●その頃のダンジョン対策本部と、とあるダンジョンアタックチームと
◆◇◆ ダンジョン対策本部本部長室 ◆◇◆
GW半ばの今日も対策本部に詰めている本部長には、どこか疲れた様子も見らえるが、それでも精力的に仕事をしていた。
と、そこへ突然の電話が
「私だ、何だね?」
「二条の総裁からお電話ですが、お繋ぎしてもよろしいですか?」
「二条の総裁から?あぁ、至急つないでくれ」
二条の総裁と言えば今頃は北海道のはずだが……
まさか、北海道のダンジョン関係で何か問題が?
いや、問題がなければ休みのこの日に電話をしてくることは無いか。
それとも例の羊のモンスターの良い解決案でも見つかったのだろうか?
「本部長かね?私だが」
「これはこれは、急なお電話、何かありましたかな?」
「今さっきダンジョンに行っている玲子君から報告が上がってきたのだが、どうやら北海道ダンジョンに入っている隊員たちには例の約束事が周知徹底されていないようだね」
「例のというと、必要以上にかかわるなというあれですか?すみません、こちらにはまだ報告が上がってきていないのですが、詳しくお聞かせ願えますか?」
今回二条チームの人達に北海道のダンジョンへ行ってもらったのだが、その約束事として
・能力の開示要求等はしない。
・ダンジョン内での不必要な接近は厳禁。
・見かけた場合はあいさつ程度は構わないが、それ以上の接触は避ける。
特に後をつけるなどの敵対を疑われかねない行動は慎む事。
との取り決めの元、今回手間取っている該当ダンジョンへの出向をお願いしたのだが……
どうやら話を聞いたところ、ダンジョン内にて自衛隊チームからいろいろ難癖をつけられ、ほぼ全ての約束事を破るような行為をされたという。
しかも上に報告してもいいのかと問うたところ、どっちの言う事を信じるかなどと傲慢な発言まであったらしい。
それを聞いた二条の総裁がどういう事かと問い合わせてきたのが、この電話だ。
まったく、せっかくアメリカをはじめ、他国からの突き上げをかわすのと、各地で発生している問題の両方を一度に解決できると思ったのに、さらなる問題を起こすとは。
しかもこんな事では今後こちらの要望には耳を貸さないとまで言われてしまった。
確かに今回の件に関しては報酬などの話は一切なく、向こうの善意で行ってもらったもの。
これはうまく解決しないと、今後が大変になる。
「申し訳ありません、至急事実確認の上、該当者を処分いたします」
「まぁ、罰則は必要だと思うが、処分は……な。聞いた話だとここのトップチームとの事だし、戦闘能力だけはあるのだろう?だとしたらだ、その様な隊員を野に放つのも現状では損失となる」
「確かにそうではありますが、規律は大事ですので」
該当する隊員は厳罰に処すべきとも思ったが、確かに言われてみればダンジョンが出来た現状、その内部事情をある程度以上知る隊員を除隊処分にするのは情報規制面でも、ダンジョン攻略面でも後から色々と問題になりかねない。
しかし放置しておくのも、さらなる問題を起こしそうではある。
「しかし、今回アタックチームの問題が出た事で、なにがしか対策を取らねばと感じます」
「というと?」
「常に同じメンバーが他人の目のない所で動いていれば、天狗になるものも出てくるのだと今回の件で思い知らされました」
「まあ、今回の件はまさにそうだね」
「そのため、定期的にメンバーを入れ替えるなり、上官との面談や他の面々との話し合い、ヒアリングを行う必要があるかと考えます」
「なるほど。それで今回の様な事が全て無くなるとは思えないが、ある程度の予防にはなりそうだね」
「はっ。つきましては、その……今後も何かあった際にはご協力のほどを……」
「そうだねぇ。それについては今後の取り組みを見てから、かな?」
こうしてダンジョンアタックチームは、一定期間毎にチームメンバーの入れ替え及び、カウンセラーによる個人およびチーム単位での面談が行われるよう、管理体制の見直しが図られた。
