●その頃の総理官邸と……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 総理官邸 密談用応接室 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「これはこれはご隠居、それに二条の総裁まで、お久しぶりですな」
「あんたも元気そうで何よりさね」
「ご無沙汰しておりますな、総理」
「して、本日はわざわざこちらまでお越しいただけたわけですが、何かありましたかな?」
「最近できたダンジョンについてだけどね、あんたたちはあれをどう考えているのか聞いておきたくてね」
「やはりその件ですか。現在自衛隊から選抜メンバーを集めて投入する準備を進めており、数日中には初回調査を開始する予定です」
「そうかい、まだ行かせてないって事はやっぱり中の情報が足りないって事かい?」
「はい。一応無事生還できたという民間の方からのお話を聞いてある程度の情報は集まったのですが、いかんせん命の危険のある場所。さらに言うなら外からの支援は一切不可能と思われる場所ですので、可能な限りの情報を集めてからと思っています」
「緊急で人命に係わる話じゃないとはいえ、まだ突入させてないなんてなんとも腰の重い話だねぇ。ま、人命は大事だからね」
「はい、可能な限り怪我の無い様、ましてや命を落とす事のない様万全の体制で臨みたい次第でして……」
「ところで、全国にかなりの数のダンジョンが出来ているそうだけど、その扱いについてはどうする予定だい?」
「なんでも現在確認できているダンジョンは100を超えているとかニュースでやってましたな」
「はい、正確な数字はさすがにお教えすることは出来ませんが、確かに100を超えております」
「で、それだけあれば当然民間の土地にもできてると思うけど、それらの扱いはどうするつもりだい?」
「現在のところ、自衛隊および警官により半径50m以内を封鎖しております。ただし、その範囲内に住居を所持している者に関しては退去を進めてはいますが、なにぶん急な話でいきなり引っ越しをしろと言っても無理な事。ですのでその住居の住民のみ、身分証を確認の上立ち入りを許可しているという状況です」
「それで、今後そのまま封鎖を続けて、その土地はどうするんだい?まさか国の方で取り上げる……なんて不条理な事を言い出したりはしないだろうね?もしそんなこと言いだすようなら……来季の当選はあきらめてもらうしかないよ?」
「は、はい……さすがに国民の財産を取り上げるようなことは、さすがに……。ただ、ダンジョンに関しては放置していては危険が伴うという情報もありますので、その場合の対処及び責任問題を考えますと……」
「まぁ、そうだろうね。その辺の責任問題はいくら土地の所有者に有るという事にしても国への非難も避けられないよねぇ」
「はっ、ご理解いただけているようで恐縮です」
「でもね、逆に言うと定期的に中のモンスターを退治していればその危険もないんだろう?あの言葉を信じるなら、だけどね」
「それにつきましては、現在調査中としか……」
「まぁ、責任ある立場からすればそう言うしかないよねぇ」
「でだ、当面は自衛隊なんかが専属で入るのは分かるが、近い将来民間にも開放する予定はあるのかね?」
「それにつきましては、まだ検討段階ではありますが概ね民間へ開放する流れにはなりそうです」
「そうかいそうかい、そのためにも警察なんかも早く中に入ってレベルを上げないと、ダンジョンで成長した犯罪者を取り締まれなくなるねぇ」
「はい、その様にかんが……レベル、ですか?」
「そうさね、中に入ってモンスターを倒せばレベルが上がる、結果強くなる。その時レベルを上げていない警官にその相手を止めることが出来るのか?」
「えっと……もしかして、何か情報をおもちで?」
「ふん、無ければわざわざこうして来たりはしないさね」
「して、その情報をいただくわけには……」
「条件次第さね」
「条件、ですか?それはどのような?」
「こちらの出す条件は、渡した情報の出所を詮索しない、ダンジョン関連では国民に不利益を極力与えない。後はそうだね、解放されたダンジョンが発生した場合そのダンジョンの所有権はその土地の持ち主のものとする。あとは、ダンジョンの現れた土地は国以外への売却を禁止する。ってところかねぇ」
