第五話 不穏な集落
俺たちは、リーマが感じたという人の気配が集まる場所へと接近していた。
「やはり人がおるようじゃ。それなりの人数……おそらく小規模な集落を築いておるのじゃろう」
「集落だって? こんな領地と領地の狭間の山奥に?」
道すらないのに、どうやって生活してるんだ?
「不便な場所じゃが、その、領地の境というのが利点なのやもしれんな」
「利点?」
「たとえばじゃが、片一方の領主が、兵隊を境界の山に向けて進軍させたとする。さて、もう片方はこれをどう思う?」
「自分たちの領地に攻めてきたって、考えるかもな」
「うむ。つまりこの場所は、どちらか一方から逃れている者にとって、攻めこまれにくい土地といえるのやもしれん」
「そういえば、聞いたことがある。山向こうのガダグアの領主は野心家で、近隣領主と仲が悪いって」
話しながら、木々を縫って進んでいくと、山間部の開けた場所に、確かに集落が存在していた。
山を切り拓いた地面の上に、木材だけで造られた家々が、軒を連ねている。
その付近には、住人らしき小柄な人間たちが歩いていた。
「驚いた。あれはドワーフじゃぞ」
「ドワーフだって? 洞窟の奥に棲んでる種族じゃないのか?」
俺たちはこっそり集落に近づきつつ、互いの情報を擦りあわせた。
「妾の時代の知識では、地下に王国を築き、鉱山の産出物から巧みに鍛冶製品を作り上げ、生計を立てておったが……」
「俺の知ってるドワーフも同じだ。一部は余所の国に出て行って、鍛冶職人として名をあげてるって聞くけど、でも、あんな木の小屋を立てて集団生活してるなんて、聞いたことがない」
気配を消して、集落のすぐそばでドワーフたちを観察する。
彼らは畑を耕し、山で動物を狩って暮らしているらしい。
鍬や鎌などの農具類、ナタや弓矢といった狩猟道具、それに動物の毛皮などが、あちらこちらに見受けられる。
ただ、それらの道具は、すべて鉄器ではなく石器だった。
「彼奴らの代名詞たる鍛冶工房らしき家屋も見当たらん。かといって、地下への出入口があるようにも見えぬ」
「てことは、本当に訳ありの奴らの集まりってことなのか?」
「そのようじゃ。関わりあいにはならんほうが良さそうじゃの」
俺たちは姿を隠したまま、集落を離れ、再び山の頂を目指した。
ドワーフたちに気取られないよう、魔力を抑えて、静かに静かに山を登る。
「むー。もっとぶっ飛ばしたいのう」
「あんなの、俺の体がもたねえよ」
しばらく登ると、ある高さを境にして、あれだけ生い茂っていた木々や草花が、ぱったりと見えなくなった。
「森林限界、という奴じゃな」
「気温が低い高所では、木々が育たないってやつか」
ここから上は岩肌ばかりの丸坊主、目立った障害物はない。
訓練に丁度いいからと、リーマは俺と融合して、体の支配権を委ねてきた。
『さあ、山頂まではあと少しじゃ。力の限りかっ飛ばせい!』
ここまでリーマがハイペースで登ってきたので、陽は傾きつつも、まだまだ高い位置にある。
日暮れまでには、俺でも登頂できるだろう。
「よっしゃあ、行くぜ――」
気合を入れた、その時だった。
「誰か助けて!」
女性の悲鳴が、山肌の上にこだました。