表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/18

第八話 戦禍のドワーフ族

「すみません。昔から、凄い武器や防具を見ると、自制が効かなくなってしまって……」


 ニイナと名乗ったドワーフ少女は、俺たちに深々と頭を下げた。


「まあ、(わらわ)は別に構わんがの。見る目があるのは良いことじゃ」


 上から目線で許すリーマ。

 無視された時は怒っていたが、褒められるぶんには機嫌がよさげだ。


「しっかし、ニイナはリーマが怖くないのか? 俺が聞くのもなんだけど」


 ニイナには、リーマが魔物であると説明済みだ。

 しかし、彼女は、


「こんなに立派な防具のリーマさんが、悪い魔物であるはずがありません!」


 と、謎の解釈を打ち立てていた。

 『悪い』どころか、魔王の鎧なんだけどなあ。


「妾とて、害意なき者を攻撃したりはせん。戦うべきは、強大な敵に限るのじゃ」


 好戦的なリーマのことだから、嘘ではないのだろう。

 『敵』というのが、得てして人間側であるだけで。

 しかし、ニイナは、ぱあっと明るい笑顔になる。


「それでこの騎士様と共に旅をしておられるのですねっ」

「……騎士って、もしや俺のことか?」

「違うのですか?」


 ニイナは、ぱちくりと目を(またた)かせた。


「一応、騎士見習いではあったけど……」

「じゃが、お主はもはや死亡扱いではないのかの?」


 そうなんだよな。

 両手両足を失ったうえ、その地下空洞も崩落しちゃったから、普通は死んだとみなされてるはず。

 ……まあ、今更戻るつもりはないし、戻れない事情もできちゃったんだけど。


「見習い、ですか。ああ、もしかして、それで剣を携えていないのですね?」


 ニイナの言葉に、


「そういえば」

「そうじゃったな」


 俺たちは、今頃になって武器を持っていないことに気がついた。


 ・

 ・

 ・


「ここです、ここ。この岩の後ろが、実は幻覚で……」

「うおっ! 手がすり抜けた!」

「ほお、見事なものじゃな」


 俺たちはニイナの案内で、ドワーフたちの隠し鉱山に通じる穴へとやってきていた。

 ニイナは、助けてくれたお礼にと、ドワーフ製の武器を贈りたいと言ってくれたのだ。


 この山の地下には、実は坑道が掘りめぐらされていて、ドワーフたちの居住地や、鍛冶工房の区画まであるという。

 山間で見たドワーフの集落は、ちょっとした(おとり)のようなものであるそうだ。


「私たちの本当の住み家は、やっぱり地下が一番なのよ……なんです」


 外部との接触がないからだろう。

 ニイナは丁寧な言葉づかいに慣れていないようだった。

 リーマを見て暴走していたときとは、明らかに口調の滑らかさが違っている。


「無理に(かしこ)まらなくっていいぞ。俺には身分なんてないし」

「妾としても、さっきの口調のほうが好ましいの。堅苦しいのは性に合わんのじゃ」


 俺たちの奨めもあって、ニイナは砕けた自然体の話し方に変わった。


「上の集落は、1ヶ月おきに人員が全部入れ替わって、ローテーションで生活してるよう見せかけてるの。もしも攻め入られた時のために、避難用の隠し通路も用意してるわ」


 穴を下りながら、ニイナはドワーフ族の事情を詳しく語った。

 地下に繋がる物品は、集落に一切持ち込まず、徹底的に痕跡を残さないようにしているのだという。


「それってやっぱり、西のガダグア領から見つからないために?」

「妾の探知魔法をも欺くとは、なかなかの高位魔法が使われておるようじゃのう」


 神妙な顔で、ニイナは頷いた。


「私たちは、もともとはガダグア領の南方に位置する、ティヴィル渓谷に暮らしていた部族なの。まだ私の生まれる前のことだけど、深い谷の岸壁に、幾重にも隧道(トンネル)が掘られていて、そこにみんなで暮らしていたって聞いてるわ」


 だが、不運はその渓谷の立地だった。

 ティヴィル渓谷は、ガダグアの領主が併呑を目論む南の別領地への、進軍の要衝(ようしょう)だったのである。


「ある日、ガダグアの兵隊たちがやってきて、渓谷の上に橋頭堡(きょうとうほ)を建設し始めた。谷の向こうに進軍するための拠点の砦よ。ガダグア兵は、『南のベルトーレン領が謀反を起こした、だから、この渓谷を徴発(ちょうはつ)する』って、一方的に、そんなことを言ってのけた」


 もちろん、ドワーフたちは抵抗した。

 しかし、いくら良い武器があろうとも、向こうは軍隊、こちらはたかだか一部族。

 初めから勝敗の帰趨(きすう)は明らかだった。


「じゃあ、敗れたドワーフ族は、渓谷を追い出されちまったってことか」


 ニイナは、苦虫を噛んだような顔で首肯(しゅこう)する。


「ガダグア兵の追撃を躱しながら、歩いてこの山まで逃げ延びたの。大人も子どもも関係なく、かなりの距離を歩き続けて。両親から、何度となく過酷な旅の話を聞かされたわ。仲間をずいぶん失ったって……」


 悲しげな顔をしたニイナに、リーマが尋ねた。


「よいのか? 妾たち余所者を、隠れ家に呼び込んでも」


 ニイナは、途端に笑顔になった。


「それは大丈夫よ。みんな、素晴らしい武器や防具に目がないから。リーマさんを見たら、きっと、神様みたいに崇め始めるわね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