●その頃のやんごとないお方と……
※ この物語はフィクションです、実在の人物・団体等は一切関係ありません
皆様のおかげで無事連載一か月を迎えることが出来ました、この場をお借りしてお礼申し上げます。
※ この物語はフィクションです、実在の人物・団体等は一切関係ありません(大事な事なので2回言いました!)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 都内某所・和室 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そこには一人は少しきつめの顔をした女性、もう一人は柔らかな雰囲気の女性の、かなりの年配の女性二人が向かい合って椅子に座り、お互いがお互いの顔を懐かしそうに見ていた。
「ご無沙汰しております上皇后陛下」
「お久しぶりね、秋江さん。そんな堅苦しい言い方ではなく、昔みたいに紗那絵と呼んでくださいな」
「し、しかし……」
「今ここに旧友同士、本音で語り合いましょう。それで、最近はいかがかしら?」
「はい、実は……」
そうして秋江から語られた内容は主に知佳に関する事柄であり、やっと最後のひ孫に会えた幸せをこれでもかと語り、久しぶりに会った紗那絵を少しあきれさせるようなものだった。
無論その中にはダンジョンが出来、それに関する事柄も含まれていたが、それを聞いている紗那絵は少し疑問に思いつつも、この学生時代からの古い親友がいかにその少女を可愛がっているのかを理解し、その少女に一度会ってみたいと思うようにまでなった。
しかし、話が進むにつれ内容が変わっていった。それは最近総理大臣の安藤から話された内容で、その話を聞くにつれ紗那絵の顔は柔らかな雰囲気から次第に険しくなってくのに十分なインパクトがあり、その内容を要約すると以下のような内容だった。
・皇宮護衛官の阿方と言う人物が総理大臣の安藤に対し、特定の一般人に皇居敷地内に出来たダンジョン攻略の手伝いを半強制するよう依頼した
・その際に取得したものは皇居敷地内のダンジョンから取得した物なので、全て皇室に献上するよう言いつけた
・その一般人への対価は法で定められている臨時職員手当相当のみにしろとの事
むろん紗那絵はその特定の一般人に目の前にいる親友のひ孫二人が含まれている事に気が付いた。
「これでは強制徴用と何も変わりがありません。まさかとは思いますが、紗那絵様はこの件に関わっていませんよね?」
「それは初耳でした。でもそうね、それはかなり問題ですね。しかし……」
「何か、心当たりでも?」
そういった紗那絵様の顔はかなり困惑した様子で言おうかどうか悩んでいる様子だったが、意を決したのかおもむろに話し出した。
「阿方と言う人物はわたしも知っていますが、かなりまじめな人柄なのよ?ただ、真面目すぎるというか……そのせいで時に周りが見えなくなってしまうのね」
「といいますと、今回の件も皇居敷地内に出来たダンジョンを何とかしようと焦るあまりの暴走、と言う事でしょうか?」
「そうね、この家からも徒歩数分という距離ですから、皇宮護衛官の方達が焦る気持ちも分からないでもないのよ?でもいくら何でも一般の方に強制するのは、良くないわね。もしお願いするとしても、あくまでも相手の意思を尊重したうえで、きちんとご協力願う形でないとね」
と困惑し、その後何か考え込んでいたかと思うとおもむろに人を呼び、今日の阿方なる人物が今日出勤しているかを確認し、出勤していることが分かるとこの場に呼び出すようその人物に依頼した。
それから数分後、年は50代半ばと思われる一人の人物が現れた。
「阿方さん、あなたにお聞きしたい事が有るのですが、よろしいですか?」
「はっ、何でございましょうか?」
その男は紗那絵から直接お声を掛けられた事に大変恐縮した様子で返事をしていた。
「聞いた話なのですけどね、あなた総理の安藤さんに、ダンジョンについて何か依頼をしませんでしたか?」
「はっ、その件につきましては、ダンジョン探索にかなり長けた人物がいるとの情報を掴みましたので、皇居敷地内に出来たダンジョンの探索に手を貸すよう依頼を掛けました」
