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2-8. 野生を呼ぶステーキ

 ヴィクトルは水を一杯飲むとルコアを起こし、夕飯に誘った。

「ふぁ――――あ! 良く寝ちゃい……ましたね」

 あくびをしながらルコアが言う。

「君に思い切り叩かれたんだけど?」

 ヴィクトルはジト目で言う。

「えっ!? 主さまごめんなさい! どこ? どこ叩いちゃいました? 痛くないですか?」

 ルコアはヴィクトルを捕まえ、あちこちをさすってくる。

「あー、もういいから! はい、ディナーに行くよ!」

 そう言ってルコアを振り払う。

 どうも調子が狂うヴィクトルだった。


           ◇


 二人は石造りの建物の並ぶ夕暮れの街を歩き、ルコアお勧めのレストランにやってきた。

 ルコアはテラス席に陣取ると、

「おかみさーん」

 と、店の方に手を振る。

「ここは何が美味しいの?」

 ヴィクトルが聞くと、

「へ? 私はステーキしか食べたことないですねぇ」

 と、首をかしげる。ドラゴンに聞いたのは失敗だったようだ。

「あら、お嬢ちゃん久しぶり。今日は子連れでどうしたんだい?」

「ふふっ、ちょっと訳ありなの。それで、いつもの奴と、ステーキ十人前ね。主さまもステーキでいい?」

 ルコアはヴィクトルを見る。

「あ、はい……」

「飲み物はミルク?」

 おかみさんは優しくヴィクトルに聞く。

 ステーキにミルクは合わないだろう。だが、酒を頼むわけにもいかない。

「水でいいです……」

 ヴィクトルは残念に思いながらそう答えた。

「はい、わかったよ」

 おかみさんはそう言うと、店の裏に回り、酒樽を重そうに持ってきて、ドン! とルコアの前に置いた。

「キタ――――!」

 ルコアは歓喜の声を上げる。

「へ? 何これ?」

 ヴィクトルが驚いていると、ルコアはグーパンチでパン! と上蓋を割った。そしてそのまま樽を持ち上げ、飲み始める。


 ング、ング、ング、プハ――――!

 ルコアは恍惚の表情を浮かべ、しばらく動かなくなった。

 ヴィクトルが唖然(あぜん)としていると、おかみさんが水を持ってきてヴィクトルの前に置き、耳元でささやく。

「驚いちゃうわよね、一体この細い身体のどこに入って行くんだろうね?」

 そして、ケラケラと笑いながら店内へと戻って行った。


      ◇


 しばらくしておかみさんがステーキを二皿持ってきたが……、ルコアのは厚さ三十センチ近くある。表面はカリカリだが、中はきっと生だろう。

「はい、嬢ちゃん、もってきたわよぉ~」

 おかみさんは嬉しそうにタワーのようなステーキをテーブルに置いた。ステーキは熱々のステーキ皿に熱されてジュー! と煙を上げており、肉の焦げる香ばしい匂いを辺りに漂わせている。

「美味しそ~!」

 ルコアはそう言うとガッと両手でつかみ、いきなり噛みついた。

「ルコア! ちょっとマナーという物を……」

 ヴィクトルが苦言を呈すると、おかみさんは、

「嬢ちゃんはいつもこうなのよ」

 そう言ってハッハッハと笑いながら戻って行った。

 ヴィクトルは渋い顔をしてルコアを見つめる。美味しそうに肉にかじりつくルコアは真剣そのもので、女の子というよりは野生動物であり、ヴィクトルはその鋭く光る瞳の迫力に気おされていた。

 その時、ルコアの口に鋭い牙が光る。

「ちょ、ちょっと、ルコア!」

 ヴィクトルは驚いて言った。

「主さまどうしました?」

 口の周りを真っ赤にしたルコアが、モグモグしながらヴィクトルを見る。

「牙! 牙!」

 ヴィクトルは自分の口を指さして教える。

「あっ、うふふ、失礼しましたわ」

 ルコアはそう言うと牙をしまい、また肉にかじりついた。

 ヴィクトルは、ふぅとため息をつき、自分のステーキにナイフを入れる。

 しかし、ルコアの豪快な食事を見ているうちに、食欲も失せてしまっていた。


 ふぅ……。

 ヴィクトルはフォークに刺した肉を眺めながら言う。

「ねぇルコア、朝の話だけどさぁ……」

「えっ? 何でしたっけ?」

 ルコアは肉を引きちぎりながら答える。

「レヴィア様に会いたいんだけど」

「あ、レヴィア様ね。呼んでみます?」

「えっ!? 今?」

 いきなりの話に驚くヴィクトル。ルコアを作り、魔法を作り上げた偉大なる神代真龍をそんな簡単に呼んで大丈夫なのだろうか?



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