第四話 二人三脚
『さあ、突っ切るのじゃサイラス!』
「おうよ! 魔力を足に、集中させて……」
西の山岳地帯を目指して、俺とリーマは、広い草原を走り抜けていた。
いや、走るというより、飛んでいるといったほうが、表現が正確かもしれない。
膨大な魔力によって、俺の体は、超高速で滑空している。
『コントロールが甘いのじゃ! 砕くのではなく、地面を踏みしめるのじゃ』
「くっそぉ、難しいぞ。魔力の量が膨大すぎる」
先を目指しながら、俺はリーマに体の動かし方を教えてもらっていた。
融合状態に慣れることはもちろん、リーマの魔力を扱う術を、俺自身も会得するためだ。
膨大な魔力を自在に扱うには、かなりの体力と集中力を要求される。
走りながらということになれば、難易度は更に跳ね上がった。
『妾が魔力を制御してもよいが、それではお主も不満じゃろう?』
「当たり前だ。戦うのは俺たちなんだからな」
相棒のリーマに頼りっぱなしになるのは、絶対に嫌だった。
『やはり良い答えじゃぞ。好い奴め、このこの』
「ちょっ、急に腹をつつくなっ!?」
バランスを崩し、盛大に転倒する俺。
スピードそのままに、草の地面に激突した。
「痛……くない。すごいな、鎧の防御力」
『当然じゃ、魔王の鎧じゃぞ。しかし、この程度のスキンシップでコケておったら、戦闘などには耐えられんぞ?』
「だからって、鎧の内側からは反則だろ……」
そもそも、どんなスキンシップだ。
「というか、リーマは平気なのか。俺、容赦なく魔力をバンバン使っちまってるけど」
『問題ないのじゃ。あの程度では、まだ総量の100分の1も消費しておらん』
おそるべし、魔王の鎧。
『それに、お主が妾の魔力を強引に貪ってくる感覚は……むしろ、快感に近しいものがあっての』
急に艶っぽい声をだすリーマ。
融合が情交みたいなもんって言ってたアレ、まさかマジなのか?
『ともあれ、ほれ、足が止まっておるぞ。昼までには山の麓に着いて、夜までに山頂に登るのじゃ』
「うげっ。とんでもない進行ペースだな」
ここからでは、山はまだおぼろげにさえ見えてこない。
常に魔力を使って走り続けないと、到底着かない距離のはずだ。
俺は再び、脚に魔力を集中する。
「夜までに着かなきゃいけない、理由があるんだな?」
走りだした俺の問いに、リーマは答えた。
『いや、山頂から朝陽を眺めたいだけじゃ』
俺は盛大にすっころんだ。
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「よう、やく、着いたぞぉ!」
途中で難度も転びながらも、俺は青々と生い茂る山の麓に辿り着いた。
太陽は空のてっぺんに位置している。
昼までにという目標に、ぎりぎりで間に合った。
『うむ、よく頑張ったのじゃ。お次は山登りじゃな』
「もうかよっ!」
切り替えがあまりにも早いリーマ先生。
『む、休憩が必要かの? 体力は全快しておるはずじゃが』
リーマの言うとおり、俺の体は一切の疲労を感じていなかった。
融合状態では、リーマの魔力が常に俺の体を巡っていて、体力が常時回復しているのだ。
「体はピンピンしてても、精神的にはガタガタなんだよ……」
膨大な魔力のコントロールに集中力を使い果たし、体より先に心が悲鳴をあげている。
『まあ、お主は人間じゃからな』
一旦、リーマは融合を解除した。
体の支配権が、リーマの側に戻される。
「ならば選手交代じゃ。妾も体をぶん回したいしの。途中まで踏破しておいてしんぜよう」
「ああ、それは助か……って、ちょっと待った。融合を解いたってことは、俺は生身――」
「さあ、行くのじゃ!」
瞬間、とんでもない量の魔力が鎧に満ち溢れ、俺たちは漆黒の風になった。
「はーはっはっはー! 山脈風情が、妾の進攻を止められるかの!」
群生する木々の間を縦横無尽に跳び回り、リーマは斜面を駆けていく。
「ちょ、まっ、うぎゃああああああ!?」
その動きについて行けない軟弱な中身のことなど、おかまいなしだ。
「はーはっはっはー!」
「とーめーてー!」
悲鳴を上げても、リーマは遊びに夢中な子どものように、聞く耳を持ってくれなかった。
「はーはっはっはー!」
「いーやー!」
「はーはっは……む、なんじゃ?」
問題児は、唐突に急停止した。
「ぐげぇっ!?」
止まったら止まったで、とんでもない衝撃が、俺の体に叩き込まれる。
「おま……殺す気だろ……」
俺の抗議をガン無視して、リーマは素朴な質問をしてくる。
「のうサイラス。この山脈は、人など住んでおらぬはずよな?」
「そうだよ。家もなければ道もない。人目につかない進路がいいって、リーマが言ったんだろ」
「では、向こうにある大量の人の気配は、一体なんなのじゃ?」