ここは義父の土地ですか?いいえ、私の土地です
家の近くまで来たのですが、どうやら家に続く道のど真ん中に車が止まっているようで、こちらも止まりました。
この辺の道はせまくて、ぎりぎり2台すれ違うのがやっとなんだよね。
なので対向車がいる場合は脇に避けてもらわないとすれ違えないのです。
どうやら義両親の車の様で、まだ朝が早いというのにここで待っていたのでしょうか?
と思っていると、運転席と後部座席を仕切る様にカーテンが閉められました。
これでわたし達のいる後部座席は半密室になり、外からは見えないでしょう。
とはいえ、中からはスモークガラス越しに外が見えるので、義家族がどう動くのか見ていることにします。
「とまれー、とまれっ、お前たち何処に行くつもりだ」
「どこと言われましても、この先にお仕事に行くだけですが?」
どうやら葵さんが対応してくれるようです。
「この先は家の私有地だ、よって許可無しでの立ち入りは禁止だ」
なんか、勝手なこと言ってますけどここはまだ公道ですよ?
「そう言われましても、この先の近衛家の方から依頼があった工事の打ち合わせですので」
「なんだと、近衛は俺だ!それに工事なんか依頼した覚えはないぞ、どういうことだ!」
「どういう事と言われましても、近衛知佳さんからの依頼ですが?」
「ちっ、あのガキか。ともかく、俺はその近衛知佳の父親だ、奴の言う事はでたらめだから今すぐ帰れ!」
「そう言われましても、こちらとしても正式に依頼された仕事ですので」
「うるさい、そもそもここは俺の土地だ、俺の許可なしに工事なんかさせる訳ないだろう!」
あれ?土地も建物も私がお婆ちゃんから相続したので私の物のはずだけど?もしかして、私の物は義親の物理論?
「おかしいですね、確認したところこの辺一帯の土地も建物も近衛知佳さんが権利者なんですが、あなた本当にお父様なんですか?」
「そうだ、父親の近衛 正秀だ」
「あぁ、あなたが。実は今回工事をするにあたって色々と調べさせていただいたのですが、あなた・・・・・・ですよね、しかも・・・・・・と調査報告が上がっていますが、この事を・・・・・・に通報しても良いんですけど?」
むむ、急に小声に?小声でしゃべられると聞こえないっ、何か密談!?
「な、そ、そんなことは無い、誰だそんなデマを流している奴は!」
あ、義父があせってる?それに、義父って正秀っていうんだ、初めて知ったわ。
「ともかく、これ以上邪魔される様でしたら業務妨害という事で訴える事になりますよ?」
「そんなこと出来るわけないだろうが、この先は俺の土地なんだぞ!」
「これ以上邪魔をするようなら本当に警察に通報しますよ?」
そう言ってスマホを取り出したようですが
「くそっ、覚えてろよ」
捨て台詞を吐いて義父は車に戻り、街の方へと去っていきました。
車が見えなくなったのを確認してから、私が疑問に思った事を葵さんに聞いてみる。
「ねぇ葵さん、途中で小声になって聞こえなくなったんだけど、なに?」
「あぁ、知佳ちゃんは知らなくても大丈夫よー、もし知っておいた方が良いなら二条の大奥様が教えてくれると思うから」
「ふむー、曾お婆ちゃんがまだ知らない方が良いっていうなら、知らなくていいのかな?」
そうしてひと悶着あったものの、無事倉庫に着いた。
倉庫の周りにはすでに工事現場みたく足場を組んで取り囲まれ、さらに足場の外側を布で覆われ外からは倉庫が見えない様になっていた。
布で覆われた中に車で入ると、倉庫の横にプレハブの建物が建てられていて、そこでダンジョンに入る前の最終打ち合わせをするみたい。
プレハブの中は学校の教室の半分くらいの広さがあり、窓にはカーテンを掛けられていて外からは覗けないようになっている。
中央には会議卓をいくつか繋げた大きなテーブルが用意されていたので、そこに武器やら防具やらを取り出したのだけど、何もない所から剣や短槍、大盾なんかを取り出すとみんな驚いていたが、同時にこれがダンジョンの恩恵なんだとどこか納得もしていた。
「で、この短槍とこの鎧?これが沙織さんの装備……かな?」
「えっと、知佳さん?短槍はわかるのですが、この鎧……ですか?鎧というには胴体部分がほとんど無い様に思えるのですが、本当にこれで全部ですか?」
「そ、そうだね。私も現物見るのは初めてで、まさかこういうものだったとは……」
取り出した『雪乙女の氷鎧』は、鎧というにはあまりに小さく、あえて言うならビキニアーマーだろうか?
