第六話 ドワーフ少女と流れる金属
「なんだ!? 誰の悲鳴だ!?」
突然聞こえた叫び声に、俺は辺りを見渡した。
俺より早く、リーマが場所を特定した。
『妙だの。さっきまで何の気配もなかった場所に、人が現れておる』
「近いのか?」
『うむ。しかし、人だけではなさそうじゃ。なにか、大きな気配も窺える』
「とにかく行ってみよう」
『よし、体の支配権を預かるぞ』
融合を解除し、リーマに鎧の動作を任せる。
リーマは軽やかに斜面を駆け下りて、森の中に、悲鳴の主を探し当てた。
「あれは、ドワーフの娘じゃの」
「何かに追われてる、何だアレ?」
小柄なドワーフの少女は、不定形のドロドロとした液状の塊から逃げていた。
塊は、鈍い銀灰色に光っていて、少女よりも、俺の体よりも遥かに大きい。
そんなやつが、流れるように坂をのぼって、少女の背中に迫っていく。
「スライムのようじゃが、色味からして鉄分が多いタイプかの」
「そんなのいるのか?」
「液体状のくせに、打撃にも斬撃にも強いという、変わった特性のモンスターじゃ」
などと暢気に話している場合ではなかった。
鉄スライムは、木々の間にドワーフの少女を追い詰めて、補食しようと、体をぐにゃりと伸ばしていく。
「助けないと!」
「む、助けるのか?」
俺とリーマに、温度差があった。
「ま、お主がそうしたいのなら構わんぞ。他人事には見えぬのじゃろうしな」
リーマは俺に、体の支配権を託した。
『そのかわり、戦うのはお主じゃ』
そう、あの子は俺なんだ。
「ありがとう、リーマ!」
両手両足を失って、仲間にさえも見捨てられて、ドラゴンに怯えていたときの俺なんだ!
***
「誰か助けて!」
ドワーフ族のニイナは、必死の思いで逃げていた。
(迂闊だったわ。まさか、あんな大きなやつがいたなんて)
彼女は、ドワーフの集落が管理する隠し鉱山の、穴のひとつに入っていた。
鉱山は、特殊な魔法で厳重に隠匿されていて、外からでは、高位の感知魔法でも判別できなくなっている。
その出入口の穴のひとつ。
厳密には、放棄された穴のひとつに、ニイナはこっそり入り込んでいた。
放棄理由は、掘れる範囲の鉱石を採り尽くしたから。
しかしニイナは、固い岩盤層さえ砕いてしまえば、その先に、特別な鉱石があると睨んでいた。
だが。
(まさか、地盤の一部に亀裂があって、スライムが棲みついてるなんてわからないわよ……!)
スライムは、岩盤の先の未採掘の鉱石を食い荒らしていた。
食べた分だけ、スライムは体を肥大化し、防御力まで上げていた。
(持ってきた武器は通じなかった。武器はよくても、私の腕じゃあいつを倒せない)
ニイナは森の斜面を上へと走る。
しかし、スライムは森の木々など歯牙にもかけず、坂道で減速することもない。
(もうだめ、このままじゃ……)
やがて、ニイナは乱立する木々に阻まれて、逃げ道をなくしてしまう。
後ろからは、鈍い銀色のスライムが、うねうねと触手を伸ばしている。
(喰われる!)
ニイナが死を覚悟した、その時だった。
轟音とともに、山の斜面が落ちてきた。
「な、何!?」
ニイナの目の前を、巨大な岩々が転げ落ちた。
崩れてきた山肌の岩石が、スライムのいた周辺の地面をえぐり、呑み込んだのだ。
破砕流と化した岩石群は、ガラガラとすさまじい音をたて、麓目掛けて転がり続けた。
「崖、崩れ……?」
巻き込まれたスライムは、岩と一緒にかなり下まで落下したらしい。
「どうなってるの? ここは、地滑りなんて起きるような山じゃ……」
斜面を見上げたニイナの目は、信じられないものを見た。
崖崩れの発生地点で、地面に右手を突き刺している、黒い鎧の精悍な騎士を。
「嘘!? あの人がこれを起こしたというの?」