●とある日の二条家執務室にて……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ とある日の二条家執務室 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そこには知佳の曾祖母、祖母、祖父、伯母、伯父の他、葵と玲子がソファーに座ったまま、真剣な表情で会話をしていた。
「それで、やはり知佳ちゃん以外が全員近接職っていうのが今後問題になるって事かい?」
「はい。今はまだ敵も弱いですし、数も少ないので問題になっていませんが、今後敵の数が増えたり強くなっていくにつれて知佳ちゃんの負担が増していくと思います。」
そう、現状は敵の対処は基本的に私達で行っているが、それ以外の事、地図描きに始まり、ライトでの灯り、誰かが攻撃を受けた時の回復のヒール、汚れを落とす浄化、毒を受けた時の状態異常回復、ドロップアイテムの運搬、そして空を飛ぶ敵が多かった時の魔法による攻撃等々、戦闘以外は全てと言っていいほど知佳ちゃん頼りなのだ。
しかも知佳ちゃんは自分でも戦いたがっているのに、私達だけでも戦力過剰な状況。
これ以上知佳ちゃんに負担をかけてはいけないという雰囲気の元、知佳ちゃんが攻撃をする機会がほぼない状態。
これではいずれ知佳ちゃんのストレスが溜まってしまい、良くない傾向になると思われる。
そこで今回の打ち合わせとなったのだが、ダンジョンに同時に入れる人数は6人。
現状でも6人いるため、知佳ちゃんの負担を減らすには誰かを減らして、知佳ちゃんの負担を減らすことが出来る人員に入れ替えるしかないと思っている。
もっとも、無理に入れ替えを行わずに今の人員で負荷を減らすという案もあるのだが……
「それで、知佳ちゃん、沙織がそのままなのは当然として、玲子さんと葵さんも居残り確定よね?となると楓さんと京香さんを入れ替えるか?と言う話になると思うのだけど、その辺はどうなのかしら?」
ちょっと問い詰めるような表情で美雪様が質問してきた。
それに対する回答はと言うと。
「楓に関しては、後方警戒などの観点から現状維持でも良いかと思います。あの子は前に出て戦うよりも周囲警戒や遊撃的な戦い方が向いているようですから。あとは本人への確認も必要かと思いますが、攻撃魔法や補助魔法を覚えさせれば十分だと思います」
「となると、問題になるのは京香君の方かね?」
高志様も今の発言で気が付いたのだろう。
もっとも今までの報告でも京香の評価はいまいちなのだ。
数え上げると、初日の運転中の余所見から始まり、戦闘中に注意されても意識があまり改革されない戦い方、さらには言葉遣いや態度。
とどめとなるのは、先日の敵の攻撃をだれが受けるかという時に名乗り出るのを渋った件。
要人警護兼ダンジョン先行PTとしては落第ものだろう。
確かに進んで敵の攻撃を受けるというのは嫌な事だろう、渋る気持ちは分かる。が、立場的に言えばダメダメだ。
ああいう態度を見せるという事は、今後も何かしら理由を付けて拒否する可能性がある。
初期の頃には、確かに敵の突進を自ら進んで受けに行ったこともあるが、献身的な行動はあの一度きりだった。
しかも最近でいえばゴブリンとの戦闘に対して消極的な面があるのも問題だ。
それらの観点から、京香は早めにPTから抜けさせ、代わりの人員を入れた方が良いと私は判断しているので、それらを伝える。
「確かに攻撃力と言う点ではいいのかもしれませんが、主目的の一つである敵のドロップ素材収集を無視するような戦い方をし、それを注意されてもまともに改善されていないというのは問題ですね。しかも要人警護人としての意識も低い様子。いっその事別PTを組ませ、そちらでダンジョン攻略を進めさせるのが妥当と思われます」
「しかし、知佳ちゃんは結構京香君になついているように見えるが、その点は大丈夫なのかね?」
そう、知佳ちゃんは今までの生い立ち上、自分に優しくしてくれる人がほとんどいなかったため、自分に優しくしてくれる人にはけっこうなつき易い。
でも、今の京香では知佳ちゃんには悪影響を及ぼしかねないと思っているので、その点も伝えると
「では早めに代わりの人員を探すとしよう。それで、その人物には魔法を主に担当してもらうんだね?」
「そうですね、攻撃魔法をと言う点に関しましては沙織さんに覚えてもらい、中遠距離担当となってもらうのも一つの手ではありますが、沙織さんの槍の腕前もなかなかのもの。となると、敵により切り替えて戦ってもらうとして、知佳ちゃん以外に一人は魔法専門がいた方がバランス的にも良いかと思います」
「となると、魔法に影響するのはステータスで言うと知能や知恵の部分だね?」
「ほかにもMPの値が多い方が良いですね。いくら知能や知恵が高くても、MPが少なければ使える魔法の数も減りますので、その辺のバランスを上手く見極めていい人材がいれば回して下さい」
「ただ、知佳ちゃんの気持ちもあるから、最後に一度だけ京香君にもチャンスをあげようと思うがどうかね?」
「……チャンス、ですか?」
「そう。実際に京香君に魔法を覚えさせるかどうかは別として、今上がっているPTとしての問題点、魔法的な攻撃力が無い点を伝え、戦い方を変える気は無いかと楓君と京香君に聞いてみよう。その回答次第、と言う事でどうかね?」
「そうですね、それで戦い方を変えても良いというのでしたら、今しばらく京香を残してみてもいいかと思います」
確かにその条件を京香が飲めるのなら、今後戦い方を修正することも可能だろう。