●その後の二条本家談話室と二条冬彦邸と……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ その後の二条本家談話室 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そこには、知佳と沙織を除いた二条家の面々が勢ぞろいしていた
「しかし、今回の件はまいった。まさかこんな事になるなんてな」
「でも、あの子倅が沙織と婚約していると触れ回っているのは、前々から耳には入っていたのだろう?なんでもっと早くに対処しなかったんだい?」
「あんな戯言、だれも本気にしませんよ。……本人以外は」
そう、今回の件についてはまさしく予想だにしなかった結果になり、そのため知佳にまた多大な心労をかけることになってしまった。
しかし、こういう結果が出てしまったからには、子供の戯言と言い捨てるには今回の判断は甘かったという他ない。
そのことを悔やんでも悔やみきれない面々であったが、それでもどこか嬉しそうな雰囲気も出ている。
「そう言う割には嬉しそうでもあるが?」
「そ、そりゃあ、知佳ちゃんにあんなこと言われたら、嬉しくないわけがないさ」
「雨降って地固まる……ってやつかね」
「ただ、こんな事は二度とごめんだね。次からは芽が出そうな予兆が見られた段階で対処していかないとね」
そう言い、今回の騒動の反省会を行っていた。
「それにしても……家で知佳ちゃんを預かっていてそれが妾にするためとは、いったいどういう思考回路をしているのかね彼は」
「やばい薬でもやってるんじゃないかと思える思考回路だよね、現代日本人の考え方とは思えないよ」
「父親も父親だよ、何をどうしたら沙織とあの子倅が結婚すると思えるんだか」
「それについてなんですがね、どうやら父親もそうなってくれればと言う思いと、本家は沙織一人、そして分家でも年の合いそうな男児は彼しかいないから、婿養子の可能性が高いと踏んで期待が高まった結果、子への注意が甘かった感じなんですよね」
「だからと言って、前回ダンジョン関連で注意したときに沙織の件も伝えたんだろう?それなのに期待を持ち続けるってのもねぇ」
そう、以前彼がダンジョンに無断で入りけがをしたと言う事を知佳から聞き、調べた所会社所有の地所に出来ていたダンジョンの存在を会社側にも隠していた事を厳重注意し、同時に沙織とのありもしない婚約話についてもたしなめる様注意していたのだ。
にもかかわらず今回の騒動が起こってしまったのを考えると、前回の時にもっと厳しくしておけばと、今にして思えば後悔しかない。
しかし、沙織との婚約妄想から知佳への妾発言につながるとは、さすがにここにいる誰もが想像だにしていなかったのは仕方ない事であろう。
「まぁ、彼とその家族については絶縁状を回したし、今後は苦労してもらうさ」
「あの母親、会うなり言い訳の一つもせずにひたすら謝罪してきたから、ちょっと可哀そうな気もするがね」
「でもあの子を放置していたという点では変わりありませんよ。謝るくらいならもっと普段からきちんとたしなめていればいいんです!」
と、まともであろう母親に対しても、なかなか辛辣な感想であった。
その後はピクニックにはどこに行こうかなどの話に変わり、夜は更けていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 二条冬彦邸 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「冬弥!貴様ふざけたことをしてくれたそうだな!」
「お、親父、俺は悪くないだろ!妾になることを知ったくらいで気絶する近衛が悪いんだ!」
「馬鹿モーン!その事を言ってるんじゃないっ。前にも言っただろう、学校で沙織お嬢様との婚約の件を言うなって!そもそもお前はお嬢様と婚約などしておらんわっ」
そういわれた冬弥はと言うと、何を言われたのかわからない表情だったが
「わしは、お前に沙織お嬢様と仲良くなれと、将来結婚しろとは言ったが、婚約しているなどと一言も言っておらんわっ。前にもそう言っただろうがっ!」
「で、でも親父、俺が将来沙織お嬢様と結婚するのは決まったことなんだろう?だったら婚約してるって事じゃ……」
「馬鹿モンがっ。二条の血筋で近しい立場の同年代に男児がいないから、順当にいけばお前が相手に選ばれる可能性が高い、だから今のうちからお嬢様の印象を良くして、将来結婚にこぎつけろと、そう言う意味だっ!」
忌々しそうに息子の冬弥を見ながら、そう吐き捨てた。
「そ、そんな……」
「だから私が、何度も何度も婚約なんかしていない、それは違うと言ったじゃないっ。それを冬弥はお父さんに言われたからと言って私の言う事を聞かないし、お父さんにも冬弥の事を注意してくださいって、何度言ってもお前は口出しするなと……」
そう言って泣き崩れる母だったが、泣き崩れるだけでは明日からの生活は成り立たないと思い
「それで、今後どうするのです?絶縁状を出され、会社も実質クビ。これからどうやって暮らして行けばいいのよ……」
「お、親父、会社クビ……なのか?」
「直接クビを言われたわけじゃない。でもな、絶縁状を出された立場で会社に居座っていられるわけがないだろう。仕事は一切回ってこない。役職も取り上げられる。窓際どころの騒ぎじゃないよ」
そう項垂れながら言う冬彦は、普段と比べ10は年老いて見えた。
「それに、二条のお嬢様と近衛のお嬢様への今回の謝罪や慰謝料、どうするのです?」
「い、慰謝料って、そんな大げさな……」
「馬鹿モンが!まだ中学生の、しかも二条の直孫相手にありもしない婚約話を周りに吹聴し、しかももう一人には妾になるんだなどと暴言を吐いたんだ、頭を下げるだけで済むわけないだろうがっ!」
そう言っている冬彦だが、自分も知佳のことを庶子だの将来の駒だの言ったことは忘れているようだ……
「いくら位かかるの?弁護士の先生にお願いした方が良いのかしら?」
「その弁護士もな、引き受けてくれるかどうか……まぁ、本家への謝罪のためと言う理由なら受けてもらえるかもしれんが、向こう寄りの判断しかしてくれんだろうな」
そう言った冬彦は苦虫をかみつぶした様な表情をしているが、しかし弁護士の仲介なしに決められる内容でもないため、腹をくくって弁護士を頼む心算のようだ。
「そ、そうすると俺、いまの学校はどうなるの?学費払えるの?」
「そんなの、今の学校はやめるしかないだろう。おまえ、今のまま通い続けても誰も相手にしてくれないぞ?しかももうあの学校に通わせる金の余裕もないしな」
それを聞いた冬弥はと言うと、ここに来てやっと自分のしでかした事の重大さを悟り、絶望した表情のまま膝から崩れ落ち泣き始めたのだった。
それを忌々しそうに見ている冬彦だが、そんな冬彦もまた妻に忌々しそうに見られており、冬彦邸のこの日のダイニングは混沌の場と化していた。
なお、冬彦の妻であり冬弥の母はと言うと、今回の騒動で離婚も考えてはみたが、実家に戻っても迷惑をかけるだけだと理解しており、こちらも進退窮まった状態であった。
用語解説
今回出てきた直孫は、直系の孫と言う意味で使わせていただきました。