●その頃の緊急対策本部と……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ダンジョン対策本部、司令室 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「司令長官、総理官邸の方からこのようなものが……」
そう言って報告に来た男の肩には3等陸尉の階級章が、司令長官と呼ばれた男の肩には陸将補の階級章が付いていた。
報告に来た男は厳重に封のされた書簡と10cmほどの細長い箱を司令長官に渡したが、渡された男はその様なものがダンジョン探索作戦開始を間近に控えたこのタイミングで来た事にいぶかしみ、顔をしかめていた。
顔をしかめた理由としては、この書簡に書かれた内容が作戦の急な延期の指令ではないかなどと想像しての事だろう。
「これは?」
その心情を隠し、とかく冷静に問い質してみるが……
「作戦開始前に必ず見るようにと、厳重に言付かってきました」
そう言われ先ほどの想像が間違っていないとほぼあたりを付けたが中を見ないわけにも行かず、今まで得た情報を元に徹夜に継ぐ徹夜の作戦会議を行いやっとここまでこぎつけた現状、ここにきて更なる作戦延期などとはと内心憤慨しつつも、この書簡を無視して被害を出した日には厳罰は免れない。
そんな思いをいだきつつ書簡の中身を確認した司令長官はと言うと、苦虫を噛み潰したような表情だったのが書簡を読むにつれその表情が和らいでいき、読み終わるころには満面の笑顔に変わっていた。
「直ちに緊急作戦会議を行う、作戦は一時延期、参謀各位および実戦部隊のメンバーを全員集めてください」
「しかし司令、参謀各位はすぐ集まりますが実戦部隊のメンバーもですか?彼らはすでに今回の作戦目標に到着し、現地で作戦開始を今か今かと待っている状態ですよ?」
「そうです、この内容は彼らにとっても重要な情報ですし、作戦に若干の変更が必要になりました。ですので至急こちらに来るよう伝えてください。なに、ダンジョンに関するさらなる有益な情報が手に入ったと言えば、彼らも嫌とは言わんでしょう」
そうして1時間後に会議室に集められた面々に対し、まず現在分かっているダンジョンについての情報のおさらいが行われた。
・ダンジョン内では電子機器の使用が不可能な事(フラッシュライトはおろか懐中電灯も使えない)
・ダンジョン内は真っ暗な事(灯りと言えるものは出口の魔法陣しかない)
・ダンジョン側面にあるATMのような機械に触れる事によりダンジョンカードと言うものを作成でき、各自のステータス等が判る様に成る事
・ダンジョン内で確認されているモンスターとして、犬・角のついたうさぎ・大きなネズミ・大きなひよこ・大蝙蝠が確認されている事
・モンスターを倒すと稀に魔石と呼ばれる透明なビー玉のような物を落とす事
・ダンジョン内で光っている魔法陣を見つけ、その上に乗れば外に出られる事
それら既存情報の確認が終わった後、司令官の方から新たにもたらされた情報が公開された。その内容として
・ダンジョン内において銃器は最初は使用可能だが、ダンジョンに入ってから30分もすると使用不可能になりその原因は現在のところ不明である事。
・ダンジョン内で出てくるモンスターは、今のところ分かっている範囲では5階までは同時に1匹しか出てきていない事
・モンスターの情報として新たにペンギンがくわえられ、ペンギンは10mほどの距離を地面を滑って突進してくる事
・またそれに伴い一部モンスターの攻撃手段も伝えられた
・出てくるモンスターはどれも中型犬から大型犬ほどの戦闘能力かそれ以下しかなく、落ち着いて対処すれば問題なく対処できるレベルであろう事
・モンスターを倒した後、その死骸に触れていれば魔石以外の何らかのアイテムがドロップする可能性がある事
・ダンジョン内は3km四方ほどの広さと思われ、その中に一か所だけ光る魔法陣があり、それにPT全員が乗る事で次の階層または地上に戻れる事
・モンスターの攻撃はポリカーボネイト製の盾でも十分防げた事
などが伝えられた。
また、匿名ではあるが民間からダンジョンから産出された低級HPポーションなる物が1つだけだが提供され、いざという時のために持って行き、もし誰かが大けがをした時は必ず使うよう通達された。
これらが伝えられている最中、会議室の中には各所でどよめきが上がったが、その中でも参謀達からどよめきが上がったのは死骸に触れていれば魔石以外の物が落ちるという情報で、実戦部隊からは銃器が使用不可になる事、および敵の強さに関する情報だった。
