第5話 天候の支配
「父上、タックです。よろしいでしょうか。」
「入りなさい。」
「失礼いたします。」
「タック、報告か?」
「はい。賊は無事、賦役場に送りました。これで彼らは賊にはなりません。」
「そうか。ご苦労。賊が来た方角は?」
「西です。」
「西ということはブランバルド子爵領か。」
「はい。その通りです。」
ブランバルド子爵領はライスフィールド領の西側に隣接している。度々、賊が発生しては、こちらの領土まで影響を及ぼす。賊が発生しないように、税の引き下げをすればいいのに、王宮に賄賂を贈るために、領民に重税を課している、迷惑な人である。
こちらが伯爵であっちが子爵だ。強く言ってやろうと思うが、問題は後ろにいる存在だ。イシュタール公爵だ。ホウジョウ王国の三つの公爵家の一つ、西を治めるイシュタール公爵家はライスフィールド伯爵家とは友好的ではないが険悪でもない。あまり揉めると厄介になる。触らぬ神に祟りなしだ。
「当面放置でいくしかないか。」
「そうですね。放置しましょう。賊が我が領内にはいって、誰かを殺したわけでもないですし、商人には補填しておきましょう。」
「それでいこう。」
「後、父上」
「なんだ。」
「今夜、雨が降ります。」
「ほう。そうか。」
父上がニヤリと悪い顔をした。
「我が領内にだけ、局所的に、パラパラとした雨が明日の朝まで降ります。」
「そうか。では今日は外には出れないな。」
俺と父上は互いにニヤリと笑った。
私は遺産の部屋に行き、
「さくら。」
「はい、ご主人様」
「さくら、天気を変える。」
「はい。分かりました。」
私は本を取り出し、あるページを開き、そのページの内容を読んだ。
『天気確定機』
光と共に、ボトルシップのような模型が現れた。
ライスフィールド領を中心にホウジョウ王国全体が精巧に作られている。
『天気確定機』は初代がホウジョウ王国全体が大飢饉だった時に、雨を降らすのに作ったそうだ。でも以後はスキーがしたいから雪を降らせたり、サーフィンがしたいから、夏にしたりとやりたい放題していたそうだ。自由人か。
私は模型の横にあるつまみを回し、ライスフィールド領のみを範囲選択し、模型についている、じょうろに水を入れ、振りまいた。
これでよし。
さて、外の様子はどうかな。
side ライスフィールド領内村人
「明日も雨が降らないと、作物がダメになってしまう。」
「でも、父さん、そんなこと言っても雨は降らないよ。何とか水が使えるようにならないと。」
「だが、それのほうが難しいぞ。川の水が干上がったんだ。領主様も賦役でため池を作ってくれているが、雨自体降らなきゃ、それも使えない。」
「・・・折角の作物がダメになってしまうのは悲しいね。・・・父さん!」
「なんだ?」
「雨の匂いがする。」
「あん、確かに!」
俺と息子が外に出るとそこには、雨が降っていた。
「父さん!雨だよ!雨が降ってるよ!」
「ああ、ああ、・・・神よ、感謝します。」
俺はこの世に神はいる、と思い、感謝を込めて祈った。
side out