聞いていますか?いいえ、聞いていませんでした
いつものKD対策室へと案内されたのですが、そこには見た事のない女性が3人ほど増えていました。
えっと、人員増強かな?でも人を増やすと秘密を守るのが大変になると聞いたのですが、その辺は大丈夫なのでしょうか?
渡す情報量が特段増えているわけでもないので処理が大変って事も無いと思うから、ここに来て人を増やす理由がちょっと分かりません。
そう思っていると3人の女性を紹介されたのですが、どうやら警察、自衛隊、皇宮護衛官から一人ずつ増えたようですね。
そして説明が終わった後に、3人のうちだれが良いかと聞かれたのですが何の事でしょう?
「だれがいいか、ですか?えっとそれってどういう事でしょう?」
思わず聞いてしまったのですが、どうやら京香さんがPTメンバーから抜けたことをすでに聞いているようで、その空いた枠に一人入れてほしいという事らしいです。
そんな話全然聞いてないんですけど!?
びっくりして玲子さんの方を見てみましたが、玲子さんもどうやら話を聞いていなかった模様。
「そんな話聞いてませんが、いったいどういう事でしょうか?」
「いえね、せっかく一人分の枠が開いたので、どうせならこちらでその人員を用意しました。ですので、3人の内だれでも良いので好きな者を選んで連れて行ってもらえれば、と思いましてね」
「これは上からの意向なのですか?斡旋するという事は、当然二条の総帥にも話は通っているのですよね?」
「もちろんそちらにもきちんと通知してありますよ」
そう言ってにっこりと玲子さんに微笑んでいるのですが……何かちょっと引っ掛かりますね、今の言い方。
ん?通知してある……通知してある?
おかしいな?この場合返事としては許可は出ているとかじゃないの?
……もしかして、通知はした。でも手紙でとか、メールで通知はしたけど、きちんとした許可または返事はまだ来ていない、とかじゃないですよね?
え?なぜ私がそう思ったかですか?昨日読んだ小説で似たような話があったのです!
話が通っているのか?に対して伝える人員は送った(許可が出たとは言ってない)ってね。
ですので、聞いてみましょう。
「通知はしたんです……よね?」
「はい、きちんと通知させていただきました」
「それに対するお返事は?何と言っていましたか?」
「…………」
ちょっと気まずそうな表情で回答に詰まりましたよ?これは当たりでしょうか?
「許可、出てないんですか?」
「……はい。通知はしたのですが、まだ返事はいただけていません。ですがこちらとしても一人でも多くの人員を育成したいわけでして……」
「許可が出てないのに斡旋してきたんですか?」
「そちらの新しい人員が決まるまででいいので、是非こちらの人員も連れて行っていただきたい。そのために女性隊員の中でも有能な人員を集めたのだ。そこにいる二人の子供よりはよっぽど有能だと思うが?」
うーん、言いたいことは判りますけど、いくら守秘義務契約を結んでいるとはいえ、向こうの組織の人間を混ぜると色々とばれちゃいますよね?
そう思ってちらりと玲子さんの方を見ると、かなりお怒りの様子です。
いや、玲子さんだけじゃなくて葵さんや楓さんもですね。
それはそうですよね、今の言い方だと完全にこちらをだましに来ていますしね。
「では、話が違いますので今日はこのまま帰る事にしますね。今後皇居ダンジョンについてどうするかは、総帥と話し合った結果『通知』させていただくことにします。知佳ちゃん、帰ろう」
うわ、通知の部分を強調して言いましたよ!
そして玲子さんはわたしの車椅子を反転させ、出口の方へ押し始めましたが、出口付近にいた警備の人が出口前を陣取って塞いでしまいました。
これ、ますます不味い状況だと思うのですけど、どうするんでしょう?
もしかして人員の教育をと言う理由を建前にして、私達を皇居ダンジョンから排除したいのでしょうか?
そして今気が付いたのですが、今日は阿方さんがいませんね?
「帰るのでそこどいていただけますか?」
「今帰られては困ります。是非3人から一人を選んで皇居ダンジョンの探索をお願いしたい」
「ですがこれは明らかな契約違反ですよね?そのような事に従う気はありません」
「君ねぇ、これは実に高度な政治的配慮でもあるのだよ?そして何より国のためにもなる。どうかね、国の将来のためだ。そうだ!いっその事3人とも連れて行ってくれてもいいのだよ?そこの子供二人を外せば丁度いいじゃないか」
そう言い切った顔は、何処か恍惚とした表情で自分の言った事がさも真っ当な意見だと微塵も疑っていない様子ですね。
そう言えばこの人初めて見る気がしますけど、誰なんでしょう?
そして今の言い方だと、私と沙織さんをメンバーから外して、3人でって事なんでしょうか?
んー、それなら秘密はばれない……のかな?
でもそれで行っちゃうと、それはそれで問題ある気もしますよ?
「申し訳ありませんが、私達は二条家に雇われているのであって、公務員でも何でもありません。ですのでその申し出を受けるわけにはいきません」
「まあまあ、そう言わずに是非こちらの3人を連れて行ってくださいよ。それに、今後のためにもそうした方が良いと思いますが?」
何やらいやらしい含み笑いの表情でそんなことを言ってきましたけど、今のって脅し?
もしかして、ここで引き受けないと今後ダンジョン探索やらせないぞ、とかそういう事を匂わせてる?
どうやら正解のようで玲子さん、葵さん、楓さんの三人から怒気があふれて来ていますよ?
もう怒りを隠す気も無いようですね。
その怒気を感じ取ったのか室内にいた人たちに緊張が走った様で、一部の人はスーツの中に右手を入れた人もいます。
あれってやっぱり拳銃とか持ってるのでしょうかね?拳銃相手に通用するか分からないけど、一応結界を広げてみんなが入るようにしておきましょうね。
そうして緊張した雰囲気が漂う中、突如ドアが激しく開けられ、誰かが飛び込むように入ってきました。
「うわっ」
どうやらドアの前に陣取っていた人が、突然入って来た人とぶつかって転んだようです。
そして入って来たのは阿方さんでした。
「貴様ら何をしているっ、ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
「私達も関係者ですよ?同じダンジョン対策室のメンバーじゃないですか?」
「ここはダンジョン対策室の中でも皇居ダンジョン対策に特化したメンバーしか入室を許可されていない。佐伯殿は誰の命令で来ていらっしゃるのか教えていただきたい!」
「誰の命令でもないですよ。そもそも皇居ダンジョン対策課のみが有能な人材をかこっているのは不平等だと思いますがね?」
「ならばそちらはそちらで独自に人材の発掘なり育成なりすればいいだろう、こちらの事に口出ししてもらいたくありませんな」
何やら言い争いを始めちゃいましたけど、私達帰っても良いですかね?
そう思っていると阿方さんから今回の件について謝罪があり、今日は帰ってもらえないかと申し訳なさそうに言われました。
と言う訳で帰りましょうかね。