私のせいですか?いいえ、ちがいます
安全運転、かつ急ぐという葵さんの器用な運転で無事お家に帰ってきました!
すると、途中で玲子さんが連絡していたので玄関でのお出迎えがあったのですが、なんと沙織さんも無事な姿でお出迎えしてくれました!
「さ、沙織さん。休んでなくて大丈夫なの?」
「うふふ、知佳さんお帰りなさい。こうしてお出迎えするのは初めてね、なんか新鮮な気分だわ」
などと、どこかずれた発言をしてくれますが、その顔には特に疲れなどは見られず、確かにいつも通りの沙織さんに見えますね?
もしかして病気というのはやっぱり私の鑑定ミスだったのでしょうか?
そしてとりあえずご飯を食べちゃおうと食堂に移動し、昨日取ってきた豚肉を使ったお料理です。
今日はね、何でも味噌漬け焼きという料理だそうで、大変美味しくいただけました!
美味しくいただけたのですが、沙織さんの体の事が気になっていつもほどの感動はありません。料理人の方ごめんなさい……
その後談話室に移動してダンジョンの到達階層だけ報告し、その後沙織さんの体の事についてのお話になりました。
そこで話された内容はというと……
結局のところ、検査の結果沙織さんは急性脳髄性白血病で間違いはないそうです。
ですが、発症からすでに一月以上たっているはずなのに、症状的にはごくごく初期のもの。
そしてここからが肝なのですが
「問題は、なぜ症状が悪化していないのか……なんだ」
「原因とかは何かわからないのですか?過去にもそういう人がいたとか」
「それが、思い当たることと言えば発症後にダンジョンができた以外、これといって心当たりはないんだよ」
それを聞いたみんなはなぜか私のほうを見ますが……
はっ、ダンジョンができたと言う事は、私がこのお家にお世話になるようになったタイミングとほぼ一緒……つまり私が沙織さんが病気になった原因!?
「も、もしかして私がこのお家に来たから沙織さんが病気に……」
そういうと、美雪伯母さんが慌てて
「ち、違うのよ知佳さん。いえ、確かに知佳さんがうちに来たから、沙織は今この状態なのだけど……」
「や、やっぱり私のせいで……」
私がこのお家に来たせいで沙織さんが病気に、そう思うと涙が……
そう思っていると、突然お婆様が美雪伯母さまを怒鳴りつけ
「美雪はちょっと黙ってな!知佳ちゃんいいかい、沙織が発病したのは知佳ちゃんが来る前だ、それはいいね?」
そういえばそう言っていた気も……ただ、それを聞いても私はうなずくことしかできずにいると
「でだ、普通ならもっと症状が進行していておかしくないんだよ。それが今の沙織は発病したてと変わらない状態。これの原因が知佳ちゃんにあるんじゃないかって、美雪はそう言いたいんだよ」
「え?」
えっと、どういう事でしょう?私が来たから、症状が進行していない……と言う事?
「まあ、まだあくまでも可能性としての話なんだけど。予想としては原因が二つあって、一つはレベルが上がることによってHPや耐久力が上がり、病気に対する体の許容量が増えたため、比率的に見てそれほど進行していないように見える可能性」
と指を一本立ててお婆様が説明すると、その後を継ぐように高志伯父さんがこちらも指を一本立てて
「そしてもう一つは……知佳君はスキルを色々と持っているだろう?それらが良い方向に影響して沙織の症状をとどめている。もしくは悪化しては治してを繰り返している可能性がある。そして我々は、知佳君のスキルが本命じゃないかと……にらんでるんだ」
そしてそれらを締めくくるかのように曾お婆ちゃんが
「だからどちらにしろ、知佳ちゃんが来てくれたおかげで発病後一月以上経っても病状が進行することも悪化することもなく、今もこうして元気にしていられると言う事なんだよ」
ん?私のスキル?スキルが沙織さんを?