阿方なる人物は、自分が何を言ったのか理解していない様で、あくまでもダンジョンを何とかしようと自分なりに最善策を取ったような感じで話し出した。
「その内容なのですけどね、その方たちと言うのは公務員ではないのでしょう?」
「はい、そう聞き及んでおります」
「その方たちに対して、かなり無茶な要求をしようとしていると聞いたのですが、本当ですか?」
「無茶振りは何もしていません。あくまで常識の範囲内での依頼です」
常識……この男にとって全ての国民は皇室、ひいては国のために尽くせと言うのだろうか?これでは全体主義ではないか……この男の思想は危険なのではないか?秋江はこの男の話を聞いていてそう思った。
「阿方さん、私が聞いた話ですと、臨時職員手当を出し、かわりにダンジョンで取得した物は全て献上するよう求めたと聞いていますが間違いありませんか?」
「はっ、皇居敷地内で取れたものは全て皇室の物。ただし天の声(地球の意志の事)が言うには取得したPTの物。ですが献上する分には何も問題は無いと判断します」
この男はやはり自分の言っていることに何も疑問を持っていない様だ。こんな男が皇宮護衛官のかなり上にいるなんて、組織として大丈夫なのだろうか?いや、その忠誠心は認めるが、この男の考え方が全体の考えになっていてはいずれ大問題に発展するだろう……
「あのね阿方さん、あなたの言っていることは戦時中の強制徴用と何も変わりませんよ?そんな考え方ではだめです。あなたが今の地位から上に上がれないのもその偏った考え方が原因なのですよ?」
「偏った考え方……ですか?」
「そうです。あなたの私達、ひいてはお国への忠誠心は傍から見ていても痛いほど良く分かります。ですが、国とはそもそも民あっての物、その民をないがしろにするようではその国の未来は決して明るくありません。私たちは民がいるからこそ存在出来ているのです」
「しかし……」
「いいですか、天の声がPTが取得した物はそのPTの物といいましたね。あの言葉は今回のような事態を想定しての事だと思いますよ?きちんと天は見ていらっしゃいます。人には立場はあれど、その扱いに上も下も無いのです。すべて正しく扱われるべきですよ?」
「……」
「あなたがその事をきちんと理解し、実行に移せるようになれば、さらに上を目指せるでしょう。今回の件、安藤総理には、あなたのお父様から無理を言わせたのでしょう?安藤総理は、あなたのお父様にはその昔お世話になったようですしね。そしてあなたは、皇居敷地内に出来たダンジョンの扱いに困り、これを何とか出来ればそれを功績として上に上がれると思い、焦って今回の事をしでかしてしまった。また、取得品について献上させようとしたのも、ポーションなるお薬が手に入れば、いざ何かあった時に対応しやすくなるかもしれないとの考えから。違うかしら?」
「……ご慧眼、恐れ入ります」
阿方なる男は自分の心の内を全て言い当てられ、酷く恐縮した表情になっていた。
「あなたのその献身はありがたく思います。ですが、先ほども言ったように、民あっての国なのです。ですから民をないがしろにしてはいけませんよ?ダンジョンを攻略する依頼をするのなら、正式に依頼を出し、相手の了承を取ったうえで正当な報酬を渡す事。それに、取得品を譲ってほしいなら強制するのではなく、きちんと相手と交渉し、正当な対価を支払う事。できますね?」
「はっ、上皇后陛下のお言葉とあらば」
「ちがうのです、そうではないのですよ?そういう心構えを持ちなさいと言っているのです。皇族だから、政治家だから、公的権力を持っているから民より偉い。そんなことは無いのです。私達も民全てもすべて一つの命、その命の重さに違いは無いのよ?その事をゆめゆめ忘れない様にしなさい」
その後、今回の件に関してはこのお叱りでひとまず終わりとし、皇居敷地内に出来たダンジョンの攻略の指揮は阿方がとるよう申し渡された。ただし、もし協力を仰ぐ一般人から不満が上がるようなら厳重な処罰を行うとも伝えられた。