●その頃の二条本家談話室では……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 二条家談話室 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時間は少し戻り、知佳が女生徒たちとGWの話をしている頃、ここ談話室では昼食後のティータイムとして、二条家の三人と、玲子達4人の計7人が集まり、今後についての話し合いをしていた。
「それで、皆に聞いておきたいのだけれど、皇居ダンジョンはこのままいくといつ頃に攻略できそうかしら?」
そう聞いたのは沙織の母親である美雪だった。
それに対し、玲子達の回答はというと
「申し訳ありませんが、現在全く目途が立っておりません。その最たる理由は、これは皇居ダンジョンに限らずですが全部で何階層あるのかが不明なためです」
それを聞いて、その内容に納得したような顔になるが、しかし感情的にはそれで納得できず若干の焦りをにじませ
「そう、そうよね。……でも知佳さんが一度クリアしているわけですし、そこからの予想はつかないの?」
「予想……ですか?では、あくまで予想という点で言うと、全100階層というのが一つの可能性ですね」
それを聞いて、二条家の三人は多少衝撃を受けたのか
「100階……そんなに……」
と誰かが言った。しかし、それに続けるように玲子が
「ただ、この予想はあくまでも知佳ちゃんのカルマ値を見ての判断であって、あれが100階層に到達した数値なのか、ダンジョンクリアボーナス的な数値なのかが分からない現状、それが正しいかどうかは判りません」
そう見解を述べると、皆納得したようだが、そこで榊がさらなる見解として
「しかし、現在の階層を見るに50階以下と言う事は無いと思われます」
と言い出した。それを聞いた秋絵はというと疑問をあらわに
「その根拠はどこにあるのかえ?」
「知佳ちゃんから借りた装備などの強さを見るに、25階層までに出てくる敵では雑魚もいい所です。これはあくまでゲームに当てはめた場合の見解ですが、あの装備はもっとずっと先の敵を視野に入れた強さです」
それを聞いて榊の隣に座っている楓もうなずいているのを見るに、ゲーム基準の強さで言うとそういう事なのだろう。
「だけど、ダンジョンが出来たとはいえ、あくまでもここは現実。ゲームを基準に物事を考えるのはどうなんだい?」
雪香がその考察が、ゲームという日現実世界を基にしていることに苦言を言うが
「ですが、ダンジョンについての様々な点を見ても、地球の意思がゲームのシステムを参考にダンジョンを作っていると見るのが妥当かと思います」
「私もそう思った方が良いかと。もっとも、ゲームと違って死んだらそれで終わりですが」
この中でゲームに詳しい二人にそう言われ、その考えもあながち的外れではないと、この場にいる他の面々もその内容に納得する様子を見せた。
「そうすると、その装備の強さを基準にダンジョンの最深階層を逆算した場合、何階層位ありそうなんだい?」
「不明です」
そう悪びれもなく言う楓に、三人は面食らった表情になるが……
「ここまでの敵は弱すぎて基準にならないのです。ただ、いくら深くとも200は行かないのではないか……と思います」
「その根拠は?」
「今までの敵が強化されるペース、それを基準として今後敵が強くなった時、200階層だとあの装備では太刀打ちできない。それに、200階層だと世界中合わせても100ものダンジョンを5年でクリアできるとは思えない」
ここで楓は地球の意思の言った、先行踏破100ダンジョンに対するセーフティダンジョンを持ち出した。
「なるほど。セーフダンジョンが100までということは、少なくとも100以上のダンジョンがクリアされる予定である……と」
「たしかに。100以上のダンジョンをクリア出来ると見込んで、あの数値にしたと……。出来もしない数を上限にするほど、地球の意思とやらの意地が悪いとは思えないしね」
「そして現状だと、この先急激に敵が強くなったりしない限りは、50階層までと言う事もまたあり得ない……と」
「その通り。その辺を考え、キリのいい数字というのも考慮すると、100階層が一番可能性が高いかと思います」
