エリクサーを使いますか? Yes/No (改訂版)
「そうだ、エリクサーだ!」
そう、私が探し求めていたエリクサー、あれならきっと沙織さんの病気も治してくれるはず!
そう思ったのですが、なぜか皆さんは気まずそうな雰囲気……どうしたのでしょう?
「知佳ちゃん……実はね、主治医の先生に治す方法がないか聞いてみた時にね、最初は無いと言われたのよ。ただ、ダンジョンというファンタジーなものができた今なら、ゲームなんかに出てくるエリクサーがもし存在するのなら、治せるんじゃないかって……」
「え?みんなそれを知ってたの?それならエリクサーを探そう?それで沙織さんの病気、治そう?」
そう私がいうと、それぞれがそれぞれの顔を見合わせたかと思うと、おもむろに皆が私にむかって頭を下げてきて
「知佳君、どうかこの通りだ。もしエリクサーが見つかったら、先に沙織に使わせてもらえないだろうかっ、お願いだっ」
「「「お願いしますっ」」」
高志伯父さんがそう言った後、他の皆も私に対してお願いしてきました。
なんでしょう?ちょっと私にはみんなが何を言っているのか理解が追い付きません。
「え?みんなちょっと何してるの?沙織さんが病気になっちゃったんだから、沙織さんに先に使うのは当たり前でしょ!なんですぐ沙織さんに先にって、言ってくれないの?」
そう私が言うとみんなちょっと驚いた顔をしていますが、私はちょっと怒り気味に
「私の足が動く様になるのと、沙織さんの病気が治ること、どっちが大事かなんて、比べるべくもなく沙織さんの病気を治すほうが大事でしょ!」
そう大声で、少し怒り気味に伝えるとみんなばつが悪そうな顔をしたかと思うと
「で、でもね知佳君。エリクサーは、それこそ君の悲願だったじゃないか。それこそ初回報酬で神に頼むほどに……それを後から沙織が病気になったから、先に使わせてくれっていうのは……」
「そうそう、さすがに図々しいかと思って、なかなか言い出せなくて……」
「現状だと症状の悪化が見られないから、当面はその事を知佳ちゃんに伝えずにおいて、悪化する傾向が見えたら沙織に先に使わせてくれって、知佳ちゃんにお願いしようと……」
みんな、私の足の事も考えてくれるのは判るし嬉しいけど、けど……
「そんなの……私の足は、このままでも今までと変わらずに、これからも暮らして行けるのっ。ううん、皆が、沙織さんがいてくれるから、今までよりもずっと楽しく、幸せに暮らせてるっ。でも沙織さんは、いくら今は安定していても、この先いつ何があって、きゅ、急に、悪化して、し……死んじゃうかも、しれないのに……そっちを後回し……なんてそんなの、ありえない……よ」
私は、何とか涙が溢れ出るのをこらえてそう言い切りました
「知佳君、そこまで沙織の事を……」
「で、でもね知佳ちゃん。知佳ちゃんのスキルで沙織の症状は安定しているわけだし、それならしばらくは様子見でもという話に……ね?」
「そうそう、知佳ちゃんはそれこそ子供の頃から事故のせいで色々大変な思いや嫌な思いをしているから……その、言い出しにくくて……」
などと言ってきますが、そんなことはどうでもいいのです
「わたし、沙織さんの病気が治るなら、もう片方の足も動かなくなってもいいと思ってるの。そのくらい沙織さんには病気が治ってほしいの!沙織さんに……いなくなってほしく……ないのっ。私はもう……もうこれ以上、大事な……人を、家族を……亡くしたく……ないの……」
そこまで何とか言い切って、でも限界で、涙が溢れ出してきて……そうしていると、横から誰かが抱きついてきて
「知佳さん、そこまで私の事を……ありがとう、ありがとう……」
声からするに沙織さんのようで、沙織さんも泣いているようです。
こうして、エリクサーが出たらまず沙織さんの病気を治す!と言う事でまとまりました。
その後、私と沙織さんが落ち着くのを待って今後の当面の話となり、その内容はというと……
私と沙織さんが極力一緒にいられるようにするため、それぞれ個室は持つが寝るときは一緒。
基本行動として私は自由に動き、沙織さんが私の行動に合わせる。ただし、どうしても外せない沙織さんの予定なんかがある場合は、私が沙織さんに合わせる。
これについては私と沙織さんの間でひと悶着あったのですが、沙織さんのために私の行動を制限するのはよくないと周りから諭され、了承することになりました。
そして私の今後の行動として、治療に関するスキルのうち、常時発動できるものはなるべく範囲を広めたうえで、もしくは沙織さんを範囲内に収めるように広げておく。
その中で、スキルの聖域や状態異常回復を食事及び寝る前に、ヒールはこまめに掛けてほしいとお願いされました。
さらには、学校でも一緒に行動する理由を増やすため、私に学校で車椅子を利用してもらえないか?と提案されました。
たしかに学校でも車椅子を利用するようにすれば、沙織さんに押してもらうという理由で常に一緒にいられますね。
そして車椅子を利用する理由として、以前学校の廊下で他の人が松葉杖に足を引っかけ転んでしまった事を理由にすれば許可は取れるだろうと言う事でした。
ただ、現状松葉杖でも注目を浴びているだろうに、そこで車椅子となると更なる注目を浴びてしまうので申し訳ないがとまたまた謝られたのですが、そんなことは些細な事なので二つ返事で了承しておきました。
しかし、寝るときも一緒?ということは、寝るときのベットも、同じ……?