またこのシステム改正についての話し合いで、別ダンジョンのアタックメンバーとの入れ替えも行った方が良いのでは?との意見も出るには出た。
しかし、それについては攻略階層がまた1からになってしまうため、当面の間は見送られることになる。
なお、今回の二条総裁からの電話の最後に羊型モンスターの対処法の報告があり、その内容は該当ダンジョン担当管理者へ即座に伝えられた。
◆◇◆ その頃の某ダンジョンアタックチーム ◆◇◆
自衛隊官舎、男子トイレでその会話は行われていた
「くそっ、何だって俺たちが便所掃除なんかしなきゃいけないだよ!」
「うるせぇ、お前がしつこく戦い方を見せろって言いよったからだろうが!」
「そもそも挨拶位は良いって話だったじゃねーか。なのに挨拶して何が悪いってんだよ!」
どうやらこの男たちにとっては、あの会話内容は挨拶レベルだったようだ。
たしかに友人同士や親しい間柄であれば、挨拶と言えないこともないだろう。
その点、いつも周りには自衛隊員しかいない中、ダンジョンという命の危険のある場所に閉じこもって戦っている現状、若干モラルが崩壊していたのかもしれない。
「でもよぉ、突然東京から助っ人がきます、しかもそれは民間人ですとか言われたらよ、まるで俺たちが役に立っていないみたいじゃないかよ!」
「実際の所、俺たちだってあの羊には苦労させられてただろう」
「それでも毎回きちんと倒してたじゃないかよ!」
「けが人を出してだがな」
彼らは確かにこのダンジョンでのトップチームだ。
毎回一定量のダンジョン産のドロップ品を持ち帰り、1回あたりのDP換算額では毎回トップを取ってる。
ただし怪我する事も多く、それらを含めたトータルで見ると決して最優秀とは言い切れない成績だった。
「そういえばさっき聞いたんだけどよ、なんでも羊の対処法、見つかったんだと」
「なんだと、どんな方法だ。誰がその方法とやらを見つけた!」
「武器は何だ?まさか専用の特殊装備を使えばとかいうんじゃないだろうな?」
攻略法が見つかったと聞いて詰め寄る一同。
うち一人は、その方法を早く教えろと言わんばかりの勢いで問い詰め気味だ。
「実は魔法を使えばーとか言い出すんじゃねーの?」
「まぁ、魔法を使うのが楽ではあるらしい。あとは弓だな」
「弓ってお前、いまだライトの魔法が全チームに配られてるわけでもないのに、あの暗い中使えるわけねーだろうが」
そして伝えられた内容が、現状で簡単には行えない内容だったため、落胆している。
「でだ、それはまあ余談なんだが、実際使う武器は槍だそうだ。そして発案者はなんと、あの車椅子に乗っていた女の子だとさ」
「なんだと、槍なら俺も使っているが槍でどうしろっていうんだ?あの角に守られた小さくて硬い頭を狙えってか?」
「それがな、その方法を使えばあの毛に覆われた体にダメージを与えやすくなるんだとよ」
「おい、出し惜しみしないで早くその方法を教えろ」
なかなかその方法を言い出さない事に対し、苛立ちをあらわにする面々だったが
「なんでも、槍の柄部分、毛が絡まる辺りに紙を巻いておくだけだそうだ」
「なんだと、そんな方法であの毛が絡まるのを防げるのか?」
「何も完全に防ぐ必要はないだろう。今より多少でも防げれば、与えられるダメージは全然違う」
その、言われてみればとても簡単な内容に、先ほどまで憤っていた男はというと、どこか小ばかにしたような表情になり
「はんっ、言われてみれば確かそうかもな。でもよ、その位の事なら俺だって思いつくぜ?」
「あぁ、思いつくだろうな。その方法を知った後なら、な」
そう言われた男はというと
「あ、コロンブスの卵……ってやつか」
「そういう事だ」
まさしく発想の転換、コロンブスの卵的発想だと言う事を聞いて、小ばかにしたような表情は鳴りを潜め、代わりに神妙な表情になった。
こうしてダンジョン内で知佳達に絡んだ面々はというと、その後は知佳の思いついた方法を用い、羊相手にも怪我を負うことなく戦う事が出来るようになったそうな。