●その頃の二条本社会長室と……
誤字報告有難うございます
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 二条本社会長室 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ここには、会長でありこの部屋の主である二条権蔵と、その息子で代表取締役の二条高志、そしてそれぞれの第一秘書の計4人だけがいた。
「して、お義父さん。奴の息子がまたやらかしたって本当ですか?」
そう言った高志の顔には、あきれたといった表情が浮かんでおり、それに対応する権蔵の表情はというと、怒りの感情があらわになっていた。
「あぁ、先ほど移動中の榊君から連絡があってな。なにやらあの小倅は、将来沙織と結婚して本家を乗っ取り、あまつさえ知佳ちゃんも妾にすると学校でほざいたそうだ」
「な、なんて事を……まさか、知佳君に私たちがそれを仕組んだと思われたりは……」
「その可能性は……あるだろうな」
そういった権蔵は、悲痛な顔をしてどうしたもんかと知佳へ対する今後の対応に頭を悩ませ、高志もまた最近やっと知佳がびくついたりすることなく、自然な笑みを見せてくれていたのに逆戻りかと、知佳の気持ちを考えると頭の痛くなる思いだった。
「穂香君、至急二条物流配車部門の、二条冬彦部長をここに呼び出してくれ」
それを聞いた会長第一秘書の穂香はというと
「ここに……でございますか?」
「あぁ、いや第三会議室で良いか」
それを聞いた穂香は電話をかけ、大至急第三会議室へ来るようにと相手方に伝えた。
また、それと同時に高志の秘書もまた別のどこかに電話していた。
その後4人は会議室に移動したが、そこにはすでに一人の男が入り口横に立っており、それを見た高志は
「服部君じゃないか、どうかしたかね?」
と問いかけたが、これが返事だとばかりに服部から封筒に入った書類のようなものを渡された。
服部はそれを渡すと即座に立ち去って行ったのだが、その中を見て高志は納得した表情で
「お義父さん、服部君がこれを……」
それはどうやら二条冬彦の業務成績表のようで、その内容を見た二人はというと、あきれるしかないといった表情であった。
「これなら、切っても何も問題は無いな」
「ですね、成績がよほど良ければ海外の僻地に飛ばすくらいでとも思っていましたが……」
「そもそも、あいつに二条の血は入っておらんしな。以前から奴の子倅が沙織の婚約者などという世迷いごとを言いふらしておったようだし、あまつさえ知佳ちゃんを妾になどと……」
「いっその事あいつらまとめて知佳ちゃんのダンジョンに放り込んで始末しますか?連れ込むところを見られなければ何とでもなりますよ?」
「それはそれでな、神からのお達しもあるし、なにより知佳ちゃんのダンジョンにあんな奴の血を吸わせるのもな……まぁ、絶縁状を回すだけでいいだろ。この案件ならご隠居も文句は言うまい」
なお、ここで出てきた絶縁状とは、一族や関連グループのみならず、取引のある全ての関連企業やその配下企業、および交流のある他家、敵対派閥や敵対企業へも、その対象となる人物および家族とは当家は一切の縁を切り、今後関わりを全て断ちます。ですのでその者たちが何か事を起こしても過去にさかのぼって一切関与しません。という通知である。
ある意味社会人にとって死刑宣告ともいえる物であり、これを出されたものはそれ以降まともに職に就くことはできないとされている。
その後は二条冬彦が来るまで秘書達にも助言をもらいつつ、いかにして知佳の心のケアを行うかに頭を悩ませること30分ほどすると
「会長、二条部長がお見えです」
「通せ」
そう言って通されたのは、年の頃は40代前半だろうか?髪はふさふさだが、多少長めでまとまりがなくどこか脂ぎっていて、体つきはというと、不摂生なのか体質なのか、かなりダボついて見える。
