第十四話 追い込みはほどほどに
ニイナに連れられ、俺とリーマは再び鍛冶工房へとやってきた。
「おう、来たな」
工房長の髭ドワーフ、オキワロさんが、俺たちを出迎える。
彼は、さっき採掘してきたギィタル鉱を検分していた。
「こいつは申し分ねえ品質だ。量も揃ってる。いい武器がつくれるぞ」
工房長のお墨付き。
これでようやく、武器を作ってもらえることに。
「それなんだがよ。お前さんらにやる剣、ニイナに打たせてやっちゃくれねえか?」
「ふーん。ニイナに?」
「ほう、ニイナにか?」
「へー、私、に……?」
一瞬の間。そして。
「ええっ!? 私!?」
絶叫するニイナ嬢。
「そうだ。この仕事はお前が請け負ったようなもんだろう?」
「私より腕のいい人はいっぱいいるじゃないですかっ!」
慌てふためくニイナは、俺たちをビシッと指さし力説する。
「おふたりだって、私より技術力のある鍛冶職人のほうがいいはずです!」
しかし。
「え? いいよ、別に誰が作っても」
「妾も構わんぞ。ちゃんと使える武器になるなら、誰でもよいのじゃ」
「そこはこだわりなさいよ!」
残念なことに、彼女の味方はいなかった。
「つってもなあ。このギィタル鉱はニイナが掘り当てたという見方もできる。なら、それを真っ先に使う権利は、やっぱりニイナにあるだろ」
ドワーフの鍛冶師は、そういうことに重きをおいているらしい。
「でも、リーマみたいな素晴らしい鎧に見合う武器を作るなんて――」
「その栄誉を奪うことこそやっちゃいけねえ。むしろ、こんな栄誉を拒んだりしたら、鍛冶師の名折れだぞ」
オキワロさんにこうまで言われて、ニイナもついに観念した。
***
「それで?」
「できたのかの?」
「まだできないわよ!」
催促する俺とリーマに、ニイナがイライラと声を張り上げた。
「鍛造するどころか、構想だってまとまってないわよ! どうしたらいいか全然わかんないの! 邪魔しないで!」
有無をいわさず追い出される。
剣の製作役に任命されてから3日目。
ニイナは、かなり根を詰めているようだ。
「あのぶんだと、まだまだ掛かりそうだな」
「しかたあるまい。妾に釣り合う剣ともなれば、相応の時間を要するのは自明の理なのじゃ」
ちなみに、俺たちはドワーフの隠れ里に泊めさせてもらっていた。
剣が出来上がるまで、俺の魔力制御の練習も兼ねて、鉱山の採掘作業を手伝っている。
「でも、剣がないと【スキル】の修練ができないんだよな?」
「できぬこともないんじゃが、方向性がの……」
「方向性?」
「とはいえ、ずっと魔力の鍛錬のみでは芸がないしの。試しに、打撃系のスキルを習得してみようかの」
***
「と、いうことで、上の森にやってきたのじゃ」
「突然の場面転換だな」
「ここなら、いい具合の障害物がたくさんあるからの」
辺りには、乱立する森の木々。
「この場所で、高速機動からの打撃攻撃を練習するのじゃ」
リーマの訓練メニューは、意外にも簡単そうに聞こえるものだった。
「脚に魔力を充填し、木を1本ずつ3回避けて、直後に拳を放つ。そうしたらすぐ次の木に向かう。これを……そうじゃな、まずは1万セットくらいやってみようかの」
「また、アバウトだな」
「回数はアバウトでよいが、木を避けるときはギリギリの距離で、最短のルートを通るのじゃぞ」
質には気をつけ、かつ回数をこなせってことか。
体力はリーマのお陰で無限にあるから、1万ってのも、決して不可能な数字じゃない。
「よおし、やってやらあ」
「では、さっそく融合するのじゃ」
リーマと融合した俺は、ただちに訓練を開始した。
動作自体はシンプルだ。
ジグザグに木を躱してから、その先の空間に正拳突き。
が、これが結構難しい。
『跳びすぎじゃ! 最短距離で地面を踏むのじゃ!』
『遅いのじゃ! 速度を緩めたら意味がないのじゃ!』
『体が流れた! 木にぶつかった! 踏み込みがヌルいのじゃ!』
鬼コーチの激も止まらない。
『最後まで気を抜くでない! 拳に腰が入っておらんぞ!』
5千回ほどやったところで、リーマからストップがかかった。
『ぶっちゃけ、センスがないのじゃ』
「まじか」
へこむ俺。
「なさすぎて、割と真面目にびっくりなのじゃ」
超へこむ俺。
リーマの高速機動を知っているから、何も言い返せない。
『体捌きは全ての基礎じゃからの。これを一流に持っていけねば、後の全部が二流以下じゃぞ」
おっしゃるとおり……
『予定変更じゃ。まずは、この森と山を自在に駆け巡れるようになるのが先決じゃ。むろん、鉱山の採掘作業も欠かしてはならんぞ』
こうして、俺はスキルの習得を一旦諦めて、基礎トレーニングに精を出すことになった。