自作しますか?いいえ、プロに任せます
二条のお家へ帰ってきて判ったことなのですが、今日から榊さんもここに住むのだとか。
なんでも、今後はダンジョン外では私の秘書的なこともしてくれるそうです。
えっと……わたし、お仕事していないのに秘書さんが付くの?と思っていると、またまた顔に出たのか
「知佳ちゃんはね、気が付いていないかもしれないけど、スケジュールパンパンでしょ?」
「そうだっけ?やりたいようにやってるだけだから、そんな事ないと思うけど……」
「そんな事あるのよ?とはいえ、対外的な連絡事項とかを榊さんが管理してくれたり、率先して連絡や都合を付けたりしてくれるだけだから、知佳ちゃんは今まで通り好きにしていればいいのよ?」
なるほど、そういうものなのですね。よく判らないないけど!
「まぁあれよ、知佳ちゃん専属のメイドさんが一人増えたと思えばいいのよ」
むむ、そう言われると判りやすい……かも?
でも、今までも玲子さんや葵さん、楓さんが色々やってくれてはいたけど、メイドさんと思ったことはないし、手が足りないって思ったこともないんだけど……
あれかな?もしかして私が好き勝手やりすぎて、みんなに負担かけちゃってたのかな?
と聞いてみると
「そうじゃないよ。私たちも現状でもかなり暇なんだけど、榊さんは今まで秘書としてやっていたでしょ?それで急にダンジョン以外でのお仕事がなくなるとただでさえ暇になるうえ、知佳ちゃんが学校に行ってる間はそれこそする事がなくなっちゃうからね、体面上だけでも知佳ちゃんの秘書って事にしておくと何かと便利なのよ」
なるほどー、これが大人の事情って事なのかな?
なんにしても
「それじゃ、これからはお家でもよろしくお願いしますね!」
と、お願いした所、榊さんからも笑顔でお願いしますと言われました。
そして夜ご飯をみんなで食べ、談話室に移動して今日あったことの報告です。
私的にはね、アメリカさんのチームが今までトップを取っていたのを、私たちが取り返しちゃったことによって問題が起こらないか(主に向こうが無理をしないか)を心配していたのですが、どうやらその辺の情報は曾お婆ちゃん達も知っていたようで、大丈夫じゃないかとの事。
というのも、現状でもかなり無理をして進んでいるんじゃないかと予想しているようです。
それは何かというと、精鋭メンバーで1PTを作ってそれをトップチームとし、他のチームはそのチームのサポートとして、稼いだDPの大半をトップチームにつぎ込んでいるのではないかと。
これによって、トップチームのみではあるがそこそこ装備やポーションなども用意できるため、快進撃を続けているのではないか?との事でした。
そんな限界ぎりぎりでやっと23階層に到達した所をこちらではサクッと超えてしまったため、ムキになる可能性は否定できないが、逆にそこまでしてアメリカでトップを行くチームに、これ以上の無理をさせて壊滅の憂き目を見させるような事は、国や軍の上層部が許さないだろうとの見解だそうです。
そして、それよりも話題になったのが私の弓の件で、かなりの戦力になるのが判明したと同時に、この先市販の矢では強度が不足して敵にダメージを与えられなくなる可能性があるという点。
そこで二条グループでダンジョン産アイテムを研究しているチームに、鏃をダンジョン産金属(敵が落とす鉄鉱石)で作らせてみようかという話になりました。
これはね、私も自分で作ってみようかと思っていたのですが、所詮鍛冶や金属加工なんてド素人もいい所なのでね、プロに任せられるならお願いしたいところです。
そう伝えたところ、とりあえずは地球産金属でいくつか試作品を作らせるから、出来上がってきたら試してみてほしいとのことでした。
その話の中でちらと出たのですが、ダンジョン産金属に関しては現段階でいろいろやってはいるようですが、鉄鋼石の精製(鉄鉱石から鉄だけを取り出す行為)がかなり難しいとの事。
その話を聞いて、ん?と思い、私が前に鉄鉱石から鉄を取り出すときは、ハンマーでカンカンやったら簡単に取り出せた件を話すと
「知佳ちゃん、それは何かおかしいよ?普通鉄鉱石から鉄を取り出すには、鉄鉱石を丸々溶かして取り出すんだ」
「んー、私もそう思ってたんだけど、あの時はとりあえず取り除ける分だけでもと思ってカンカンやったらかなり石?の部分が落ちたよ?」
すると、いま鉄鉱石を持っているかを聞かれたので持っていると話すと、ここでやってみてくれないかと言われたので実践してみることに。
崩れ落ちた石で周りを汚さないようシートを引き、その上でカンカンと……あ、当然結界の範囲を広げておきますよ?
そうすると見事に鉄鉱石からぼろぼろと余計な屑が落ちていき、鈍い鉄の輝きが出てきます。
それを見ていた曾お婆ちゃんはじめ、周りの人たちはというと……
「疑っていたわけじゃないけど、さすがにこれは……」
「茹で卵の殻を落とすみたいに簡単に剥がれ落ちていきますね」
「さすが知佳さん、素晴らしいですわ!」
「それ、何か特別なことやってたりするのかい?」
などといわれ、特別なことと言えば結界の範囲内にしていると伝えると
「んー、それはさすがに、他の人には真似出来ないねぇ」
「あと知佳ちゃん、スキルで錬金術持ってたでしょ?それも関係するんじゃないの?」
「あー、結界じゃなくてそっちのおかげなのかな?でも……」
といって、今度は結界を極限まで小さく、それこそ肌の表面ぎりぎりまで狭めてから同じことをすると……
カキンカキンと、先ほどとは違い鉄や石を叩いている普通の音がして、ほとんど削れることはありませんでした。
「おや、今度は何をやったんだい?」
「んと、結界をうんと小さくしたの」
「と言う事は、結界が理由……と言う事になるかの?」
「もしくは、結界と錬金術の兼ね合わせとか?」
「うーむ……」
皆さん悩んでしまいました。
と、そこで榊さんが
「もしかしたら、魔力のある場所で行うと違うのかもしれませんね。どうでしょう、簡易炉を倉庫ダンジョンの結界……半径100mでしたか?そこに持ち込んでやってみてもらうというのは」
「そうだな、以前ランタンで魔力について多少実験してみたこともあるが、ダンジョン産のものを加工するには魔力がある場所の方がいい……か。よし、とりあえず出来る事は全て試してみるか。知佳君、敷地内にちょっとした工房を作りたいのだが良いかね?」
「んっと、問題ない……かな?」
今の話を聞いて、もしこのまま倉庫ダンジョンの周辺がどんどん開発されたらどうしよう……お父さんやお祖母ちゃんとの思い出のある、あののどかな風景がなくなっちゃうのかな?とちょっと不安に思い多少悩みましたが、これも将来のお国のため、ダンジョン攻略のためと思い了承することにしました。
しかし、そんな私の不安を感じ取ったのか
「あぁ、心配しなくていいよ。本格的な建物を建てるわけじゃなくて、知佳君の家とは反対側に少し大きめのプレハブで作業小屋を作るだけで、必要無くなればすぐに撤去することも出来るから」
と言って私の不安を取り除いてくれました。
そんなこんなで今日のお話も終了、明日は一日皇居ダンジョンに行くので、今日はお風呂に入って寝ましょうかね。
そうそう、榊さんの皇居ダンジョンへの立ち入りは無事許可が下りたそうです!
というわけで、おやすみなさーい。
こうしてまた平和な一日が終わりを迎えたのだが、まさか翌日あんな事になるとは、知佳をはじめここにいる誰にも知る由はないのであった……