「国民に不利益を与えないというのは、国民から選ばれたものとして当然の義務ですな」
「そうさね、でもそれを守れない、自分の利益しか考えない輩も多いからね。くぎを刺しておきたいのさ」
「確約は出来ませんが、可能な範囲では守りましょう」
「そしてダンジョンの所有権……ですか」
「そうさね、ダンジョンは言ってみれば鉱山だ。その鉱山が国内で突然見つかった、金になるから国に寄こせ……とはならないだろう?その鉱山の所有権はその土地の持ち主のものだ。ちがうかえ?」
「いえ、確かにその通りです。その通りですが……その、放置しておくとモンスターがあふれ出すという危険もあるわけでして……」
「その辺は定期的に視察を行わせるなりすればいいだろう?なんと言ってもあふれる契機は入り口を見れば一目でわかるんだからね。その管理をきちんとできているかどうか、出来ていなかった場合は罰則を与え、それを繰り返すようなら国で取り上げる。そう言うルールを作ればいいさね」
「は、はぁ。それでしたら何とかなりそうですな」
「ダンジョンの発生した土地の売買の禁止は……先ほどの話に絡むわけですな?」
「そう、せっかく国内に出来た新たな鉱山、外国の息のかかった連中に持って行かれちゃたまらないからね。最悪その連中にダンジョンの周りを囲まれて出入り禁止にされたらモンスターがあふれ出して国が滅びかねないだろう?」
「なるほどなるほど、もっともなご意見ですな」
「して、最後に情報の出所を詮索しない……というのは?」
「情報は金になるからね、無暗に情報源を知られてまとわりつかれても困るってものさね」
「まぁ、当然といえば当然ですな。しかし、それですと追加の情報などは……」
「全部が全部とは言わないが、今後も回すさ。人命に関わりそうなものとか、商売にあまり関係のないものなんかはね」
「うーむ……それでしたら、確約は出来ませんがその方向に議会の承認を持って行く事は可能かと思われます。もっとも今の事柄に関しては国としても特に不利益は無いので問題なく通せると思いますがね」
「そうかいそうかい、これでうちらが関連している土地で損を出さずに済みそうだよ」
「あぁ、やはり二条の方でも出ていましたか」
ちなみに、渡した情報はあくまでもこっちが入ったダンジョンでの情報であり、他のダンジョンで共通かどうかは不明という点についてはきちんと説明してある。
その後、現在二条家で得ている情報の大半を渡し、代わりに対価として先ほどの話の内容を可能な限り法案を通して実現させるという事で話がまとまった。
もちろん情報源の詮索をしない件について一筆書かせたのは言うまでもない。
そして会話にはほとんど参加せず、ただその場にいるだけだった二条家当主の二条 権蔵は、これで知佳の家を守れると内心ほくそえんでいたそうな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 都内某病院 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ごめんなさい。私がちゃんと注意していれば……」
40歳ほどの夫婦と思われる男女の前で、中学生と思われる少女が今にも泣きだしそうな顔でひたすら謝っていた。
「千代子さんのせいじゃないわ。どうせ冬弥が無理を言って千代子さんを連れて行ったのでしょう?」
「でも、冬弥君のお父さんにも無理しないよう見張っていてくれって言われてたのに……」
「冬弥の事だから、千代子さんがいなくてもダンジョンに行っていたわ。でも、もし一人で行っていたらこうして生きては帰ってきてなかったかもしれない。だから、生きて連れ帰って来てくれた千代子さんには私たちは感謝しているのよ?」
「そうだぞ千代子君、ちゃんと見はってくれていた、そしていざという時に無事に冬弥を連れ帰って来てくれた。本当にありがとう」
「それに、ダンジョンに入って出てきていない人もまだ沢山いるのに、冬弥は足の骨を折っただけで出てこれたんですもの、それもこれも千代子さんのおかげよ」
なお、エクスカリバーは父親に取り上げられ、3か月間のお小遣い減額を言い渡されたそうな。