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2-13. いきなりの裸婦

 ヴィクトルは温かく気持ち良い揺れの中、目が覚めた。

「あれ……?」

「主さま、お目覚めですか?」

 ルコアの声がする。

 なんとヴィクトルは、ルコアに背負われて夜の石畳の道を運ばれていた。

「ゴ、ゴメン……」

「こうやってお世話できるのはうれしいんですから、気にしないでください」

 ルコアは後ろを振り向き、ニコッと笑う。

「ありがとう……。子供の身体ではお酒はきつかった……」

 ヴィクトルは反省する。

「いいんですよ、レヴィア様も『酒くらい飲みたくなるじゃろ』って笑ってました」

「しまったなぁ……」

 ヴィクトルは酒に逃げてしまった未熟さを恥じ、今度謝らねばと、大きく息をつく。

 そして気持ちの良いルコアのリズムに揺られ、温かな体温を感じながらまた、意識が薄れていった。


        ◇


 バシッ!

 ヴィクトルは、はたかれて目が覚める。

「う、うーん……」

 目を開けるとまだ薄暗いベッドの上で、誰かの腕が額の上に載っている……、ルコアだ。

「ちょっと、もう……」

 腕を払いのけ、起き上がりながらルコアを見て、ヴィクトルは固まった……。ルコアは素っ裸で、美しく盛り上がった胸をさらしながら、呑気に幸せそうな寝顔を見せていたのだ。

 ヴィクトルはゴクリとツバを飲む。

 その均整の取れたプロポーション、美しい透き通るような肌はまるで西洋絵画のように厳かな雰囲気さえ漂わせていた。

 しばらくその姿に見ほれていたヴィクトルは、知らず知らずのうちに手が伸びてしまっているのに気がつく。六歳児とは言え中身は大人の男である。そこには(あらが)いがたいものがあった。

 しかし、寝込みに手を出すようなこと、あってはならない……。ブンブンと首を振り、毛布をそっとかけて立ち上がる。そして、水差しの水をコップに入れると、ゴクゴクと一気に飲み干した。

「ふぅ……」

 カーテンを開けると、東の空は鮮やかな茜色に染まり、朝露に濡れた石畳はその茜色を反射して静謐(せいひつ)な朝の街を彩っている。


 ヴィクトルはそっと窓を開けた。

 チチチチッ

 小鳥の鳴き声が聞こえ、涼しい朝の風が入ってくる。

 ヴィクトルはその爽やかな風を浴びながら頭を冷やす。そして、昨晩の事を思い出していた。


 この美しい世界が誰かに作られたものらしいこと、そして自分自身の思考も機械上で動いているのかもしれないこと、それらは実にとんでもない話だった。この美しい朝焼けの街が、(ささや)き合う鳥たちの営みが、それらを感じている自分が、誰かに作られているというのは、あまりにも飛躍しすぎている。

 と、ここで、死後の世界で会った女神、ヴィーナの言葉を思い出した。

『あなたの功績にはとても感謝してるわ……』

 確かこんな事を言われた覚えがある。しかし……、自分がやっていたのは単にレヴィアの作った魔法システムを分析していただけに過ぎない。魔法について知りたければレヴィアに聞けばいいだけの話で、自分のやったことが功績になるとはとても思えなかった。

 しかし、ヴィーナは喜んでいるようだった。一体これは何なんだろうか?

 魔法を知りたいわけではないとしたら、自分の活動の何を評価してくれたのだろうか……。

 眉をひそめて必死に考えていると、プニっと誰かに頬を押された。

「なーに、怖い顔してますか?」

 見るとルコアが毛布を巻いて立っていた。

「いや、ちょっとね……。あ、昨晩はゴメンね」

「ふふっ、弱った主さまも可愛かったですよ」

 ルコアはニコッと笑う。

「はは、参ったな……。で……、何で裸なの?」

 ヴィクトルは頬を赤らめて聞いた。

「うふふ、触っても……良かったんですよ?」

 ルコアは斜に構えて妖艶な笑みを浮かべる。

「いや、あまりに美しくてつい……ね。でも、毎晩裸になられても困るんだけど?」

「私寝るときはいつも裸です。裸じゃないと寝られません。それとも龍に戻ります?」

 不満そうなルコア。

「龍って……この部屋入らないよね?」

「今、龍に戻ったら、この建物壊れますね」

 ルコアはニヤリと笑い、ヴィクトルは肩をすくめた。

「分かった分かった。その代わり毛布かぶっててよ」

 ヴィクトルが折れると、ルコアはそっと近づいて耳元で、

「ふふっ、いつでも触っていいですからね」

 そうささやいて、うれしそうに洗面所へと入って行く。

「へっ!?」

 ヴィクトルは間抜けな顔をさらし……、目をギュッとつぶって宙を仰ぐとしばらく動けなくなった。


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