●そのころの二条本家談話室では……
秋江:知佳の曾お婆ちゃん
権蔵:お爺ちゃん
雪香:お婆ちゃん
高志:伯父
美雪:伯母
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 二条本家談話室 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
知佳、沙織、そしてお風呂のサポートをするために玲子が去った後のその場では、本日車に取り付けられた発信機について話し合われていた。
「それで、発信機を付けた相手は判ったのかえ?」
「確認した所、やはりダンジョン対策チームの一部の暴走のようですね」
それを聞いた二条グループの総帥であり、知佳の祖父である権蔵は呆れた雰囲気をあらわにした。
「前に東京担当のトップに対してくぎを刺したっていうのにまたか……」
「して、それに対する言い訳のほどは?また下の暴走でしたで首挿げ替えて終わらせるつもりなんでしょうかね?」
そう、以前も知佳達にやらかしたダンジョン対策チームだが、あの時はやらかした本人である東京地区総指揮官の首を挿げ替えて終わったのだ。
もちろん、いろいろと追加で条件を引き出したりもしたのだが……
「なんでも、今日の午後から倉庫ダンジョンに行くのが分かったため、その場所を突き止め、あわよくば自分たちにもそちらを開放させようって魂胆だったらしいよ?こちら側の何らかの瑕疵や問題点を見つけ、それを交渉材料にしたかったんだそうな」
「倉庫ダンジョンを開放させるって、他のダンジョンですら対処しきれていないだろうに……今セーフダンジョンになったあそこにかまってる暇はないと思うんだけどね?」
「なんでも、知佳ちゃんたちの快進撃の理由が倉庫ダンジョンにあって、やれレベルが上がりやすいだの、やれDPが稼ぎやすいだのとありもしない噂があるんで、それの検証をしたいというのも理由に挙げてきたそうです」
そんな根も葉もない噂が立っているのかと皆あきれていたが、確かに政府側の人間を完全にシャットアウトしている現状、そういう噂が出た場合止めようがないのも事実だった。
そしてそれを聞いた雪香はというと、何やら考え込み
「ふむ……いっその事、そろそろ総理の方に倉庫ダンジョンの場所を教えてやるのも一つの手かね」
「え?お母様、あそこは知佳さんのですよ?それを渡しちゃうんですか?」
「美雪さん、話は最後まで聞きな。それに渡すなんて言ってないよ、あそこはすでに知佳ちゃんの物っていうのは総理からも確約をもらっているからね。あくまで場所を教えてやるだけさ」
それを聞いた美雪は、先走った先ほどの発言を恥ずかしがり
「そ、そうでした……」
「で、だ。ちょうど知佳ちゃんが自転車の持ち運びの件で困ってただろ?ちょうどいい機会だ、交換条件に知佳ちゃんの異次元バッグの所持許可を取り付けようじゃないか」
「あぁ、その件がありましたね」
と納得顔の権蔵とは裏腹に、高志はというと……
「え?でもそうすると他にも無いのか?あったら寄越せって言われるんじゃ?」
「だからこその今回のやらかしと、倉庫ダンジョンを一時的に政府側に開放するっていう交換条件を付けるのさ。あともう一つ条件を付けなきゃいけなさそうだけどね、雪香さん?」
そういった秋江は、人の悪そうな表情をしていた。
そして色々話し合った結果、決まった内容はというと
・今回の発信機の件を不問にする代わりに、知佳ちゃんが持っている異次元バッグの政府公認の所持許可を取る
(もちろんそれを持っていることは対外的には極秘扱いとする)
・またそれに伴い、政府およびダンジョンにかかわる公的組織の人員に、最低一度はダンジョンにもぐらせ、神に日本国民であると認められている証を立てさせる
(今後も他国からの余計なちょっかいを出させない、出しにくいようにする)
・それらの見返りとして、倉庫ダンジョンの所在を教え、一定期間のみ政府側にも開放する(他のダンジョンと特段変わりがないことを同時に証明するのが目的)
・知佳の返事次第だが、了解が得られれば異次元バッグの一番容量の少ないものを1つ政府に参考品として提出する
(あくまで体面上は性能調査のための貸し出しとするが、ほぼ差し出す形になると踏んでいる)
こうして談話室では、様々な企みと共に夜は更けていった……
なお、その場にいた葵、楓、榊の3人は、一言も発することなく借りてきた猫のように大人しくしていたという。
そしてその心の中では、知佳のお風呂の手伝いを理由に、早々にこの場を去った玲子を恨んでいたとかいないとか。