持って帰っていいですか?いいえ、順番です
無事始業式と入学式も終わり、教室に戻ってきました。
この後はHRがあり、先生からの連絡事項を聞き今日は解散の予定です。ですので葵さんを連れて倉庫ダンジョンへ行き葵さんの防具を用意する予定になっています。
そうして沙織さんに付き添われて教室へと戻ってきたのですが、席に着くなり女生徒数人に囲まれてしまいました。
「近衛さん、○○から来たって言っていたけどそれ本当なの?」
「本当は□□から来たんじゃないの?」
「もう許嫁はいらっしゃるの?」
「その足の怪我ってやっぱりダンジョンに行ったから?」
「講堂からの帰りは二条様に付き添っていただいていた様ですけど、どういう事なのかしら?転入早々甘えすぎなのではなくて?」
「もしかして近衛さんも冬弥君と一緒にダンジョンに行っていたとか?」
などなど、突然複数の方から同時にいろいろと話しかけられ、ちょっとパニックになっていると沙織さんが救いの手を差し伸べてくれました。
「あなた達やめさないっ、そんなに一度に聞かれても知佳さんも答えようが無いでしょうし、失礼だと思わないのですか!」
「さ、沙織さん……」
ですが、わたしが沙織さんと呼んだのがこれまた気に障ったのか、さらなる攻勢が来てしましました。
「ちょっと、二条様に対して沙織さんだなんて随分なれなれしいのねっ!」
「あなたちょっとかわいいからって調子に乗ってるんじゃないの?」
「二条様を名前呼びするだなんて、あなたと二条様はどういう関係なのかしら?」
「二条家と近衛家ってそんなに仲が良かったの?」
「そう言えば冬弥君と何かやりあっていた時も二条様がかばっていたわね、一体あなた何者なの?」
え、何?なんなのこの子達……とさらにパニックになっていると、そこへ先生が戻ってきたようで蜘蛛の子を散らすように皆さん席へ。
その後先生から明日以降の予定などを説明され、また朝は時間が無くて伝えられなかったけれど、私の足は一時的なものではなく幼い頃の怪我が元なので、何か困っていたら手助けしてあげてほしいと皆に伝えられ、さらにはその関係で靴も皆と若干違うものを履いているのもその怪我が原因のため、本人に詳しく問い詰めたりしない様注意もしてくれました。
また追加として、男子生徒(二条冬弥と言うらしい)はただの骨折でしばらくすれば治る事も合わせて伝えられ、最後に寄り道せずに帰る様にと言われHR終了。
ふむ、あの男子生徒は二条と言うのですね。沙織さんとは従兄弟とかなのかな?
そして先生が退出すると同時にまたもや先ほどの女生徒達が……いえ、さらに増えていますよ?
そこで沙織さんが説明してくれました。してくれたのですが……
「知佳さんが私を名前で呼ぶのは一緒に暮らしているからです。それにわたしがそう呼んでほしいと言ったのですが、何か問題ありますか?」
と半分睨みつけるような視線でその方たちを見ながら伝えました。でもね、沙織さん。その言い方だと火に油を注ぐ気がするのですが?
「い、一緒に暮らして……」
「二条様とちびっこが一緒に……」
「え……一体いつからそんな」
「二条様から名前呼びを勧められ……しかもお互いで名前呼びだなんて、なんてうらやま……」
「二条様はああ見えて実は可愛いもの好き?」
「に、二条様、そのちびっこと一緒にって、その……ほんとう、ですか……?」
あぁ、やっぱり。一部の人たちは絶望感をあらわに、それ以外の人たちはさらに目じりを釣り上げてしまいました。
「こんな事嘘を言ってどうするのです、本当の事ですよ?一緒に暮らすようになってからもう2週間ほどになりますから」
えっと、私からも何か言った方が良さそう……だよね?