「さ、沙織さんと一緒のお布団で……寝る……」
それを思い浮かべると、なぜか顔が赤く……
「なーに照れてるのよ、私とはよく一緒に寝てるじゃない。それとも何?私とは平気で、沙織さんだとダメなの?」
と、ここで玲子さんがからかってきました。確かに何かあるとよく玲子さんに一緒に寝てもらっていましたが、それとこれとはまた別だと思うのよ?
でもここで沙織さんに悲しそうな顔で
「知佳さんは、私と一緒に寝るのは嫌?」
なーんて言われちゃうと、恥ずかしいなんて言ってられないよね?
「そ、そんなことないよ、ちょっと恥ずかしいかなって思っただけで……」
「それでは、不束者ですが、今晩からよろしくお願いしますね」
と、とてもいい笑顔で言われてしまいました。しかもなぜかほほを染めて……
「しかしあれだな、沙織は知佳君が来てから表情が豊かになったな」
「そうね、感情も以前より出すようになっているし、むしろ病気のせいで感情豊かになったんじゃないかって思うくらいよ?」
「それもこれも知佳君のおかげだな!君になら安心して沙織を任せられる、沙織の事、頼んだよ!」
「そうね、知佳ちゃんになら任せられ……知佳ちゃんを任せるの方が正しいのかしらね?これは」
などと、周りから更にからかわれたりもしましたが、おかげで先ほどまでの暗い雰囲気もどこかへ行き、皆さん明るくなったようなのでこれで良いのかな?
あとはあれですね、間に合うかどうかわからないけれど、これからは錬金術……特にポーション作成に力を入れて、エリクサーがなかなかドロップしなくても自分で作れる様になれば安心ですね!
そのほかにも、鑑定のレベル上げや治療系スキルのレベル上げなんかも、可能な限りやっていきたいですね!
スキルのレベル上げ……どうやるのが良いんだろう?あとで楓さんや榊さんに相談すればいいかな?
そうそう、先ほどの薬の件ですが、結局万能薬上級は沙織さんに飲んでもらう事になりました。
実はね、この薬も頑張って鑑定をかけた結果、ある程度その効果内容が見えたのですが、その内容を見るに今回の沙織さんの病気は治らなさそうなんですよね。
でも、そのことを伝えた上で、一縷の望みにかけて沙織さんには使ってもらう事になりました。
みんなは鑑定の結果でダメなら使うのはもったいないと言うのですが、現在の症状がどのくらいまで進んでいるのかも判らないし、病気自体は治らなくても多少でも症状が緩和できるなら、使う価値はあると思うの。
そう熱弁した所、それならと私の意見を取り入れてくれた結果でした。
その時の皆の安心したような表情を見るに、やっぱり少しでも良くなる、少しでも治る可能性があるのなら何でも使いたいと思うよね!
しかし、実際に使うのは今すぐという訳ではなく、病院で検査をしつつ飲むのが良いのではと言う事になり、明日もう一度沙織さんは病院へ行き、検査をしつつ飲んで効果が出るかどうか確認するそうです。
そのうえで何らかの効果が出れば、今後同じ病気になった人にもその薬を飲ませることによって、治せる、または完治まで行かなくても症状の緩和が見込める可能性が出るので、医学の発展のために必要な事なんだそうです。
こんな感じで今日の話はまとまり、これからは今まで以上に沙織さんとべったりな生活が始まる事が決定しました!
実際今回のお話でエリクサーの現物が出てきている訳ではないので、当初のタイトル(途中から副題)の『エリクサーを使いますか? Yes/No』をサブタイトルに持ってくるのは悩んだのですが、使うならこのお話かな?と思い使いました。
皆様の応援のおかげで、無事当初のタイトルは回収出来ましたが、お話はまだまだ続きます!
知佳達の冒険はこれからだ!