第八話 戦禍のドワーフ族
「すみません。昔から、凄い武器や防具を見ると、自制が効かなくなってしまって……」
ニイナと名乗ったドワーフ少女は、俺たちに深々と頭を下げた。
「まあ、妾は別に構わんがの。見る目があるのは良いことじゃ」
上から目線で許すリーマ。
無視された時は怒っていたが、褒められるぶんには機嫌がよさげだ。
「しっかし、ニイナはリーマが怖くないのか? 俺が聞くのもなんだけど」
ニイナには、リーマが魔物であると説明済みだ。
しかし、彼女は、
「こんなに立派な防具のリーマさんが、悪い魔物であるはずがありません!」
と、謎の解釈を打ち立てていた。
『悪い』どころか、魔王の鎧なんだけどなあ。
「妾とて、害意なき者を攻撃したりはせん。戦うべきは、強大な敵に限るのじゃ」
好戦的なリーマのことだから、嘘ではないのだろう。
『敵』というのが、得てして人間側であるだけで。
しかし、ニイナは、ぱあっと明るい笑顔になる。
「それでこの騎士様と共に旅をしておられるのですねっ」
「……騎士って、もしや俺のことか?」
「違うのですか?」
ニイナは、ぱちくりと目を瞬かせた。
「一応、騎士見習いではあったけど……」
「じゃが、お主はもはや死亡扱いではないのかの?」
そうなんだよな。
両手両足を失ったうえ、その地下空洞も崩落しちゃったから、普通は死んだとみなされてるはず。
……まあ、今更戻るつもりはないし、戻れない事情もできちゃったんだけど。
「見習い、ですか。ああ、もしかして、それで剣を携えていないのですね?」
ニイナの言葉に、
「そういえば」
「そうじゃったな」
俺たちは、今頃になって武器を持っていないことに気がついた。
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「ここです、ここ。この岩の後ろが、実は幻覚で……」
「うおっ! 手がすり抜けた!」
「ほお、見事なものじゃな」
俺たちはニイナの案内で、ドワーフたちの隠し鉱山に通じる穴へとやってきていた。
ニイナは、助けてくれたお礼にと、ドワーフ製の武器を贈りたいと言ってくれたのだ。
この山の地下には、実は坑道が掘りめぐらされていて、ドワーフたちの居住地や、鍛冶工房の区画まであるという。
山間で見たドワーフの集落は、ちょっとした囮のようなものであるそうだ。
「私たちの本当の住み家は、やっぱり地下が一番なのよ……なんです」
外部との接触がないからだろう。
ニイナは丁寧な言葉づかいに慣れていないようだった。
リーマを見て暴走していたときとは、明らかに口調の滑らかさが違っている。
「無理に畏まらなくっていいぞ。俺には身分なんてないし」
「妾としても、さっきの口調のほうが好ましいの。堅苦しいのは性に合わんのじゃ」
俺たちの奨めもあって、ニイナは砕けた自然体の話し方に変わった。
「上の集落は、1ヶ月おきに人員が全部入れ替わって、ローテーションで生活してるよう見せかけてるの。もしも攻め入られた時のために、避難用の隠し通路も用意してるわ」
穴を下りながら、ニイナはドワーフ族の事情を詳しく語った。
地下に繋がる物品は、集落に一切持ち込まず、徹底的に痕跡を残さないようにしているのだという。
「それってやっぱり、西のガダグア領から見つからないために?」
「妾の探知魔法をも欺くとは、なかなかの高位魔法が使われておるようじゃのう」
神妙な顔で、ニイナは頷いた。
「私たちは、もともとはガダグア領の南方に位置する、ティヴィル渓谷に暮らしていた部族なの。まだ私の生まれる前のことだけど、深い谷の岸壁に、幾重にも隧道が掘られていて、そこにみんなで暮らしていたって聞いてるわ」
だが、不運はその渓谷の立地だった。
ティヴィル渓谷は、ガダグアの領主が併呑を目論む南の別領地への、進軍の要衝だったのである。
「ある日、ガダグアの兵隊たちがやってきて、渓谷の上に橋頭堡を建設し始めた。谷の向こうに進軍するための拠点の砦よ。ガダグア兵は、『南のベルトーレン領が謀反を起こした、だから、この渓谷を徴発する』って、一方的に、そんなことを言ってのけた」
もちろん、ドワーフたちは抵抗した。
しかし、いくら良い武器があろうとも、向こうは軍隊、こちらはたかだか一部族。
初めから勝敗の帰趨は明らかだった。
「じゃあ、敗れたドワーフ族は、渓谷を追い出されちまったってことか」
ニイナは、苦虫を噛んだような顔で首肯する。
「ガダグア兵の追撃を躱しながら、歩いてこの山まで逃げ延びたの。大人も子どもも関係なく、かなりの距離を歩き続けて。両親から、何度となく過酷な旅の話を聞かされたわ。仲間をずいぶん失ったって……」
悲しげな顔をしたニイナに、リーマが尋ねた。
「よいのか? 妾たち余所者を、隠れ家に呼び込んでも」
ニイナは、途端に笑顔になった。
「それは大丈夫よ。みんな、素晴らしい武器や防具に目がないから。リーマさんを見たら、きっと、神様みたいに崇め始めるわね」