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3-1. 救難依頼

 一階の食堂で朝食をとり、コーヒーを飲んでいると、ドタドタドタと、誰かが慌てて入ってくる。見ると、ギルドの受付嬢だった。

「あ、いたいた! ヴィッキーさん!」

 受付嬢はヴィクトルを見つけると、急いでやって来て、早口で続けた。

「おはようございます! 緊急の依頼がありまして、ギルドまで来てもらえませんか?」

 ヴィクトルはルコアの方を見る。

 ルコアはキョトンとしながらうなずいた。

「分かりました。支度してすぐに行きます」

 ヴィクトルは急いで立ち上がる。


      ◇


 ギルドマスターの部屋に通されると、黒いローブを着た女の子がソファーに座っていて、泣きそうな顔でヴィクトルたちを見る。

「朝早くから悪いね」

 マスターは緊張感のある声で言った。

「な、何があったんですか?」

「彼女のパーティーが落とし穴のワナに落ちてしまって、消息不明なんだ」

「すみません! お力を貸してもらえませんか?」

 魔導士の女の子が立ち上がって早口で言った。

「別に僕らでなくても……、誰でもやってくれそうですけど?」

「そ、それが落ちたのが地下三十七階からなので……」

 そう言って女の子はうなだれた。

 マスターが補足する。

「三十七階から落ちたとすると、Aクラスパーティー以上でないと難しい。そして、残念ながら今動ける心当たりは君たちだけなんだ」

「一応僕たちはCですが……」

 ヴィクトルは渋い顔をする。

「分かってるが、今は緊急なので、『一切口外しない』と約束させることでお願いしたいんだ」

 ヴィクトルはふぅ、と息をつくと、渋々言った。

「分かりました。同じ落とし穴から降りて、探せばいいですね?」

「やってくれますか!? ありがとうございます!」

 女の子は涙をポロポロとこぼしながら、ヴィクトルの手を両手で握る。

「あ、それから……」

 マスターが言いにくそうに切り出した。

「何か?」

「その……、遭難者なんだけど……。昨日君たちにヤジを飛ばしたジャックという奴なんだよね……」

「それなら私は行きません! 主さまを馬鹿にした(ばち)が当たったんです!」

 ルコアが声を荒げる。

「ごめんなさい。本当にごめんなさい! それでも大切な仲間なんですぅ……うっうっう……」

 部屋には彼女の嗚咽(おえつ)が響いた。

「報酬は金貨二十枚。彼女の全財産だ。気持ちを汲んでもらえないだろうか……?」

 マスターはルコアに申し訳なさそうに言う。

 ルコアはツンとして顔をそむけたままだ。

「ルコア、行こう。僕らの強さを見せつけてやろうじゃないか」

 ヴィクトルがニヤッと笑って諭すと、ルコアはチラッとヴィクトルを見て言った。

「見せつけてやる……、それはいい考えかも……ですね」

「ついでにサイクロプスの魔石も取れるかもよ?」

「あー、それのついでならいいですね」

 ルコアはニコッと笑う。

「よし決まり!」

 ヴィクトルもうれしそうに笑った。


 ヴィクトルが女の子に声をかける。

「それでは行こうか。僕がダンジョンまで飛んで運ぶけど大丈夫……」

「ダメです! 私が運びます!」

 ルコアがさえぎるように声を荒げて言った。

 そして窓を開けると、女の子をお姫様抱っこして窓の外へピョンと飛ぶ。

「えっ!? うわぁぁ!」

 予想外の展開に慌てる女の子。

「ひゃあぁぁぁ――――!」

 女の子の叫び声が遠くへ小さくなっていく。

「悪いけど頼んだよ。ジャックはあれで結構いい所もあるんだ」

 マスターは申し訳なさそうに言った。

「はい、分かりました。でも……、一般的にはもう手遅れの時間ですよね?」

 ヴィクトルは渋い顔をする。

 マスターは目をつぶってうなずき、息をつくと言った。

「それでも彼女には必要な事なんだよ……」

「なるほど……、分かりました。全力を尽くしてみます」

 ヴィクトルはそう言うと、窓から飛び出し、ドン! と衝撃音をあげながら一気に音速を超えてルコアを追いかけた。



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