「会長、お呼びとの事ですが、何かありましたでしょうか?」
そう言った二条冬彦は、ニコニコ……というには厭らしい笑みを浮かべ、揉み手でも始めかねない雰囲気でそう権蔵に問いかけた。
「君には先日、息子の冬也君に対して注意するよう申し付けたはずだな?」
その第一声を聞いた冬彦はというと
「その件につきましては、息子には十分注意し、今後二度とダンジョンに勝手に行くなと……」
「その件じゃないっ!」
その発言内容に、高志は怒りと共に相手の発言を途中で遮り、怒鳴り散らかすように
「貴様の息子が、学校でうちの娘と婚約しているとほざいている件だ!貴様は子供に何を吹き込んでいるっ」
それを聞いた冬彦は苦虫をかみつぶしたような表情になり、目を彷徨わせながら
「そ、それに関しても、私は息子をきちんと注意して、そういう事はお互いの気持ちが高まってからと……」
その一見正当な、しかしどこか論点の違う発言内容に、権蔵も高志も怒りゲージが高まっていくが、そこを何とか抑え込み
「先ほど連絡があり、君の息子が今日も教室で沙織と将来結婚すると公言したそうだ」
それを聞くと、冬彦は顔をしかめ
「ま、またですか。家に帰ったら叱っておきますので……しかし、子供の言いだしたことですしここはひとつ……」
と、その言い訳にもなっていない言い訳を、額に噴きだした汗をハンカチでふき取りつつしていたが、その発言をまたも途中で遮り
「しかもだ。うちで預かっている子を、なぜか君の息子は私たちが妾にするために預かっていると公言してなあ……」
と権蔵は汚物でも見るかのような目線で見ながら伝え
「一体君は家で子供にどういう教育をしているのかね?こんな事ではこちらとしても取り得る対応が限られてくるんだが?」
とその不穏な高志の発言に冬彦は焦りを見せ
「そんな、子供のしたことでお二方がそこまで気を遣わなくとも……そ、それに家の冬也は二条の血を引いていますが、それに引き換え近衛とかいう小娘はどうせ京都の近衛家の庶子か何かなのでしょう?そんな他所の、ましてや将来駒にするための小娘一人の事で……」
「ふざけるなっ!知佳ちゃんが京都近衛家の庶子だと?それを我々が良い様に利用しようとしているだと?寝言は寝てからいえっ!」
「知佳君は正式な二条本家の血筋ですよ?二条の血が一滴も入っていない君や君の息子と違ってね?」
そのセリフを聞いた冬彦は、ハトが豆鉄砲を食らったかのような表情になり
「わたしに二条の血が……入っていない……ですと?」
「なんだ、知らなかったのか?」
「君の家を興したのは、確かに私の伯母だがね。君にはその伯母の血は一滴も流れていないのは有名な話だが?」
それを聞いて顔を青くしながらも
「そ、そんなはずはない。俺は祖父の正式な孫で……」
「そうだな、だが君は二条家が女系だと知らないわけでもあるまい?」
そう、二条家は長い歴史を持つ家で、さかのぼれば平安時代から続く家だが、実は生まれてくる子はなぜかほぼ100%女性で、男子が生まれることはない。
そして、この分家筋に当たる二条冬彦という男は、分家の初代の婿養子である男の妾の孫で、二条の血は一滴も流れていない。
なお余談ではあるが、二条の血を受け継いだ子はその当時生まれたのだが、その後の戦争で亡くなってしまい、その後二条本家の血の入った子は一人もその分家には存在していない。
「そ、そんな……それじゃ本当に俺には二条の血が……冬弥が本家に婿養子に入るという夢は……」
「やはりお前が息子にいらんことを吹き込んで、ありもしない夢を見ていたのだな」
その失言に二条部長はしまったといった顔になったが、続く権蔵のセリフを聞いて膝から崩れ落ちることとなった
「貴様には本日付で絶縁状を出す。これは二条ホールディングの会長としてではなく、二条グループの総裁としてのものだ。心して受け取れっ!」
その後、二条部長は警備員に両腕を抱えるように引きずられていったのだった。