「あ、あの、いいですか?」
と、手をちょっと上げて発言していいかを聞いてみたところ、集まった人たちからその視線で人を殺せそうな目で睨むように見られ、また少しひるんでしまったのですがここが踏ん張り所と頑張って説明することに。
「ちょっと家の事情がありまして、2週間ほど前から二条のお屋敷に居候させてもらってるんです。それで、学校も一緒になるし同い年だから沙織さんから沙織って呼んでほしいって言われて……その、良くなかった……ですか?」
「知佳さん、私がそう呼んでほしいと言ったのですから何も問題はないんです。そもそもクラスメイトなのに様付で呼ぶ方がおかしいんですっ」
と、どうやら沙織さんも様付で呼ばれていることに不満がある様でそれを吐き出していました。なるほど、会ってすぐに沙織って呼んでほしいと言っていたのはこういう背景があったのですね。
わたしも以前の学校では基本的に名字呼びでしたけど、何人かの仲の良いお友達からは名前呼びかあだ名呼びでしたからね。
そう言えば前の学校で仲良くしてくれていた人たちに挨拶も出来ていませんね。
皆さん元気にしているでしょうか……今度機会があったら挨拶に行きたいですね。
そして集まった人たちはと言うと、ちょっと恥ずかしそうな顔をしてお互いの顔を見ていました。きっと何か勘違いがあったのでしょうね。
などと思っていると、先ほどの松葉杖をついた男性がこちらにやって来ましたよ?
「沙織様、そのちびをお屋敷に住まわせてるって本当ですかっ!お、俺だって、俺だってあのお屋敷にはまだ入らせてもらった事ないのに!そんなちびは良いってどういう事ですかっ!?」
と、また訳の分からないことを言い出しましたよ?普通用事が無ければ人さまの家は入れないと思うんですけど、用事があって訪ねたけど門前払いされたとかなんでしょうか?
それともなんでしょうか、あのお屋敷って実はたとえ用事があったとしても選ばれた人しか入っちゃいけない決まりとかあるのですかね?だとしたら私も入るのは不味かったのかな?
でもそんな雰囲気は入り口を守るガードマンの人を含め、全くなかったような気がするんですけどね?
そんなことを思っていると……
「うひゃひゃうっ」
あうっ、スカートのポケットに入れていたスマホが突然震えだしてしまい、くすぐったくて変な声を出してしましました。
誰からの電話かな……と玲子さんからでした。とりあえず廊下に出てから電話に出るために周りの人に軽くお辞儀をして廊下に出ようとしたのですが、何やら後ろから笑い声と共に不穏な会話が聞こえてきますよ?
「ぷっ、クスクスクス」
「ちょ、ちょっと プッ あなた、わらっちゃ クスクス だ、駄目よ……」
「で、でも、クスクス 驚いた声が ぷぷっ」
「クスクスクス わ、わかる、あれは あははは」
「あぁ、あれは駄目だわ、可愛すぎる……二条様がいろいろ気を遣うのわかった気がするわ」
「そうね、中身もお子様っぽいし庇護欲そそられるわぁ」
「こ、これが愛ってやつなのかしらぁ、キュンキュン来ちゃうわ」
「母性を付けなさい母性を」
「持って帰っちゃダメかしら?うちのぬいぐるみたちと一緒に飾っておきたいわ」
「ダメに決まってるでしょ、持って帰るなら順番よ?」
電話の内容はと言うと、もう下まで来ているのだけど私達がいないから何かあったのかと心配して電話してきたそうです。
ですので、クラスの方達とちょっとお話をしていたと伝えたところ、それなら待ってるからゆっくりしてきていいとの事でした。ですので、なるべく早めに行くのでもう少しだけ待っててほしい旨伝えておきました。
そして電話を終え教室に戻ったのですが……またすぐに囲まれてしまいました。
が、こんどは先ほど見たく詰め寄られる感じではなく、皆さん柔らかい雰囲気。どうしたのでしょうね?
「近衛さん、さっきはごめんなさい。ちょっと色々衝撃的だったので問い詰めるようなことをしてしまったけど、あなたに思う所があるわけじゃないの」
「うんうん、ちょっと気になっただけでいじめるとかじゃないから!でもごめんね」
と皆さん先ほど詰め寄るような感じで話しかけた事を謝って来てくれました。まぁ、私としてもいきなり詰め寄られてびっくりしただけなので特に思う事も無いし、謝罪を素直に受け入れこれからクラスメイトとしてよろしくお願いしますと挨拶しておきました。
その後は沙織さんに玲子さんが来てるから帰ろうと言い、皆さんに一言挨拶をして帰る事に。
そんな中、知佳は後ろの方からこっちを睨んでいる男子生徒に気が付くことなく教室を去っていった。