ここは他人の家ですか?いいえ、私の家です
どうやらパトカーは複数台のようですが、結構大きい事故でもあったんでしょうかね?
と思っていると、どんどんサイレンの音が大きくなってきて、道路をふさぐように止まり沢山の警官の方たちが下りてきました。
え?なになに?もしかしてダンジョンの事がばれて私たち捕まっちゃうとか?
そう思っていると、警察の方たちはわたし達の乗っている車を取り囲み始めました。
「近衛 正秀だな、お前には入国管理法違反および在留資格等不正取得罪、その他公文書偽造諸々含めて逮捕状が出ている、大人しくお縄に着け。同時に妻の近衛 ゆみ子、その息子の龍一にも同時に逮捕状が出ている。おとなしく同行してもらおうか」
「お、おれは日本人だ、日本人と結婚したんだから日本人のはずだっ、入国管理法違反とかはもう関係ないはずだっ」
「そうよ、私も日本人の男と結婚したんだから、日本人のはずでしょう」
「ぼ、僕だって日本人の子供だ、日本人なんだぞっ」
自分の事を日本人日本人って連呼していると、逆に日本人じゃないのかなって思えてきますね。もしかして日本人じゃなかったのでしょうか?
「うるさい、詳しくは署の方で話を聞く、大人しく同行してもらおう」
そうして元義家族3人は手錠を掛けられそれぞれ別々のパトカーに乗せられました。
「イチハチマルゴ、対象を確保っ」
「イチハチマルゴ、確保確認しました」
「これより3人を署まで連行します。あなた達にも後日お話を伺うかもしれませんが、その時にはご協力のほどお願いいたします」
「わかりました。連絡先は……」
「先ほど連絡をいただいた宇喜多さんの番号でよろしいでしょうか?」
「はい、私の携帯で結構です」
「では本日はこれで失礼します」
そう言って敬礼をしたかと思うとお巡りさんは残っていたパトカーに乗って去っていきました。
「これで全部片が付いたかな?」
「片が付いた、というと?」
玲子さんが色々やってくれたのかな?
「知佳ちゃんのお家関連、あの人達もいろいろと犯罪に手を染めてたみたいでね。くわしくは二条の大奥様が教えてくれると思うけど、これであの人達には二度と会うことは無いと思うわ」
「そっか……そう……だね」
「さ、帰ろう、知佳ちゃんの新しいお家、新しい家族の元へ」
「うんっ」
そう、今まで義家族と思っていたのはただの偽り、でもそのおかげで本当の家族に出会えたんだもんね、本当の家族の元へ帰ろう……
そう思っても涙が出てきて前が……
そんな私に気が付いた玲子さんがそっと抱きしめてくれて、その温かさに甘えてまた泣いてしまいました。
そんな私たちを乗せた車はゆっくりと走り出し、何時もより少し時間をかけて二条のお屋敷……ううん、新しい私のお家に着きました。
そして、そんな私たちを曾お婆ちゃん、お婆様、美雪伯母さん、そしてお爺ちゃんと高志伯父さんまで一緒になって出迎えてくれました。
私は車から降りて曾お婆ちゃんたちの前まで行き
「た、ただいま……」
と初めてこのお家に来て皆に「ただいま」を言いました。
そうしたら曾お婆様がわたしをそっと抱きしめて
「おかえり、これからはずーっとここにいて良いからね、ここは知佳ちゃんのお家なんだからね」
「そうだよ、そんなのとっくに判ってたはずの事なんだからね。何の遠慮もいらない、自分の家なんだからやりたいことをやりたいようにするんだよ。遠慮なんかしたらぶん殴るからねっ」
あは、私ここにいて良いんだよね、ここが私の家で良いんだよね。皆、私の家族なんだよね……
そう思うとせっかく泣き止んだはずの涙がまた出てきました。
その後しばらく曾お婆ちゃんに抱きしめられたまま泣いていましたが、しばらくするとみんなが私を見ているのが分かり、急に恥ずかしくなりました。