胸周り、腰回りに加え、サークレット、膝あて付きのロングブーツ、肘あて付きのガントレット、そしてチョーカー?首輪?とそれに連結している肩当てだった。
「腕と足、後サークレットは良いですけど、胴部分がブラとパンツだけって、さすがに防具としてどうなのかしら?」
と、言っている内容は批判的だけど、それらを見る目はキラッキラしていますよ?もしかしてビキニアーマーに憧れがあったとか?
まぁ、そのナイスなバディーを持っていれば、そういう事もあるのかもね!ちくせう。
これはもう、どんな理由を付けてでも沙織さんにこのビキニアーマーを着せるしかないね!
あ、性能的にはすごく良さそうなのよ?
「あー、うん。お腹丸出しだから防御力は低そうに見えるかもしれないけど、性能的にはかなり良いみたいよ?魔法の防具だと思うし」
そう、出してから鑑定してみた結果がこれだ
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雪乙女の氷鎧
雪乙女の願いがこもった鎧
氷系の攻撃に対し絶大な防御力を誇る
女性専用
HP+1000
耐久力+1000
氷耐性(大)
環境耐性(中)
この鎧は、魔法的効果により全身に防御力を発生させ、防具が無い部分も同様に守られる
他の鎧を併用した場合はこの効果は表れない
また、この防具を身に着けても敏捷度が下がらない
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そのことを伝えると、どうやら使うか悩んでいるようだ。もっとも、頬をうっすら赤く染めつつも目はキラッキラしているので、きっと体面上の問題なんだろうなぁ。
確かにこの防具を付けて街中あるいたら、痴女にしか見られないだろうしね!
ちなみに、ライダースーツを鑑定してみた所鑑定できたので、そっちの性能も伝えてみる。
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ライダースーツ(革鎧)
牛皮をなめしたもので作られた全身鎧
耐久力+2
敏捷度-2
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「あぁ、その結果からすると、ライダースーツと一緒に着ると効果が出ないのね」
そういってテーブルに両手をつきがっかりって感じにしてますけど、そのビキニアーマーを見つめるキラッキラの目はごまかせませんよ?
まぁ、ビキニアーマーって一度はあこがれるよね、着て似合うならだけど!
「これだけの性能の物を使わない手はないね、と言う訳で沙織お嬢様はこれ着ること決定ね」
「え?でも、まだ私がこれを借りると決まったわけじゃ……」
などと楓さんがせっかくナイスサポートをしてくれたのにまだ渋っているので、だめ押しをしてみた。
「いやいや、短槍使うならこの鎧じゃないと!そしてこの中で一番うまく短槍使えそうなのは沙織さんでしょ?ならこの鎧も沙織さんが着るべきだと思うの!」
私がそう言うと、さすがに自分がビキニアーマーを着るのは戸惑われるのか、護衛3人組の人達も私の意見に賛同してくれた。
ふっふっふ、目の保養の為ならこの位の腹芸はわたしにもできるのですよ!
皆からも勧められて観念したのか、はたまた憧れへの期待と羞恥心に対する不安のせめぎあいで憧れが勝ったのだろう、あきらめた表情で鎧を受け取り部屋の隅に用意されていた更衣室へ着替えに入っていきました。