第15話 メイドと侍女
パーティからの帰り道、ライスフィールド家の馬車は領地に向かっている。
私たちは、いや、私と母上は大金星を祝っていた。
「よくやりました。タック。ああ、今まではこの苦労がいつ報われるのか、自問自答の日々でしたが、全てはこの日のためにあったのですね。ああ、ようやく報われた。よくやりましたよ、タック」
「母上、まだ婚約者となっただけです。それに、よくやったなどと言われては不敬に当たります。マリー様はホウジョウ王国の王女であります。その方の婚約者に任じられたことこそ誉でありまます。」
「・・・そうですわね。あまりのことに舞い上がってしまいました。王国の民として、貴族として、王家に忠誠を誓う立場だというのに、分を弁えるべきでした。タック、感謝します。」
「いえ、母上には私の婚約者のことで大変迷惑をかけておりました。ですので、そのことは大変申し訳ありませんでした。」
「まあ、そのようなこと、母として当然のことです。・・・ああ、でもやはり息子に婚約者が出来てしまって、恐れながら物足りなさも感じます。私もどうやら息子の婚約者探しが楽しかったのかもしれませんね。」
母上のそんな言葉を聞き、皆少し、笑顔を浮かべた。
領地に到着し、私は自分の部屋に入り腰を落ち着かせた。
ふぅー・・・・・・・・・・・・・・・・・
うふふふふふふふふふふふふふふ・・・
我が世の春が来たーーーーーー!
婚約者、お姫様が私の婚約者、しかもめっちゃ!めっちゃ!めっちゃ!
かわいい、美しい、おっぱい大きい!素晴らしい・・・
しかも、帰る前に、お手紙までもらってしまった。
あーどうしよう、どうしよう、どうしようたらどうしよう♪
私は今、世界で最も幸運な存在だー♪
私は全身で喜びを表現した。それはもうヒドイ有様だ。ベッドで転がり、簀巻きのようになって、ベッドから転がり落ちても、痛みなどない。いや、この痛みすら私を祝福している、そう感じてしまう。
「そろそろよろしいですか?」
「---!さくら!・・・・・・いつから?」
「うふふふふ・・・の下りからです。」
「最初からじゃないか!」
さくらは私の全てを見ていた。恥ずかしい、穴があったら入りたい。
「そろそろ手紙読みましょうよ。」
「いや、これは私一人で読む。」
「大丈夫ですよ。大体は分かりますから。答え合わせがしたいだけですから。特に内容に興味ありませんから。」
「なにこのメイド!怖い!・・・まあ、さくらなら分かるか。」
さくらは万能メイド、万能というのは未来予知から人の心の中まで見える。そんな彼女が見たいのは、相手がどの程度の知能と理性を持っているか、測るためである。
「はあ、読むか。仕方ないなー♪」
「嬉しそうですね。」
「・・・うれしいさ、前世と合わせて・・・年、一度も女性から手紙を貰ったことなどない。」
そう、これが初めての、初めての女性からの手紙、よし読もう!
side さくら
うーん、ご主人様が喜んでいるから、言わないようにしたけど、この手紙、あの侍女さんが書いたんですよね。
脚本、監督、制作に至るまで、完全自主生産作品なんですよね。
どうしよう、ご主人様喜んでいるから言うのはどうかと思ったけど、あの侍女って、若く見えるけど、国王陛下の世話係をしてた人なんですよね。それも生まれた時からの。
だから年齢はおよそ50歳くらいは越えているんですよね。
そんな年上の方が書いた手紙嬉しいのかな。
どうしよう、手紙にキスしながら、有頂天なくらい喜んでいるご主人様に真実を伝えると・・・演算終了、窓から飛び降りますね。
しかし、貴族の場合、手紙は代筆が当たり前だし、婚約者になったのも謁見の最中、そこから帰宅まで、それほど時間が無くて、手紙を書く暇がないのに、どうして直筆だと思っているんでしょう。
帰り際に侍女が主人の代理で手紙を届けた、と言っていたけど、あのお姫様にそんな芸当出来ません。これはご主人様の教育を見直さないといけませんね。特に女性の扱いに関しては念入りに。
このまま、婚約から婚姻に至った場合、あの侍女がライスフィールド家に来るでしょうね。そうなると、あの部屋の存在に気付くかもしれません。そうなると、ご主人様を操り、このライスフィールド家いや世界を王国の支配下に置こうとするかも知れません。
まあ、人にしては知恵が回りますが、所詮は人間。神が作りし、万能メイドの私が本気を出せば、どうとでもなるでしょう。
さて、侍女ヒルダ、人間の分際で誰に挑もうとしているのか、これから思い知りなさい。
遊んであげますよ。お嬢ちゃん。