これにより使用する武器防具の見直しがなされ、いずれ使用不可になるのであれば最初から銃器は持ち込まず、その分近接戦闘を行うための武器を持ち込むことで話がまとまった。
そうして用意された装備はと言うと、自衛隊の本来の装備品である金属製のライオットシールドを装備する人員が二人、軽量なポリカーボネイト製の盾が用意されこれも二人が装備することになった。
武器としてはライオットシールドの二人は大型のマチェット、ポリカーボネイト製の盾のメンバーは明かりを主に担当することになり武器は大型のマチェットを所持、残りの盾を持たない二人はスコップを持ち腰に大型マチェットを下げる形となり、全員予備として大型のナイフという装備になった。
また灯り関係に関して、ホワイトガソリンを使用するランタンの他に、アルコールを使用するタイプのランタン、そしてどこから探してきたのかその昔に炭鉱などで使用されていたカーバイト・アセチレンタイプのヘッドランプも用意され、それと併用して大型のサイリュームも各自に数本づつ配布され常時身に着ける事となった。
そうして装備を更新して送り出された第一回ダンジョン探索チームは2時間ほどで全員怪我も無く帰還し、その後のダンジョン探索へ幸先の良いスタートを切ったのだった。
なお、この時使用されたダンジョンは東京世田谷区にある公園に出来たダンジョンで、彼らのダンジョンカードには第63ダンジョンと記載されていた。
この記載事項により、現在判明しているダンジョンにダンジョンカード所持者を入れる事により、何処のダンジョンが第何ダンジョンかを調べることが出来る事が判明。
即座にこの情報が日本各地の自衛隊駐屯地に連絡され、それぞれのダンジョンが第何ダンジョンかの調査が行われることになった。
調査の結果判明した事は、第2ダンジョンが京都のほぼ中心部、第3が大阪のほぼ中心部にあり、第4以降は原子力発電所付近に出来たダンジョンであることも判明し、これより推測されるのは、ダンジョンの番号が小さいほど日本にとってダメージが大きい所に設置されているものと推測された。
それらの調査結果から、皇居敷地内に出来たダンジョンは第1ダンジョンの可能性が高いという事で話がまとまった。
そうした調査の結果、現在政府で確認が取れているダンジョンの他に、最低で5つのダンジョンの所在が確認できていないことが判明。この5つの所在を早急に探すよう総理官邸から作戦本部へ指示がなされた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ その後のとあるダンジョン ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「隊長、それにしても自衛官になってダンジョンに入る事になるなんて、世の中わかんないもんっすね」
そこには右手にスコップを持ち、左手にはサイリュームを持った状態で周囲を警戒しつつダンジョン内を進む自衛官の姿があった。
「そうだな、俺は自衛官になってもし戦う事が有るのならどこかの国が攻めてきて、それに対しての国土防衛戦だとばかり思っていたが、まさか国内で攻め込むような戦いになるとは思わなかったな」
隊長と呼ばれた男はライオットシールドを構え、慎重に辺りを見回しながら進んでいた。
「でもあれですね、機甲科の連中からは普通科への転属願いがかなり出てるって噂、本当ですかね?」
「それより第34普通連隊の坂崎、いるじゃないですか?あいつダンジョン調査の第一陣に真っ先に志願したらしいっすね。あの頃は予想される危険度がかなり高く、生きて帰れないかもしれないって、まるで昔の特攻隊みたいな扱いだったのに迷わず志願したとかなんとか」
「あいつかぁ、あいつめちゃくちゃオタクだからな。ダンジョンと聞いて居ても立っても居られなかったんだろうよ」
「でも選考に落ちたんっすよね?」
「あぁ、本人の熱意だけじゃな。いやあいつも色々と成績は良いんだが、メンバーを全国から厳選するとなるとさすがに上位6人には入れなかったようだぞ」
「でも今頃は嬉々としてダンジョン探索してるんでしょうね」
「……そうだな、はっちゃけすぎて怪我してなきゃいいんだかな」
そういって脳裏で坂崎の顔を思い浮かべ、次のサバイバルゲームでは無事顔を見られるか心配する隊長であった。