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ロスト・パーツ  作者: G-20
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【第2話】 グレンドル傭兵団

 俺の名前はメイシン・テール。

 ルヴェート帝国の帝都の出身でそれなりの名家の生まれだ。

 自分で言うのもなんだが、かなりのボンボンだ。

 幼いころから、芸術から剣術までのあらゆる教育は親が金を出し、なんやかんやで成人を迎えるころには学位も取得した。有名どころな学校ではないにしろ、学位があればまず職に困ることはない。

 後は親が決めた見合い相手と婚約すれば良かったのだが、俺は“自由”という言葉に憧れてしまい、親と大喧嘩をして出奔した。


 それが、間違いだった……。


 当時の俺は冒険者とか傭兵などの職種の違いもわからず、ただただお金を稼ぐために、てきとうに職を探した。

 もちろん、身分を隠しての職探しであるから、どこも受け入れてもらえなかったのだ。

 しょうがないから、ごろつきが多いと噂されている傭兵稼業することにした。

 傭兵稼業もいくつか種類があり、日雇い型、固定報酬型、成果報酬型、などと種類が豊富なのだ。

 俺は傭兵のことなんて、よくわからなかったから、帝都の中でも中小規模のグレンドル傭兵団に入団することにした。

 このグレンドル傭兵団は依頼が安定して入っており、固定報酬型だから生活が安定しているということを謳い文句としていた。


 ただ、実際は安い賃金でこき使われていた。


 しかも、最悪なのが依頼の多くが非正規の帝国軍や冒険者ギルドへの派遣というかたちで飛ばされるのだ。

 それがわかっているならば、直接依頼者と傭兵契約を結んだ方が報酬よい。

 依頼者が多めに傭兵団に報酬を払っても、俺らの手元にくるのは銀貨1枚程度だ。

 なんなら、日雇い型の傭兵の方が俺らよりももうちょっと多いわ。


 「おい! オメェ、ぼさっとしてんじゃねえ!!」


 「すみません!!」


 基本的に傭兵は図体がデカい。もれなく全員ムキムキの脳筋集団だ。

 俺はというと、中肉中背で、もやしの様な体格だ。明らかに向いていないと思う。

 だが、気がついたときにはもう入団した後だったんだ。

 退団しようにも契約期間がまだ残ってる。

 親の言うことを聞いておけばこんなクソみたいにこき使われることはなかったのにと後悔している。


 「こっちだ、早く来い」


 「はい」


 団長の後に続いて、帝国軍の堅苦しそうな名前の組織へ挨拶をしに行くのだ。


 これが、俺の派遣先になるのかぁ……


 帝国軍へ派遣されるから身なりをしっかりした方がいいのかと思ったけど、警備している人を見る限り大丈夫そうだ。


 というか、あの警備も派遣とかなのだろうか?


 俺が前に帝国の兵士を見たときは高価な装備一式を揃えて姿勢よく巡回していたのだが……


 「お待たせしました。どうぞこちらへ」


 「ああ、失礼するよ」


 「ど、どうぞよろしくお願いします」


 いきなり、扉が開くから驚いてしまった。

 団長は帝国の兵士と仕事することが多いのだろうか?

 なんというか、慣れたような感じで通路の真ん中を歩いている。


「あんまり、きょろきょろするんじゃない」

 

 怒られてしまった。いやでも、仕方ないじゃないか、帝国の庁舎の割と汚いんだもの……

 

 「こちらの部屋になります。では、私はこれで」


 団長が会釈をすると、俺もそれに倣って頭を下げた。


 「いいか? 何か聞かれても、余計な事をべらべらと語んじゃねーぞ」


 え? どういう意味だろう?


 「それは……どういう……」


 「口答えするんじゃねえ!!」


 「はいっ!!」

 

 「よし、じゃあ入るぞ」


 緊張するな……


 中へ入ると男が三人座っていた。


 「これはこれは、団長さん、今日のはちゃんと大丈夫なのか?」


 えっ? 大丈夫ってなに??


 「そりゃあ、勿論ですぜ!」


 「本当にぃ? 高い金を払ってんだからしっかり動いてもらわないと困るからね君? 前のなんて使い物にならなかったんだよ!」


 「あ、えっと……」


 え? 前? 俺もしかして……


 「おい! 返事だろうが!!」


 「ま、使うことは決まってるけど一応、逃げ出さないようにしてもらわないとね」


 「そりゃあ、こいつは逃げ出したりなんかしねーよ、俺が鍛えたからな!!」


 いや、鍛えてもらってないっす……


 「とりあえず、この契約書にサインしてあとは団長とだけで話すから君はもういいよ」

 

 「はい、書類にサインして」


 え? なにこれ?


 「いいから、早くサインしろよ!!」

 

 団長が声を荒げる。

 

 「すいやせん、こいつ腕は立つけどトロイもんでねぇ~」


 「いやいや、構わないよ、後はこっちでしっかりと“教育”するから」


 「あ、サインしたね」


 書類を横取ると、手でのけ払うかのように部屋から追い出された。


 そして、後から知ったのだが、俺はこのサインがきっかけで“自由”とは程遠い生活を送ることになったのだった。

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