木の棒ですか?いいえ、身分証です
その点気になったので玲子さんの顔をうかがってみたのですが、玲子さんはわたしの言いたい事に気が付いてくれたらしくその点について質問してくれました。
「この守秘義務ですけど、どこまでの範囲ですか?この書類からは皇居ダンジョンについて一切の口外が禁止とありますが、それだと私達が今までやってきたことと変わってしまいます。今回の依頼については今までと特に変わりはない、と伺っていたのですが……」
「基本的に皇居にダンジョンが出来た、そしてそれがどこまで攻略が進んでいるのか、詳しいダンジョンの場所などについては一切の口外を慎んでいただきたいのです。ただ、二条家の方達の内、本家筋に当たる方のみに関しては同様の守秘義務を結んでいただいていますので、その方たちに対しては相談なり報告なりしていただいて構いません」
なるほど、ということはメイドさん達を下げれば今まで通り曾お婆ちゃんたちへの報告は大丈夫って事なのね。ならサインしちゃってもいいのかな?そう思って周りを見ると、玲子さんも沙織さんも私の方を見てうなずいてくれた後、率先してサインをしていたので私もサインをすることにしました。
その後は皇居の地図を出し、ダンジョンの詳しい場所や私達が基本的に移動していい範囲の説明などを受け、いよいよ皇居に移動となりました。
その移動方法は、これまた超高級車と思われる黒塗りの車が私達用に2台用意されていて、1台目には葵さん、楓さん、京香さんが乗り、2台目に私、玲子さん、沙織さんが乗る事になりました。
そして移動を始めてびっくりしたのですが、なんと先導車というのでしょうか?白バイ2台が一番前を走り、その後乗用車が1台、その後に私たちの乗った車が続き、後ろにも乗用車とワンボックスが続くという形での移動となりました。
え?警視庁庁舎から皇居に行くだけでこんなに沢山の人たちが付いてくるの!?ちょ、これって国賓が来た時の送迎並みなんじゃないの!?
そう思っていたのが顔に出ていたのか、同じ車に乗っていた阿方さんが説明をしてくれました。
なんでも今回は初回であり、かつ皇居側の人達への紹介前と言う事もあってこれだけの警備で移動し、中の人間は皇居に入る資格があるという事を伝えるという意味があるのだそうです。
ですので、次回以降は先導?護衛?が4台(うち白バイ2台)と言う形になるそうです。それでもかなり大げさな気もしますけど、行き先が行き先だから仕方ないのでしょうかね?
そして皇居を右側に眺めながら内堀通りを時計回りでぐるっと半周し、車は乾門へ到着。先導車の方が門番の方達と何かを話し合った後、門が開けられ車は皇居敷地内へ。
緊張してきたー!ここが皇族の方達がお住まいになっている、事実上日本で最も高貴な地点なのですね!
そして門をくぐったところでまた停車。今度は何でしょうかね?と思っていると警備の人と思われる方がドアの前まで来ました!
え?もしかしてここで降りろとか、不審物を持っていないかの身体検査とかされるんでしょうか?
そう思っていると窓が開けられ、身分証の提示を求められました!?
え?学生証でも出せばいいのでしょうか。でもまさか必要になると思っていなかったので持って来ていません!
そうこうしていると玲子さんは何やら手帳のようなものを出し、沙織さんはわたしがもらったのとよく似ている黒い木の棒を袋から取り出して見せました。
あぁ、あの棒を見せればいいのかな?と思い私も取り出して袋から出し見せる事に。
それを見た警備の人はありがとうございますと言い、敬礼した後去っていきました。
んー、この木の棒って知っている人なら同じ物を作れそうな気もするのですが、そんなに効力あるのですかね?家紋が入っていると言ってもほら、徳川将軍家のたばこケースなんかはお土産屋さんなどで売られていますし、偽造しようと思えばできちゃうんじゃないかな?
またまた考えていることが顔に出ていたのか、阿方さんから
「今の確認は一応の形式上ですので。そもそもこの車に乗っていることが身分証明になっています。そこに予定外の人員がいない事の確認なのですよ」
との事。まあ場所が場所だから必要な事なのでしょうね。
そうして車はしばらくまっすぐ進み、そこから右折して森の中へ。皇居の中ってこんなに緑豊かな土地だったのですね。皇居の周りはビルばかりなので、まさかこんなに緑豊かな場所とは思ってませんでした。
そうしてしばらく進むと今度は左折したのですが、この時ちょっとした違和感が……あぁ、ここからダンジョンの範囲内なのですね。いつも倉庫ダンジョンに行くときは特に気になりませんでしたが、他の場所に来たせいかそれが分かりました。
しかしその違和感もまたすぐになくなり、範囲から出たのが分かりました。これ、この違和感を使えばダンジョンのほぼ正確な位置が分かりそうですね。
その後2度右折し、右側に見えた白い建物の前へ。建物の前には大勢の警備の人と思われる方たちが整列して待っていました。
私たちを乗せた車はその人たちの前に止まり、警備の人がドアが開けると玲子さんが先に降り、私の車椅子を降ろして持って来てくれました。
そして車から降りた後は車は駐車場へ移動、私達はその場で少し待たされたのですが、どうやら建物の方から数人の人がこちらへやってきたようです。
やってきた人を見てみると、お年を召した夫婦と思われる男女が二人と、その周りを守るかのように数人のスーツ姿の方が数名。
えっと……あのお二人、どこかで見た事が有るんですけど?というか、何度かTVで……もしかして、もしかすると……場所を考えるともしかしないでも上皇陛下と上皇后陛下!?
びっくりしてまじまじと見ていると、お二人はわたしの前へ……ど、どうしよう、何か言った方が良いのかな?
そう悩んでいると、上皇后陛下と思われる方はわたしの前で腰を落とし、車椅子に座っている私に目線の高さを合わせると同時に、私の手をそっと両手で包むように持ち
「あなたが、近衛 知佳さんですね。今回は古い友人であり、あなたの曾祖母である、秋江さんに無理を言って、この家の近くに出来たダンジョンの、対処のお手伝いをしてくれる様、お願いしました。まだ学生であるあなたに、こんな危ない事を、とも思いましたが、あなた達がいま日本で一番、ダンジョン探索に長けていると聞き、無理を承知でお願いしてしまいました。ですが、あくまでも怪我の無い様十分注意し、体調にも、そして学業にも無理のない範囲で、お願いしたいと思っています。どうか、日本の象徴の一つである皇居、そして首都である東京を守るためにも、あなたのその力、貸していただけないでしょうか?」
とお声を掛けていただきました!その時の私は、雲の上の存在である上皇后陛下に手を握られ、その上でお願いをされたことに対しパニックを起こしそうになりましたが、それでも言われたことに対して回答しないのは不敬と思い、頑張って回答をしたのですが……
「わ、私でお役に立てるのでしたら、喜んで……」
と、なんとも間の抜けた回答しか出来ませんでしたが、上皇后陛下はと言うと私の回答に微笑みを浮かべ
「ありがとう、でもお体だけは十分注意して、怪我の無いよう、気を付けてくださいね」
とありがたくも私の心配をしてくれました!
これはもう、私に可能な範囲でではありますけど、頑張らないとですね!