●その頃の二条家でのGWの予定と倉庫ダンジョン攻略チームと……
◆◇◆ 二条邸談話室 ◆◇◆
知佳達が倉庫ダンジョンで装備を整えている頃、ここ二条邸では……
「それで、みんなピクニックの案は考えたのかい?」
「それなんですけどね、知佳君はやっぱり花見に行きたいんだと思うんですよ」
「でも今年はもう桜は散っただろう?桜じゃない花見は花見と認めないよ!」
いきなり前回知佳が来年でいいと言った花見を言い出した権蔵に対して雪香がバッサリと切り捨てた。
「し、しかしだな、ここはやっぱり大人の威厳を示すためにもだ」
「ない物をどうやって見せるんだよっ!」
「ふっふっふ、開花予想を調べたんだが、北海道の一部では今がちょうど見ごろなんだ!」
何と争っているのか疑問に思うが、どうやら権蔵は近場で済ませる気はなく、まだ桜の咲いている北海道まで花見のために行くつもりのようだ。
「あんた……前からバカだ馬鹿だと思っていたけど、花見のために北海道まで行くだって?いいねそれ!」
と、馬鹿にしてるのか認めているのかよくわからない発言ではあるか、結果としてその発案を好意的に受け取ったようだ。
「だけどねぇ、知佳ちゃんは今ダンジョン探索をやる気になっているし、北海道までってさすがに日帰りはきついだろうさね?」
「しかも北海道まで花見のためだけに行くなんて、知佳さん遠慮して楽しめないんじゃないかしら?」
その話を聞いていた秋江と美雪はというと、知佳が遠慮するのではないかと疑問視しているようだ。
「それなんですけどね、ほら少し前に二条グループ傘下の企業が出資して新しくオープンした温泉のホテルがあるじゃないですか、あそこの視察を兼ねてって事でどうかなと」
どうやら仕事を絡めてついでの家族旅行としてこの案を持ってきたようだ。
こういう所はさすが二条グループの総裁をやっているだけの事はあるのではないだろうか。
「温泉かい、それはいいね」
「知佳さんと一緒にお風呂に入る契機にもなりますし、それはいいですね」
「北海道と言えば牛に羊に海の幸にと食べ物もおいしいしね!」
なにやら全員北海道旅行に前向きになってきているようだが、秋江だけはまだ懐疑的な視線を権蔵に向けている。
「権蔵や、お前さんまだ何か隠してないかえ?」
そういわれた権蔵はと言うと、特に変化はない様子で何もないと答えているが、その隣にいる高志がピクリと動いた。
そんな動きを見逃す面々なはずもなく……
「高志、あんたなんか知ってるね?」
「い、いえ僕は何も……」
「その態度が物語ってるさね、キリキリ吐きなっ」
そう雪香にいわれ、あきらめたのかぽつりぽつりと話し出した。
その内容はと言うと……
どうやら皇居ダンジョンの攻略スピードが速すぎて、情報共有している他国からクレームが入っているらしく、ダンジョン対策チームからもGW中位はどこかへ遊びに行って息抜きをしてはどうかと連絡が入っているようだ。
ただ、問題なのは皇居ダンジョンの最深階層更新スピードなので、もしよければそのついでに他のダンジョンの攻略も少し進めてほしいと言われたらしい。
もちろんその提案は断ったらしいのだが……
「実は各ダンジョンの10階層のボス情報をもらいまして……」
「で、その情報をもらったからなんだっていうんだい?」
その内容とは、北海道の某自衛隊駐屯地近くに出来たダンジョンでは牛のボスモンスターが出るとのこと。
そして、手前の階層では羊が出るそうだ。
実はここで多少問題が発生していて、羊が他のダンジョンの低階層モンスターと比べ強いのだそうな。
というのも、全身もこもこの毛に覆われていて、剣や剣先スコップはもちろん、槍も毛が絡みついて攻撃が通りにくいのだという。
さらにいうと、頭を狙おうにも巻き角があり、かなり危険を伴うとの事。
それで知佳達のチームに入ってもらい、なにがしか攻略方法を見つけて貰えれば大助かりと言われたのだそうだ。
「ふーん。あんた、その攻略よりも肉につられただろう」
「そ、そんな事は……無くもない、ですがね」
「まぁ、行くかどうかは知佳ちゃん次第だねぇ。もっともあの子、食べるのが好きみたいだから、息抜きがてら他のダンジョンで別のお肉を取ってこようって言えば、了解しそうな気もするけどねぇ」
こうして、取り合えず行くかどうかは知佳の判断に任せようとなり、それがだめだった時の別案について話し合われていった……
◆◇◆ 倉庫ダンジョン攻略チーム ◆◇◆
ダンジョンの中に鳴り響く硬いタイヤの走る音。
その発生源はと言うと、キックボードに乗った6人の男たちだった。
「しかし、このキックボードですか、いい案ですね!」
「音がうるさいのが難点だがな。でもすでにマップに記載済みの部分を移動するには効率的だな!」
「なんでも、メインチームでは自転車を使っているらしいですよ?」
その発言を聞いてあきれた様子の男が
「自転車ってお前、さすがに6台も持ち込めないだろう?いや、折り畳み式のやつなら持ち込めないこともないのか?」
「それがマウンテンバイクを持ち込んでいるらしくて、なにがしかのアイテム、よく小説やアニメであるような、見た目以上に物が入るカバンか何かを使っているんじゃないかって、もっぱらの噂です」
「あぁ、そんな物もあるという噂は聞いたな。さすがメインチームって所か、きっといろんな使い勝手のいいアイテムを優先的に回してもらっているんだろうな」
「そのおかげで、俺たちも楽が出来てるんですし、持ちつ持たれつってやつですかね?」
「っと敵だ!」
敵を見つけるなり、キックボードを脇へ放り出し、即戦闘態勢に移るこのチームメンバーもキックボードを使用したダンジョン探索には慣れた様子で、このダンジョン攻略方法はそれなりに成果を出しているようだ。
もっとも、ファンタジー物に詳しいメンバー達には当初邪道だなんだと言われていたのだが、現在ではそのメンバーが率先して使っている点からも、この現実となったダンジョン攻略には今までの空想上の常識にこだわっていてはいけない事が証明された証であろう。
なお、このキックボード案は後にダンジョン対策本部のほうに伝えられ、全国の迷宮階層を攻略しているチームで使われることとなった。