たしかに、現状の攻略スピードと、敵の強化される度合を考えると、ダンジョンの最深階層が50階層だった場合、知佳達のPTであれば本気になれば1週間でクリアできてしまう可能性がある。
知佳達の次に進んでいるアメリカチームも、こちらからの情報をある程度渡していれば、初回クリアにそれほど時間はかからないだろう。せいぜいかかっても数か月か……
そしてその後は装備も整い、レベルも上がって強くなったPTにどんどんと攻略されていくことを考えると、50階層で終わりと言う事は確かに可能性が低いと言わざるを得ない。
ここにいるメンバー其々(それぞれ)がそれらの考えに至り、そうなるとやはり100階層前後が妥当だろうと言う事で話はまとまった。
さて、そうなると今度はその100階層をクリアするのに、どれくらいの期間がかかるかの予想になるのだが……
「今までの傾向から、5階層から10階層毎にフィールドや敵の傾向が変わっているので何とも……」
「そうですね。ただ、知佳ちゃんの能力をフルに活用し、皆の装備も知佳ちゃんにお願いして可能な限り良い物にすると前提した場合、もうしばらくは1日に数階層、途中から1日に1階層行けるかどうか……といったところでしょうか?もっとも、最後のほうの階層ではそう上手く行かないかもしれませんが……」
そこで何やら思案していた雪香がおもむろに
「となると、ほぼ毎日朝から晩までダンジョンに行ったとして、早くても二カ月以上、休養日も考慮に入れるとなると三~四カ月って所かい?」
「知佳ちゃんと沙織お嬢様が学校に行くことを考えると、もっとかかると思った方が良いかと思いますが?」
そう榊が見解を述べると、おもむろに美雪がこう言いだした。
「ちなみに、知佳さん抜きでダンジョンに行くと考えた場合……、これは沙織に学校を休ませると言う事を考えた場合だけれど、その攻略スピードで行ける?」
「知佳ちゃんをチームから外すんですか?」
その発言に玲子は少し怒りをにじませるが、その怒りを抑え込むように雪香が話を続け
「いや、あくまでも仮定の話さ。知佳ちゃんにまで学校を長期間休ませるのは……ね」
それを聞き、玲子はこの三人の考えを察したが、効率的なダンジョン攻略には知佳は外せない要因なのだ。
なので、その点を説明する。
「はっきり申しますと、装備に関しては現状のまま借りてという前提でも、知佳ちゃんがPTにいない場合、ダンジョンに行く時間を倍にしても攻略速度は落ちるでしょうね」
「そこまでかい?」
「知佳ちゃんのスキルは色々と役に立ちますが、その中でも出口の方向が分かるという能力が、ダンジョン探索を進めるにあたって効果的すぎますので」
「そうか、初めての階層だとどっちに出口があるかわからない、その方向が分かるだけでも全然違う……か」
「もっとも、ほかにも……」
……と、ここで玲子のスマホが鳴りだし、その着信音が沙織からの着信である事を伝えていた。
「あれ?沙織さんからだ。まだ迎えには早いよね、何かあったのかな?」
「なんでしょうね。放課後の予定が変わったとか?ほら、お友達とおしゃべりする予定ができたとか……」
そう言う美雪に対して玲子は少し首を傾げ、皆に一言断ってからスマホに出ると
「玲子さん、知佳さんが、知佳さんが大変なんです!すぐに学校に迎えに来てください!」
スマホ越しからも聞こえる沙織の焦った発言内容に、そこにいた面々は急いで出かけるべく最低限の身だしなみを整えるために退席したが、玲子はそのまま玄関に向かいつつ沙織から詳しい事情を聴いていた。
そして聞いた内容はというと、クラスメイトの一人である二条 冬弥なる人物が、何やら知佳ちゃんに「お前は将来俺の妾になるんだ」と言い、それを聞いた知佳ちゃんが悲鳴を上げた後気絶したのだとか。
それを聞いた玲子は怒りからつい手に力が入り、スマホを握り潰しそうになったがすんでの所でとどまり、すぐに迎えに行くので保健室で知佳ちゃんを休ませるよう沙織に指示を出した。
また、知佳の視界に絶対に男性を入れないよう、重ねて指示を出した。
その後、葵が玄関前に車を回してきたので急いで乗り込むと、その後に続いて楓以外の皆も乗り、移動しながら沙織から聞いた話をみんなに説明した。
なおこの時、一台では帰りが困るだろうと言う事で、楓は沙織用の車で着いて行くことにしたようだ。