みんなはそんな私に気を使ったのか、何も言わず家に入って行き、みんながいなくなった後曾お婆ちゃんが
「さ、まずはお風呂に入っておいで、その後は知佳ちゃんが本当の家族になれたお祝いをしよう」
そう言って先に家に入って行きました。
私はと言うと、玲子さんが車椅子を用意してくれていたので車椅子に乗り、お風呂に向かいました。
その後、お風呂から上がって食堂に行くといつもとは違った雰囲気で、テーブルの上を見るといつもより豪華な食事とケーキが用意されていて、私が本当の家族になれた記念日だと言ってお祝いをしてくれました。
……
楽しい食事が終わった後のお茶会では、知っておいた方が良いだろうとの事で曾お婆ちゃんから教えられたことがあり、その内容はというと
義父と義母、義兄はじつは他国の人で、元々そちらで家族だったそうです。
そして実母が亡くなる1年ほど前に来日し、実母が亡くなった後義母は実父と接触、後に実父と結婚。
この時日本での書類は独身として登録されていたそうで、実父との婚姻が受理されたそうです。
そして実父が亡くなって半年ちょっとすると義父は義母と結婚、婿入りをして近衛姓を名乗るようになったんだとか。
ただ、義母も義父も、義兄もパスポートなどを偽造し不正に入国・滞在していたらしく、今回その事で逮捕に至ったそうです。
今後あの3人がどうなるかは、日本の法律で裁かれ服役するのか、すぐに自国に送り返されるのかは司法がどう判断するのか分からないとの事ですが、どのみちもう日本国内で会うことは無いだろうとの事でした。
それらの話を聞いて、結局あの人たちは最初から近衛のお婆ちゃんの持っている土地や建物などが目的だったんだなと、義母もお父さんが好きで結婚したんじゃなくて、結局はお金目的だったんだなと気が付きました。
曾お婆ちゃんは、本当ならこの事はわたしには伝えたくなかったそうですが、今回の件である程度の事を知ってしまったため中途半端に知る位ならと、今回の件に関する事のほぼ全てを教えてくれたそうです。
ちなみに、玲子さんに関しては父が死んだあと義母が近衛のお婆ちゃんと私の面倒を見させるためにヘルパーを頼んだため、その時に二条のお婆様が残った私の事を心配してヘルパーとして派遣したのだそうです。
二条家としては、本当なら実父が亡くなった段階でわたしを引き取りたかったそうですが、近衛のお婆ちゃんがいるから二条で引き取ると近衛のお婆ちゃんが一人になってしまうため引き取るわけにも行かず、かといって実父も実母もいない私が不当に扱われないか、もし扱われた場合は何とか対処するべく監視し、そしてさらに足の不自由な私の日常生活の手助けも兼ねて派遣したのだそうです。
ちなみにこの時のヘルパーの代金は、義母は全て近衛のお婆ちゃんに払わせていたそうです。
そんなこんながあるから、玲子さんは近衛のお婆ちゃんが亡くなった後は二条家にお世話にと言っていたのですね。
そしてそんな頃から私の事を心配して色々と手を尽くしてくれていた二条のお婆様には頭が上がりませんね。なのでお礼を言ったところ
「孫なんだから心配するのは当たり前だし、その孫が困っているなら何とかしてやるのは当たり前の事なんだよ!だから私のしたことに礼なんかいらないんだ!お前はわたしの正式な孫なんだから、好き勝手やって私に迷惑もかけて、その上で私に可愛がられてればいいんだよ。孫のわがままを聞いて可愛がるのが老人の楽しみなんだからね!」
とまたまたツンデレな事を言ってくれました。
そんなこんなで義家族と思っていた人達との一件については、結局はお金目当ての赤の他人だったという事で私の中での決着がつきました。