●ダンジョン出現三日目の政府と…
「対策本部に集まった情報というのはこれで全部ですか?」
「はっ、確認が取れているのはそちらの資料で全てです。また、未確認情報も別個そちらに用意しておきました」
「なるほど、現在発見されているダンジョンは全国で97カ所ですか。しかもその全てが近くに居住地なり重要施設なりがあると……」
「どうやら地球の意志とやらはどうあってもダンジョンを放置させる気が無い様で、もし一か所でもモンスターがあふれるようなことになったら日本は大惨事に見舞われます」
「そうですね、これはもうモンスターがあふれた時の被害予想額を出すだけ時間の無駄、そんな時間があるなら如何にしてモンスターがあふれ出ない様に対処するかの検討に時間を回すべきですね」
「我々の意見もそれで一致しています」
「そしてその中でも特に問題になる場所ですが……これは頭が痛いですね」
「我々もまさかとは思って再度確認を取ったのですが、どうやら見間違い等ではない様で」
「皇居敷地内にもダンジョン出現ですか、これはある意味原発の隣に出来たダンジョンより扱いが難しいですね」
「はい。モンスターを溢れさせないのは当然として、可能な限り最優先でセーフダンジョンにする、そして場所柄人死には好ましくないので……」
「死人を出すことなくダンジョンをクリアする必要がある……ですか。これは他のダンジョンで経験を積ませてダンジョンエリート部隊を育成し投入するしかないですね。もちろん他のダンジョンでも人死にを出さないに越したことは無いのですがね」
「それなんですが、まずはそのエリート部隊をどう育成するか、そしてモンスターがあふれ出すまでにその育成が間に合うのか、まだまだ分からない事が多すぎて何から手を付けて良いのか」
「そして対応する人員も、自衛官から選抜するのか、警官から選抜するのか、はたまた皇宮護衛官から選抜するのか」
「その問題も、ありますか……」
「皇宮護衛官からは皇室関係の護衛に関することは自分たちの役目だと言われ、自衛隊からは皇居の敷地内とは言え国の危機から国民を守るのは我々だと言われ、警察庁からは市民の安全を守るのは我々だと」
「危険があるのを分かった上でそう言っているのならまだ良いのではないですか?自分の管轄じゃないからと他に押し付けるよりはるかにましですよ」
「それはそうなんですが」
「なーに、護るという事に対してプライドがあるからこその発言です。となればその点を上手くついて納得していただければ、きっと皆さん協力して事に当たってくださいますよ。そしてその調整をするのも我々の仕事です」
「何にしても、極力人的被害を出さない様にするためにまずはダンジョンについての情報が必要です」
「そのダンジョンの情報についてですが現在のところ分かっているのは」
・ダンジョン内に入るとすぐ出られるわけではなく、出口となる魔法陣を探さなければならない
・ダンジョン内では電気製品が一切使えない
・モンスターは大型の犬やウサギ、ネズミなどが存在する
・モンスターは同時に一体しか現れていない
・モンスターを倒すと一定確率で透明なビー玉のような物をおとす
・この玉はネット上では魔石ではないかと言われている
「といった感じです」
「魔石……ですか、それはいったいどのような物なのでしょう?」
「これはあくまで仮定の話というか想像上の話なんですが、なんでもファンタジー物の物語ではごくありふれた物らしく、大体の物語では魔物から取れる魔石には様々な効果があり、今回産出された魔石も何らかのエネルギー源になるのではないかと……あくまでも創作上での話ではありますがね」
「未知のエネルギー源の可能性……それは是非そうあってほしいものですね。してその魔石の入手は?」
「今のところまだ入手には至っていません。ただ報告によりますとめったに出ない物ではなく2~3匹倒せば落とすそうなので、自衛隊の部隊が中に入る事になればすぐにでも入手可能と思われます」
「そうですか、今までに集まった情報を見るに準備さえ怠らなければそれほど危険とも思えませんし、これらの情報を持って議会に掛け、まずは自衛隊の方たちに中に入ってもらう方向で調整するとしましょう」
……
「それでモンスターがダンジョンからあふれ出す契機でしたか?なんでも入り口の上を見ればある程度はわかるとの事でしたが、そちらの方はどうなっていますか」
「現在確認が取れている全てのダンジョンをチェックしたところ、入り口上には5つの玉の様なものが付いていますがどれも周りの壁と同じ色でして、これが今後どの位の期間でどのように色が変わっていくのか現在監視中です」
「そうですか、それらの変化を調べるためにも部隊を投入するダンジョンと全く手つかずのダンジョンの管理をしっかりしなければなりませんね」
「それにしても現在分かっているだけで97カ所……現状でも自衛隊や機動隊だけですべてを対処しきれる数字じゃありませんね。しかもまだ増える可能性まであるとなると、早急に国会に法案を通して民間の方たちの協力も得られるよう法整備をしなければなりませんね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ その頃のとある地方にて ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「へぇ~、これが話に有ったダンジョンってやつか」
「ちょっと冬弥君、本当に行くの?」
「なんだよ千代子、ついてくるって言ったのお前だろ?」
「冬弥君が無茶しない様に見張ってろって、冬弥君のお父さんにお願いされてるもん」
「監視乙、いやなら来なくていいんだぞ?」
「この中ってモンスターが出るんでしょ、危ないよ?やめようよぉ」
「ばっかだな、モンスターと言っても所詮ちょっと大きなウサギらしいからな、そんなのこの俺様のエクスカリバーにかかれば一撃だぜ!」
そう言って少年は手に持っている剣のようなものを掲げて見せるが、それはどこからどう見てもエクスカリバーなどと言う伝説の武器ではなく、ただの使い込まれた剣鉈であった。
「ちょっとー、そんなおっきな刃物まで持ち出して、あぶないよ?」
「大丈夫だ、このエクスカリバーはすでにダンジョンでコンバットプルーフ済みだ!だからこれを使えば俺でも戦えるんだ!」
「こんばっとぷーる?良く分かんないけどやめようよぉ」
「良いからお前はそのランタンを持って俺の後ろについてくればいいんだ、そうすれば俺が守ってやる!」
「え?冬弥君それって……期待、してもいいんだよね?」
「任せろ!モンスターは全部俺が倒してやるっ」
「冬弥君……」
そこには淡い恋心と恋する相手からの守る発言に頬を染め、その相手である少年を熱い眼差しで見つめる少女と、これから起こる戦いに心を躍らせる一人の少年の姿があった。