第七話 周りが見えなくなる性格
『まったく、こんなつまらん戦い方をしよってからに!』
俺とリーマは、戦い方の指針について、終わった後になって揉めていた。
「仕方ないだろ。まだ魔力の扱いに慣れてないんだから。これが一番確実だったんだ」
『せめて近づいて殴らんか! 遠くから相手を無力化するなど、魔王の鎧にあるまじき戦術じゃ!』
「万が一ズッコケてるうちにあの子が食べられちゃったら、目も当てられないだろ!」
ギャーギャーと喚いている俺たちのもとに、
「あのー、お話中すいません。というか、どなたと話されてるんですか?」
さっきのドワーフ少女がやってきていた。
「あ、無事だった?」
気軽く聞く俺。
きょとんとするドワーフ少女。
「え、あ、はい。じゃあやっぱり、さっきの地滑りは、あなたが起こし、た、も……の……?」
少女の様子が、急に「きょとん」ではなくなった。
俺のことを、じいっと見つめて、言葉を失くして、そして――
「なによこれ!? 曲面部も、平面部も、加工技術が高いなんてもんじゃないわよ! 本当に人の手による防具なの!?」
――突然、鎧にガバっと組みついた。
「凄いわ……流麗な曲面加工に、細緻精密な切削加工。かなりの硬度の金属でしょうに、なんて佳麗な……」
少女はうっとりとした目で鎧を舐めるように見回しながら、情熱的な声色でぶつぶつと呟いている。
「接続部なんて、いったいどうやってるのよ。可動域を極限まで確保しながら、それでいて強度と魔力伝達性能を阻害しない構造を実現してる。もはや芸術の域すら超えてるわ。神業としか言いようがないじゃない」
前に後ろに回りこんで、鎧を隅々まで観察していくドワーフ少女。
『見る目がある小娘じゃのう』
褒めちぎられて、まんざらでもなさげな魔王の鎧。
「……ていうか、リーマの声って、もしかして彼女に聞こえてない?」
『融合中じゃからの。解除すれば聞こえるはずじゃ』
というわけで、融合解除。
「ふむ、これで妾の声が聞こえるかの?」
ドワーフ少女に反応はなかった。
細部の観察に熱中していて、周りの音など耳に入っていないようだ。
「よし、ぶっ飛ばすかの」
拳を振り上げる短気なリーマ。
「やめたげて」
どうどう、と止める俺。
「そのポーズで止まってて!」
その隙に、脇や肘の関節部を覗きこむ防具マニア。
よく考えたら、まだ名前すら聞いてない。
「リーマ。魔力の放出とかで、この子の動きを止められない?」
「威圧とかなら可能じゃな。ま、そのくらいが落としどころか」
リーマは小さめに魔力を発して、
「ふぎゃ!?」
少女の意識を、ノーダメージで刈り取った。