●あの人は今……(近衛 正秀)
サブタイトルの近藤正秀とは、知佳の義理の父親(と偽っていた男)です。
人によっては胸糞展開かもしれませんのでご注意ください。
いいですか?注意しましたよ?
なお、この話は46話「ポーションを売りますか?いいえ、売りません」および47話「ここは他人の家ですか?いいえ、私の家です」のその後的お話です。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 都内某警察署内留置所面会室 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そこにはうつろな目をして両手に手錠をかけられ、パイプ椅子に座るやつれた男と、きっちりとスーツを着込んだ男が、透明な壁越しに向かい合っていた。
「あなたには本当に失望しましたよ。まさかこんなに早く失敗するとは」
「そんなこと言ったって、途中まではうまくやれてたんだ。それなのに御影のせいで……」
どうやら二人は既知の関係のようだが、スーツの男のほうが立場が上のようだ。
「そうは言いましてもね。あなた方がきちんと見かけ上だけでも家族を演じていれば、こんなことにはならなかったと思いますがね?」
「そんなこと言ったって、あんな連中が関わってくるなんて誰も教えてくれなかったじゃないか!そもそもあのガキが素直に言う事を聞かないのが悪いんだっ!」
男はそう言って目の前のテーブルをたたきつけた。
しかし、それを見た監視の警官が咳払いすると、両手をまた膝の上に戻し話し出した。
「そもそも、上からの指示は近衛家を乗っ取れってだけだったじゃないか。それは上手くいっていたんだ……」
「なぜあれで上手くいっていたと言えるのですか……せめてあの子と養子縁組をしていればまだやり様はあったんですけどね?」
「それは、息子の龍一が将来妾にするから駄目だと……それに妻のゆみ子も拒否していたし……そうだ、ゆみ子の言う事には逆らうなっていう上からの指令もあったじゃないか!!」
「でもね、そのおかげで我が国はせっかくのダンジョンを一つ手に入れそこなったのですよ?」
その話を聞いてやつれた男は愕然とした顔をし
「だ、ダンジョンだと!?あの土地にダンジョンができたっていうのか?」
「そう、上手くやっていればあなたはあの家の資産だけでなく、ダンジョンから上がる膨大なお宝が手に入ったかもしれなかったのですよ」
「く、そ、そんな……そんなこと事前に予想できるわけがないじゃないか」
「まあ、そうなんですけどね。それでも、上の方はカンカンでね?ダンジョンの土地をうまく使えば日本に対してとても有利に動けたというのに。ですので、それをふいにしたおバカなあなた方家族は我が国に存在していたという痕跡をすべて抹消するそうですよ?」
「な……俺だけじゃない……だと……」
「そう、あなただけでなく、奥さんと息子さんもです。ああそうそう、あなたと奥さんそれぞれの実家でも、あなた達が存在していたという証拠はすでに一切合切処分したそうです」
そのセリフを聞いた男は顔を青ざめ、机に突っ伏して頭を両腕で抱えるようにしながら震えていた。
「だが、俺はあそこまで頑張ったのに……」
「何をどう頑張ったのかは知りませんが、結果が全てですよ」
「くそっ……御影さえ、御影さえいなければ……」
その時、監視の警官が時計をちらと見ると
「そろそろ時間だ」
「もうですか?もう少しいいじゃないですか」
「これ以上は上をごまかしきれない」
それを聞いてスーツの男は仕方ないという表情をした後、最後にやつれた男に対して
「今我が国では、あなた方は国家反逆罪が確定しています。存在を抹消されているとはいえ、もし国に帰ってきたら……どうなるかわかりますね?では、いい余生を……」
そう最後に残してスーツの男は去っていった。
……
監視をしていた警官は、面会室を出ると周りに人がいないことを確認し、おもむろにスマホを取り出してどこかへ電話をかけた。
「私です。対象は今帰っていきました……」
『今回は相手からコンタクトがあった段階でこちらに連絡いただき、その後全面的に協力していただけたので不問としますが、これからは十分注意してくださいね?』
「はい、はい……本当に申し訳ありません。以後このようなことが無いよう十分注意します……」
『それと、今回の件は超法規的措置ですので、くれぐれも……』
「はい、誰にもこの件は……」
『そうそう、たとえ私からでも今回の件は一切知らんぷりを通してくださいね。今回のこの面会は無かった、そういう事です』
「はい、それはもう。では録音データは後程……はい、失礼いたします」
こうして、本来なら面会記録簿に記録されるはずの面会は無かったことにされたのであった。
この一家三人はしばらく後に高度な政治取引の結果、スパイとして日本のもっとも友好関係にある国に引き渡され、そこで様々な情報を引き出されることになったとかならなかったとか。
なおこの件については、二条知佳に多大な恩のある日本政府の高官がその恩を少しでも返すため、今後二度とこの一家に会う事が無いよう配慮した結果であることを知るものは少ない。