後にした。

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