「えっと……どういう事?」
そこで更に詳しく説明されたのは、私のスキル砦の範囲内で安静にしているとHP等が回復するとか、ダンジョン内でのヒールだとか、それらが病気で壊された沙織さんの細胞やらなにやらを治していて、その結果症状が進んでいない、または進んでいても軽くなっているのでは?となったそうです。
「そして後者……つまり知佳ちゃんのスキルのおかげじゃないか?とにらんでいる理由として、以前楓君が蜂のモンスターの毒を受けたことがあっただろう?」
その説明はというと、他のレベルの低い人たちと楓さんの毒状態になった時の症状があまり変わらない。
なのでHPがいくらあっても、状態異常時に受けるその症状はあまり変わらないのではないか?という見込みなんだそうです。
もっとも、HPが減るタイプの状態異常の場合は、その状態異常によるダメージが一定量と決まっているのなら、HPが多いほうが生存率は上がるだろうとのこと。
その違いは何かというと、ダメージを与える、HPに影響する状態異常かどうか……が判断基準になるのだとか。
この意見については、二条グループのダンジョン対策チームにいるゲームに詳しい人達による見解らしく、お爺ちゃん達もその理論的な原理とかは判らないらしいのですが、そういうものなんだそうです。
もっとも、あくまでも現時点での予想のため、今後の調査が必要との事でしたが……
そして、それを聞いていた楓さんや榊さんも納得しているところを見るに、そういうものなのでしょうかね?
「そ、それじゃもしかして、これから先も私が沙織さんの側にずっといれば、沙織さんは病気が治るかもしれない?」
「それについてはね、もしかしたら治るかもしれないし、治らないかもしれない。……けど、現状での予想としては、病気自体は治せないと予想している。もし治るならとっくに治っていてもいいはずだからね」
「そっか……」
でも、今までを思い返すと、車での移動こそいつもすぐ側にいたけれど、それ以外はスキルの範囲内にいたかというと、そうでもなかったんだよね。
なのでずっと側にいれば治るんじゃないかと思い、そのことを伝えてみました。
「で、でも今までは常に側にいたわけじゃないし、もしかしたらずっと側にいれば治るかも……」
「まあ、あくまでも可能性の話だけれど、無いわけじゃないね」
「それじゃあ……」
そこまでいうと、お婆様はとても申し訳なさそうな顔をして
「それでね、これから言う事は知佳ちゃんに負担をかけることになるのだけれど、現状では病気が完治しないまでも症状の緩和が出来ている事はほぼ確定なんだ。それで、今後は可能な範囲で良いから、沙織を側にいさせてほしいんだ。……お願い出来ないかい?」
そうお婆様が言うと、他の皆も真剣な顔をして私を見た後、お願いしますと言って私に頭を下げてきました。
その姿を見てちょっとパニックを起こしかけましたが
「そ、そんな。みんな頭をあげて!私に出来る事なら何でもするから、それで沙織さんが助かるなら……なんでも……する、から……」
その時私は、風邪をこじらせて死んじゃった近衛のお婆ちゃんが頭に浮かび、あの時私はお婆ちゃんに大した事をしてあげられなかったのを思い出し、お婆ちゃんと沙織さんを重ねてしまい自然と涙が出てきてしまいました。
「そういえば……」
ここでふと、今朝の車の中での話を思い出し、皆に伝えることにしました。
「わたし、以前のダンジョンクリアの報酬でいろいろな薬を持ってるんです!もしかしたらそれで沙織さんの病気、治るかもしれない!」
そしてどのような薬を持っているのかを伝えたところ、HPポーションは先ほどの話から完治させるのとは違うだろうとなり、毒消しも違う、浄化ポーションは……可能性あり?
そして一番可能性がありそうなのは万能薬だろうという話になりました。
なったのですが、HPポーションは特級があるのに、万能薬は上級しか持っていない、その上一つしかないという点を考えると、万能薬自体がとてつもなくレアな存在なのではないかと言う事になり、沙織さんも他の皆も沙織さんに使う事を遠慮したのですが……
「たとえ効かなかったとしても、試してみる価値はあると思うの!もしこれで沙織さんの病気が治れば万々歳だし、たとえ治らなくてもそれ以上のものを探せばいいわけで、それこそ特級やエリクサーなんか……エリクサー……そうだ、エリクサーだ!」