●その頃の首相の様子と……
このお話は202話●その頃の各国首脳の様子と……の直後のお話です
◆◇◆ 電話会議終了後の出来事 ◆◇◆
「総理、良かったのですか?あんな他国にばかり有利な条件を飲んでしまって」
「他国に有利とは?」
「今現在、ただでさえ世界各国に無償でダンジョンの情報を与えているのに、さらに現在我が国が圧倒的にリードしている中、そのリードに歯止めをかけるような条件を飲むなどと」
そう言ったのは総理の第三秘書であり、修蔵が総理になってから側付きになった人物であった。
それに対し、修蔵が総理になる前からの腹心である第一秘書は、第三秘書を冷ややかな目で見ていた。
「その件かね、何も問題は無いよ。いや、むしろ良い方向に持って行けたと思っている」
「利点を捨てたにもかかわらずいい方向……とは、何か裏が?」
そこで語られた内容はというと、元々119あるダンジョンを5年で全てクリアするつもりがないという内容だった。
というのも、それら全てのダンジョンを管理するには人員が足りない。
そして目が届かなくなれば、なにがしか問題が発生する。
「しかし、それならばなおさらセーフダンジョンを増やすべきでは?」
「それこそ愚問だよ」
そう、今の日本なら上限100のうち、無理をすれば50は日本が取れると修蔵はにらんでいる。
しかし、それだけのダンジョンをセーフダンジョンにしたとしたら、世界は日本をどう見るだろう?
これが全ての国が同じスタートラインから始まったのなら、まだ言い訳もできる。
だが実際の所はちがう。
初回クリアを行った人員が日本におり、かつその人員からの恩恵を受けた状態である。
たとえ、その人物からの恩恵を受けていなかったとしても、他の国々は恩恵を受けているとみるだろう。
となればだ、ある程度制限を設けそれを理由に他国に対して恩を売る方が、よっぽどその後の国際社会で上手く立ち回れるというものだ。
そもそもセーフダンジョンと通常ダンジョンの違いは、人が入らなかった場合にモンスターがあふれ出るかどうかの違いしかないのだ。
ならば、国内で安易に人を大量投入できない場所のみ、セーフダンジョンに出来れば問題は無いと考えている。
そう、例えば皇居内のダンジョンなどだ。
その他にも、現在稼働中の原子炉近くに出来た物は、可能な限りセーフダンジョンにしたいと思っているが、そちらは最悪ならなくてもよい。
そう考えると、大量にセーフダンジョンを日本で抱え、それを理由に国際社会で突き上げを食らい様々な譲歩をさせられるよりは、他国にセーフダンジョンの上限を言い出させ、その提案に仕方なく乗る形にすれば、逆に恩を売ることになり様々な譲歩を引き出せるというもの。
「なるほど、その様なお考えでしたか」
「その他にもな、現状例の初クリアの人員の様々な情報を求められたりもしているが、その情報は今はまだ渡すわけにもいかないしな」
そう、その情報を渡してしまうと、様々な国から暗殺者が送られてくる可能性がある。
渡していない現在でも、それらしい人物が入国したという報告が上がっているのだ。
もっとも、修蔵本人が詳しい事を知らないというのが最大の理由ではあるが。
これでセーフダンジョンの上限を設けていなければ、日本のダンジョンクリアを邪魔するために確実に暗殺者が動くことになるだろう。
それにその人員は、どう考えても二条家の重要なポストにいる人物なのだ、放っておく訳にもいかない。
もし事が起これば日本にとって大きな損失になると共に、世論的にも大問題になる事は間違いない。
そして最後の理由は、5年で全てのダンジョンを残そうと思った場合、それに必要な人員の稼働率。
かなりの無茶をすれば119のダンジョン全てを残すことは可能だろう。
しかし、その無茶の中でどれだけの人員の損失が出るか……
そう考えれば、最初の3年間はダンジョンクリアに制限がかかるという、世界規模での決まり事があるのを理由に残さないダンジョンが発生するという、国民への体の良い言い訳が出来る。
それに、あまり多くダンジョンを残しても、そこから産出される資源の量は大して変わらないと踏んでいる。
というのも、ダンジョンに入る人員の総数は変わらないと考えられるからだ。
例えば60のダンジョンと110のダンジョンが残ったとする。
それでも、国全体でダンジョンに入る人員はほぼ同じだろう。
たしかにダンジョンに入る人達から見れば、数が多い方が入るダンジョンを好きに選べ、かつ自分の住んでいる所から近いダンジョンに行くだろう。
しかし、実際の所ダンジョンが一般開放されれば、多少遠くとも人々は自分に合ったダンジョンや稼げるダンジョンを目指すはず。
となると、選択肢が若干減っても、結局はどこかのダンジョンに入ることになるのだ。
ならば管理する側の都合や他国との摩擦なども考えると、今回のセーフダンジョンの上限は我が国にとって有益でしかない。
ただ、国民にこのことを発表すれば、目先の事しか見ない一部の人々からは、「なぜ自国有利の状況をわざわざ捨てるのか」と突き上げを食らうだろう。
だが、それもまた総理の仕事と割り切るしかない。
国民に細かい裏の事情まで全てを説明すれば、ひいては他国へも説明することになってしまうのだ。
それにしても、どの段階で残すダンジョンの選別を行うかが今後の課題になる。
しかしそのためには、もっと深層に行ける様になり、それぞれのダンジョンでの産出品を見比べ精査しなければならない。
ほかにも交通の便や周囲の立地状況等、考慮しなければならない条件が数多く存在する。
人口密集地のど真ん中のダンジョンなど、周囲に施設を建設する土地を確保するだけでどれだけの資金が必要になるか、いまから考えただけでも頭が痛くなる。
それに、過疎化が進んでいる地方都市などはダンジョンが出来たことにより、過疎化に歯止めをかけることが出来る様にもなる。
他に各政党の有力者の地元への配慮などもあるな。
その辺の政治的配慮も考慮しなければならないのは頭の痛くなる問題だ。
それらについては各党から人員を出させて専門チームを発足させ、そちらに丸投げするべきか……
また利権絡みの突き上げが来るのかと思うと、胃が痛くなる思いだな。
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